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フロリーss(仮) その1 後半

作成中のフロストリーフとドクターの小説の一部です。
ーあらすじー
テーマ:氷・約束
果たせなかった約束と、永遠に溶けない言葉。
Day1
恋人同士のフロストリーフとドクターはいつものようにバーで晩酌を交わし、次に飲む酒を決めて会う約束をした。
酔いが回り距離が近くなるにつれフロストリーフの鼓動は高まっていく。
そんな彼女にドクターはとある願いを伝えるものの、それをきっかけに喧嘩別れしてしまう。
フロストリーフはドクターとの今ある幸せを大事にしようとし、ドクターは自分を通過点として成長し巣立っていってほしいと願ったのだ。
生きていてほしい、その想いは同じくして二人はすれ違い素直になれない自分を呪った。

Day2
もう恋人として会うことは叶わないと消沈するフロストリーフはエレベーターでドクターと偶然会う。
言葉を伝えることはできなかったもののまた会う約束をする。二人はその希望を胸にお互いの戦場へと向かった。
しかし廃都市での救援活動中、敵から味方を守るため単身囮になるフロストリーフは強敵を相手に技量と経験で善戦するも、徐々に追い詰められ死亡してしまう。
再びドクターが恋人と会ったとき、彼女は感染者を収容する黒い棺の中にいた。
約束が果たされることはなかった。

Day3
恋人の死亡と裏腹にドクターは仕事を言い訳に彼女が残したものに目を向けられずにいたが、とあることをきっかけで彼女の遺品を手にした。
そこには彼女の想いと願いが拙い文字で綴られていた。普段から死に急ぐように仕事をするドクターの健康を思ったものだった。ドクターは彼女の思いを無駄にしないためにもフロストリーフに向き合い自らを変えていく。
この世にフロストリーフはもういないが、その約束が違えることはなかった。

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※Day1 喧嘩別れするシーンです

コツコツと廊下に響く足音。薄暗い空間。電子音とともに扉が開いた。
重いまぶたから自室が垣間見える。

フロストリーフの部屋は一般オペレーターのそれと同じく、机とベットと簡素な作りになっている。斧とノートが丁寧におかれ、月明かりがシーツを照らす。

ドクターが腰を下そうとすると、少女が拒むように四肢を絡めた。
男特有の匂いにアルコールの香りが流れ力がこもった。心地よい鼓動。硬い背中。全身でドクターを感じる。

「どくたー」

離れたくない。酔いを言い訳にして甘えているのは自覚していた。
こんなことシラフじゃできないから。
ドクターに迷惑をかけているのはわかっていた。
でも今は離れたくない、そばにいてほしい。

「フロストリーフ?」
声をかけられ夢から覚めた。

「(何をしてる、私は.....)」
秘書から外れても付き合ってくれてる優しさに漬け込んで。それに飽き足らず未練がましく縋って。己の弱さに嫌気がさした。
これ以上迷惑をかけまいと緩めようとすると、ドクターが先に切り出した。
「大丈夫だよ。今は二人きりだからね」

葛藤は一瞬にして消え去り、コートに手をかけ顔を埋めた。
「少しだけ、少しだけ......このままでもいいか.......?」
ドクターは黙って受け入れた。

彼女はこの瞬間を噛み締める。
決して手放さないように。決して壊さないように。



束の間の感覚を楽しんだフロストリーフは名残惜しそうに離れた。
「すまない......少し甘えすぎた」
冷たい空気が流れ込み熱を奪っていく。
俯く彼女にドクターが映り込み、白く柔らかいほおが包まれた。

「ん.......」
体が、心が溶けていく。満たされていく。どくたー。
甘い時間に浸っている彼女にドクターのニヤケ顔がのぞいた。
「甘えたい年頃だしね」
「むぅ......違うぅ」
断じて違う、私はただ素直になりたいだけだ。
ほおを膨らませそっぽを向くフロストリーフはリスのようだった。

「フロリーはこれからだからね」
ふと言われたその意図がわからなかった。
「いつか自分の道を選ぶ時が来る。そこに私がいるとは限らない。フロストリーフには離れることに勇気を持って欲しいんだ」

なんだ、その不愉快な物言いは。こうして一緒にいるじゃないか。
優しい口調とは裏腹のまるで他人事一ー縮まった距離が今は突き放されたかと思うほど遠く感じた。そんな事はないと言わんばかりに言葉に力がこもった。

「ドクター。私は離れない。お前がいくところに、私もいく」
傭兵、戦友、恋人。苦楽を共にした間柄はいつしか強い絆を生む。
本心をはっきりと伝えると、ドクターは驚き困ったようにはにかんだ。それが最後の微笑みとは思ってもみなかった。

「それに拘る必要はない」

先とは一転した声はフロストリーフを震わせ、得体の知れない何かが音を立てず忍び寄る。思わずシーツを握りしめた。
「ド、ドクター。何を、言ってるんだ……お前は、私と一緒に……」
いたくないのか?ーー

大切な場所とようやく手にした幸せを一番大切な人に否定されたくはない。最後まで問いかけることはできなかったが、目を背けた彼の沈黙が答えになった。
生気を失ったように青白くなり、赤い双眸に涙が溢れた。

「なんで、どうして……..」
肩を掴み縋った。否定してくれーーー
「どうして!お前は、私はただの遊びだったのか!?」
嗚咽で掠れた声で叫ぶ。信じたくないーーー
「今までの時間は、なんだったんだ……」
弱々しく崩れ落ちた。壊れてゆく思い出。涙が床を濡らす。

芯まで凍りつく寒さが襲いかかった。
慕う人に信じがたい事実を突きつけられ、泣くしかできなかった。

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しばらくすると軽い足音がドアの方に向かっていくのが聞こえた。静かになった部屋を背を向け足を進める男に低い声でつぶやいた。

「私に将来のことを考えろ、そう言いたいんだな」
ドクターが振り向くと、少女は少年兵だった頃と同じ目でドクターを見据えていた。泣き腫らした目は影を落とし、静かな憎悪が満ちていた。

「なら何がお前を死に急がせる」
「……話の意図がわからない」
隠してるつもりなのだろうか、この男は。
彼女に目もくれずとぼける男に苛立ちが募っていく。大切なものを奪われそうになった少女はそれを抑える手段を知らない。

「徹夜に理性剤の過剰摂取。知らないとは言わせないぞ、ドクター。
私が秘書を離れてