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フロリーss(仮) その2 中盤

作成中のフロストリーフとドクターの小説の一部です。

ーあらすじー
テーマ:氷・約束
果たせなかった約束と、永遠に溶けない言葉。

Day1
恋人同士のフロストリーフとドクターはいつものようにバーで晩酌を交わし、次に飲む酒を決めて会う約束をした。
酔いが回り距離が近くなるにつれフロストリーフの鼓動は高まっていく。
そんな彼女にドクターはとある願いを伝えるものの、それをきっかけに喧嘩別れしてしまう。
フロストリーフはドクターとの今ある幸せを大事にしようとし、ドクターは自分を通過点として成長し巣立っていってほしいと願ったのだ。
生きていてほしい、その想いは同じくして二人はすれ違い素直になれない自分を呪った。

Day2
もう恋人として会うことは叶わないと消沈するフロストリーフはエレベーターでドクターと偶然会う。
言葉を伝えることはできなかったもののまた会う約束をする。二人はその希望を胸にお互いの戦場へと向かった。
しかし廃都市での救援活動中、敵から味方を守るため単身囮になるフロストリーフは強敵を相手に技量と経験で善戦するも、徐々に追い詰められ死亡してしまう。
再びドクターが恋人と会ったとき、彼女は感染者を収容する黒い棺の中にいた。
約束が果たされることはなかった。

Day3
恋人の死亡と裏腹にドクターは仕事を言い訳に彼女が残したものに目を向けられずにいたが、とあることをきっかけで彼女の遺品を手にした。
そこには彼女の想いと願いが拙い文字で綴られていた。普段から死に急ぐように仕事をするドクターの健康を思ったものだった。ドクターは彼女の思いを無駄にしないためにもフロストリーフに向き合い自らを変えていく。
この世にフロストリーフはもういないが、その約束が違えることはなかった。


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※Day2中盤。フロストリーフが囮になり戦闘・負傷するシーンです

R18 / R18G要素があります 

ご注意ください


ヘリが作戦区域に到着した後、部隊は救難信号が発せられた場所へ移動した。廃棄都市のあちこちにある源石の塊が天災の被害を露わにしている。幸い接敵はなく現地の人間との通信も繋がり、問題なく現地に到着した。

巨大なモールの奥にある管理室に突入した部隊は、少なくない負傷者・感染者を発見し手当てと状況確認を行うと、不明な点が出てきた。
救難信号を発したのはここにいる人間だが、先の通信は誰一人としていなかったのだ。

這い寄る嫌な予感。フロストリーフはこの感覚をよく知っている。
その時だった。屋上で偵察していたオペレーターから報告が入った。
杞憂であってくれーーそう願いながら足早に屋上へと向かった。

モールから遠くない位置に炎と黒煙が上がり空を黒く染める。偵察オペレーターも様子を伺っている。
「何が見える?」
その報告は重苦しい。
「まずいな......サルカズと重武装兵が数人、軽歩兵……最低でも十数名見えます。もっとまずいのが、このままだと帰還中に鉢合わせます」
「くそ、どっから出てきやがった?」

無理もない。民間人を抱え軽歩兵が主なこちらの戦力では到底対処できない。奴らの目的は不明だが手を打たないと全員が危険に晒される。

フロストリーフは下にいるオペレーターに通信をかけた。
「医療班、患者はあとどのくらいだ?」
「あと数人で終わります」
「わかった。急いでくれ。頼む」

フロストリーフは考えを巡らす。
移動はできるがこの人数ですり抜け突破するのに速度も戦力も足りない。ここに隠れても捕捉されるのは時間の問題だろう。
ヘリがくるのはあと30分。回収地点もここからそこそこ近い。逃げ回るのも待機するのも危険。

ドクターがいれば、そう思わずにはいられなかったが希望はまだあった。
「私が行こう」
正気を疑う提案にオペレーターの声は荒ぶった。

「え?無茶です!交戦するなら自分らも!」
「ダメだ、あの人数だとどのみち潰される。私が集合地点からできるだけ奴らの主戦力ごと引き離す。それしか方法はない」

「逃げ切れませんよ!回収地点を変えるべきでは?」
「ヘリの到着を見られる。奴らが遠ければそのまま逃げ切れる」
彼女は本気だった。

「奴らをまとめて相手出来るのは私だけだ。その間部隊を頼みたい」

フロストリーフは他にも気になったことがあった。
大まかに場所が把握されたとはいえ、この環境で通信してきたのだ。相手は間違いなくロドス狙いの傭兵だろう。
回収地点をギリギリまで悟らせないために主戦力を分断する。そして練度の高い敵を相手しながら陽動する。それが出来るのはフロストリーフしかいなかった。

彼らもそれを薄々と察していたのか押し黙った。悲しげな目を向けながら重々しくその口を開いた。

「それは命令ですか?」
「......そうだ」

死ぬつもりはない。自分以外の誰かを守ってあの数を相手するのは初めてだったが、相手にすることは今までもあった。
悔しそうに俯く彼らの肩を叩き、フロストリーフは激励した。
「ちゃんと生きて帰るさ。そっちは頼んだぞ」
「了解…….応援がいるならすぐ連絡してくださいね。ご武運を」
「ああ」

死ににいくような戦場にに仲間を送るしかない彼らはやるさなさを隠せなかった。何かを言いたげな視線を感じたが、あえて無視しその場を去った。

フロストリーフは目を閉じ約束を思い起こす。
「(そうさ。ドクターと話すことは山ほどあるからな)」

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数分後、フロストリーフ達は所定の位置についた。
「こちらフロストリーフ。こちらはいつでもいける。そっちの準備は?」
「こっちも大丈夫です。いつでも合図を」

物陰から耳を澄ませると足音と声が聞こえてくる。この地域にいるのはロドスかそれ以外。チラリと覗くと、凶器を持った暴漢たちが見えた。間違いなく奴らだった。ヘリの到着まで残り20分。その間は彼女一人だ。

「(こういうのは、久しぶりだな)」
髪をかきあげグリップを握り締める。この数に仕掛けるのはやはり危険だが今行かないと味方が危ない。やるしかない。
「突入する」

通信機をしまうと全身の毛がより立ち意識が尖った。
歴戦の傭兵はそのオーラを纏う。
フロストリーフは深呼吸し窓枠に乗り出すと、縦に展開した歩兵の中央目掛け一気に飛び出した。

「やあぁぁ!!!!」
アーツが血液のように体を流れ刃に氷の結晶と青い光がまとわりつく。着地に合わせ発した衝撃波が四、五人を吹っ飛ばし粉塵と吹雪が巻き上がった。

彼女は間を開けず斧を素早くふるい、敵が最後に見えた位置に向け斬撃をまっすぐ飛ばした。
青白い光が煙に消え、うめき声と断末魔、敵が臨戦体制に入ったやりとりがとどめなく続く。

そこに目掛け突貫するフロストリーフ。着地からわずか5秒。奇襲を受けた慌てふためいた敵の腹が切り裂かれていく。
リーチと質量に優れた斧と刃が欠けた不揃いなマチェット。歴戦の傭兵と素人同然の戦闘員。混乱した部隊は一気に瓦解し、立っている者はみるみるうちに減っていく。
一二、三、五、七八。

叶わないと悟った敵が化け物を見る目で彼女を見るや、仲間のところへ逃げ出した。落ちたナイフを拾い上げる。
「(逃すかーー!)」
投げられたナイフが奏でる風を切り裂く音、肉を突き刺さる音、肺から空気漏れる音。
割れたコンクリートに血痕。覚えている顔はもう見えない。
「(...…ここのやつは一人残らず倒した、ならーーー)」

煙が薄れ始め少し離れた弓兵が銃口を向けた。
「見えたぞ!撃て撃て撃て!!!」バシュッバシュバシュッ!!
弧を描き殺意の塊が頂点に達した頃には、フロストリーフはその場にいなかった。曲がり角に隠れ様子を伺うと、晴れた煙幕から弓兵と例のサルカズが見えた。

「(向こうの奴らは少しは骨がありそうだな)」
雑魚が八ほど、サルカズが二。血眼になりながらも統率が取れているのか指示を受けた雑魚が走ってきた。
サルカズとやり合うのは得策でないと考えたフロストリーフは、迎撃せず同じく走り出し近くの建物に入り階段を登っていく。

階段下から怒号と複数の足音が響き渡る。声の中に例のサルカズも釣れたのか奴の声も聞こえきた。
「急げ逃すな!」「奴は上に向かってる!!」「残りは建物を囲め!」
「(そのまま来い)」

バタン!
扉を開け屋上に出ると、助走をつけ棒高跳びのように斧を使い隣の屋上へジャンプした。数秒の風切りと浮遊感。
スムーズな受け身から後ろを伺うと足踏みする雑魚。
追ってきたのだろうが間が10mもある以上簡単には来れず、ドタドタとドアへ戻って行った。傭兵の頃からパルクール同然の機動をやってきた彼女にとってこの程度造作もない。
ドローンが数体上がってきたがすぐに切り伏せた。
このまま引き摺り回す、そう思った瞬間だった。

ヒューーー

ピクッ
敏感になった耳が跳ね何かが飛んでくる音が聞こえた。
遠くから、空から、一度早かったものが減速し、再び加速する音。
「(砲げ……!)」ドゴーーーーン!!!!

フロストリーフがいた場所が消し飛び炎と瓦礫が舞う。
すんでの所で避けたものの至近距離に着弾で吹き飛ばされ、服と肌が焦げついた。

「がはっっ!!」

ヒューーー
合間も開かず甲高い音が近づいてくた。急いで立ち上がり隣のビルを見たが先の機動でも難しいほど遠かった。
入り口は反対側。降りる前には着弾するだろう。

行くしかない。助走も碌にないまま飛ぼうとしたが爆風で姿勢が崩れた。数秒の浮遊と空と地上が視界に移り変わりながら、重力に引かれ車の上に落下した。金属が彼女の体を受け止め、頭に金切音が響いた。
切れたのか血が目に滴り落ちる。

うめくフロストリーフは車のボンネットからずり落ちた。
至る所が痛い。武器を取ろうとすると右腕に激痛が走った。
中がずれて刺さるような痛み。おそらく、骨折。

「奴は落ちたぞ!ついてこい!」
声が聞こえ火で照らされた影が壁にゆらめいた。フード姿に上に向かって伸びる歪なツノ、ナタに大剣の影。
彼女はすぐ武器を掴むとガラスの割れた店に滑り込み裏口を抜けた。
片腕が使えず、数分も経たないうちに体の動きが鈍り始めてきた。

疑問が浮かぶ。
「(なぜこんなに正確なんだ?ドローンは全部片付けた。予備機?それとも素敵アーツか?アーツロッドを持った奴はいなかった。潜んでるのか、厄介だな.....)」
ステルスの敵は直接発見するか素敵アーツを使って探知するしかない。しかしフロストリーフにそんな術はない。利き腕は使い物にならず時間も経ってない。
今の彼女は完全に一人だった。


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ドアを開けると狭い裏路地が広がっていた。左は行き止まりで、溢れたゴミ箱に錆びた階段、配管から水が漏れ大きな水たまりができていた。ここで鉢合わせたら蜂の巣だ。
チリまみれの廃墟では痕跡など簡単に残る。奴らはすぐに尻尾を掴むだろう。
彼女が急いで通りへ出ようと駆け出した瞬間。歪なツノの影が一ーー片割れにいた双剣持ちのサルカズーー彼女を見るなり突っ込んできた。

フロストリーフはすぐにアーツで通路を横難ぎするも、奴は壁を蹴って更に加速。一気に問合いを詰められた。

ガキン!!ガンッガンガン!!
激しく当たる金属。飛び散る火花。咄嗟に刃を受け止めるも速度と体格差で弾かれ、手数に押され始める。
狭い通路で斧はうまく振り回せず刃先や肢が壁に当たる。殺すには勢いがあまりにも足りない。

追い詰められ迫り来る死に体が悲鳴をあげた。激痛が走り一瞬だが力が入らなくなった。殺しのプロはその隙を見逃さない。鋭利な刃が彼女の右腕を切り裂いた。

「っっく!!」
血と布が飛び散る。次の勢いを殺しきれず、腹を蹴られ転がされた。
視界の端にとどめを刺すべく走り出すサルカズ。

「(やられる…!!!)」

フロストリーフは奴の足が水たまりに足を入れた瞬間を狙い、アーツがそれらを凍て付かせた。深かったのか激しくもがくも動けなくなっていた。彼女は武器を拾い一気に振り下ろした。
アーツを纏った刃が男を凍らせ、肉と骨が砕ける音が鈍く響く。凍り白くなった体から鮮血が滴り落ち男は崩れ落ちた。
彼女は刃を胸に突き立てた。

ーーーー倒した

張り詰めた感覚が緩むと右腕の感覚がもろに脳に流れこんだ。
焼け付くような不愉快さに彼女は壁に寄りかかる。歯を食いしばるがあまりの痛さに息が乱れる。
切れた頭皮が髪を赤く、酸欠とアーツの酷使で視界を黒く染め、嘔吐した。

マシになったがその命は弱々しい。足取りは重く、愛用の武器は脆弱な命を押し潰そうと重くのしかかる。
子鹿のようによろめきながら、斧を杖代わりに歩き出す。

「(ーー行かないと……まだ、まだ敵が来る)」

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どれだけ走っただろうか。気づくと廃墟の一室に来ていた。息を切らしながらドアを閉め台所の影に崩れるように身をかがめた。
窓から武器が見えないように置き、応急処置をしようと上着をそっと脱ごうとした時、布が傷を撫でた。

「っっ......!!」

爛れるような感覚に襲われ逃げるように顔を背けた。
歯を食いしばり悲鳴を必死に抑えながら、鎮痛剤を太ももに注射すると白光がチラつき吐き気が溢れてきた。口を押さえながらゆっくりと息を整え、腕を一瞥した。

見るも無惨だった。
剥き出しになった骨。皮が破けて抉れでた筋肉。脈打つ血管から滲み出る鮮血。腕や服に垂れた血痕。床にできた灰色と赤色の足跡。
命を刈り取られた痕が彼女をひどく蝕んでいる。

応急処置程度で使える状態にできないのは明らかだった。
二の腕の源石が周りに共鳴しズキズキと響く。
本能が死を告げている。
少年兵時代に何度も味わったその匂いが、今日はやけに近い。

「ハア、ハアがっっゲホっ!!」

息をするたびに冷たい空気が肺に入りこみ激しく咳き込んだ。足も右腕も頭も背中も脇腹も、身体中が痛い。

痛い。痛い。苦しい。早く楽になりたい。

フロストリーフは薄々と気づいていたーーもう逃げられない。
そろそろヘリが来る。ギリギリまで引きつけて突破するしかない。
しかしこのまま戻れば味方を危険に晒す。もし戦うとなると弓はまだしもサルカズが一人残っている。

ドクターに会いたい。死ねない。

早く移動しないと追いつかれるが、酷使した体でどこまで逃げ切れるか。尻尾を掴まれれば何をされるかは目に見えている。そうなった仲間も見てきた。今度は彼女自身の番かもしれないという恐怖。
震えが止まらなくなった。

いやだ。いやだいやだいやだいやだ。怖い。やだ。死にたくない。

丸くなり体を抱くように縮こまった。過呼吸で霧がかった思考にあり得るかもしれない未来でいっぱいになった、その時だった。

ピピピ、ピピピ、ピピピ
通信機が鳴った。フロストリーフはゆっくりとイヤホンに手を当てると、馴染みある声が流れてきた。

「フロストリーフさん!こちら本隊の~~です!聞こえますか!?」
雑音に混じって聞こえたのはさっき屋上で話した声だった。
すぐに交信ボタンを押した。

「こ、こちらフロスト、リーフっ。聞こえる.......」
希望が見えた彼女の声が思わず上擦った。
仲間の無事がわかると無線の声が一段と大きくなった。

「無事ですか!?状況は!?」
フロストリーフは口を開こうとしたがすぐに唇を噛み締めた。一人のために応援を頼むのか?ーーー通信機を握りしめた。
撤退するだけなら勝機はあるが、ここの距離はどこくらいだ?
ーーわからない。

そのとき、ふとドクターとの約束が頭をよぎった。
ドクターの声が何度も反響する。
「(会って、また話そう)」

まだ、まだ死ぬわけにはいかなかった。諦めたくない。
間を開けてフロストリーフは状況を報告した。
「負傷して、隠れてる.....突破する手助けが欲しい......」
場所を知らせるマーカーも送信すると、すぐ返答がきた。

「わかった!救援に向かう!それまで持ち堪えてくれ!」

フロストリーフがこうして他人に泣きつくのはプライドが許さなかったが、一人が好きな彼女が仲間を信じられるようになったことに、皮肉ながら思わず笑みがこぼれた。

「ごほっ.....感謝するっ」
通機をしまい壁に寄りかかり横から差し込む光を見上げた。痛みに苛まれながらも安堵で気が緩み縮まった体が伸びる。

「(大丈夫、希望はある。こんな傷、すぐにでも治して.....)」


ズヒャ!!!!
何かが窓ガラスを破り床とカーペットに突き刺さった。
視界がクリアになり体がこわばった。弓矢が彼女の足元に何本もあった。長年戦場にいた彼女はこれが何を意味するか知っている。

殺意 捕捉された ここにいれば

フロストリーフは本能で立ち上がりドアに向かおうとするが、休んでいた全身からあらゆる激痛が一気に流れ込み、足をくじき限界を迎えた彼女は床に転んだ。武器と家具が大きな音を出し、落ちた皿と埃が傷口に染みた。
命が滴り落ちていく。

「ぅあ......」

奴らの声が聞こえ始め、締けて殺意の塊が手び飛んできた。より近くに突き刺さる。死の匂いが嫌でも濃くなったのがわかる。

「チッ......クソ!!!」
斧を拾い手負の体を必死に声の反対側へと運んでいく。声の反対側に回収地点がありこの方向に逃げれば合流できると、酸素も血もなくなりかけた頭で考えた。
そのあとはひたすら無心で廃墟を降り、ひび割れたコンクリートをガラスの間を煙の中を、傷ついた体で必死に駆けていった。


ーーーーーーーーーーーー
どれだけ走っても怒号が止まらなかった。引き剥がせない。どれだけ近いかと振り返る余裕はなかった。今足を止めれば命はない。
彼女の意識は呼吸と走ることで精一杯になっている。
目の前にあった影が何かがわからなかった。避けきれずまた床に倒れ込んだ。

うめきながら頭を上げると"それ"が大きく動いた。鈍く光る切先。ドクターより一回り大きい人影。
サルカズ。大剣。あの顔。

全身の血が凍った。斧は男の足元。
立とうとするが刺さった矢と全身の傷がそれを許さない。
死ーーーー

男は大剣を掲げ今にも殺そうと見下ろしていたが、そんなフロストリーフを見るや突然笑い出した。
「ワッハッハッハ!!」
そして斧を蹴り飛ばした。金属がガリガリと床をなぞり彼女の近くで止まった。

「とっていいぞ」

「お前......!!」
弄ばれ懸命に睨みつけるが、床に突っ伏した状態では男のニヤケ顔を誘うだけだった。
何をしてくるか薄々と気づいてはいたが彼女に選択肢はない。

動く左腕で這いながら武器に手を伸ばした。
歯を食いしばりその肢を掴んだ瞬間、左腕がひしゃげた肉になった。彼女はただ声を上げるしかできなかった。

「うっあ“あ“ぁぁっっ!!はっっあぁ、あ、ぁぁ.....!!」

今までに経験のない痛みがフロストリーフを襲った。
命が心拍に合わせ剣と床に漏れていく。裂け目から異物を抜こうとするが血で滑りびくともしない。

男は雑に剣を抜き彼女を蹴り飛ばした。彼女はされるがままに壁に打ち付けられる。

「ちょっと聞かせてくれ、お嬢ちゃん?」
立ち上げることすらできない彼女は胸ぐらを掴まれる。男は笑顔と裏腹のドスの効いた声で言った。

「ドクターの居場所を教えろ、それで楽になる」
フロストリーフは目を大きくした。こいつはドクターが目当てだと思うや否や失われた殺意が首をもたげる。力を振り絞り股間を蹴り付けた。

男は驚いたように足を閉じたが、すぐに笑顔をむけた。
フロストリーフは脇腹を蹴られ内臓が潰れ息が止まった。間髪入れず床に叩きつけられ執拗に腹を蹴られ続ける。

ドクターはここにはいない。それを知られれば確実に殺される。仲間に刃を向けられる。何度も蹴られ殴られたがフロストリーフは呻き声を上げながらも、決して口を割らなかった。


ピピッピピッピピッピピッ
男の通信機が鳴った。不機嫌そうにそれを取ると動かなくなった彼女から離れ話し始めた。
「ああ?.…..いない?確かか?.....チッ。ハズレだな、撤収するぞ」
通話が終わり、代わりにカチャカチャと音がし始める。

ボロボロになったフロストリーフがゆっくりと目を開けた。
「(終わった......?)」
今なら逃げられるかもしれない、そう思い顔を上げると生殖器が目の前に突きつけられた。卑猥さとグロさが混じった性欲。先端がヒクつき値踏みするように彼女を視姦する。

これからされること、女が殺される前にされることを察したフロストリーフは、恐怖で声が震え、痛みを忘れ暴れ出した。
「や、やめろっ、それを、こっちに.......」
抵抗しようと男の腕を掴むが手負の彼女など赤子同然だった。すぐに股を開かされ下着に手をかけられる。

「てめえのせいで随分死んじまったからなぁ〜。体で払ってもらうぜ」男が耳元で囁いた。
逃れなれない絶望に、フロストリーフはただ声を上げるしかできなかった。

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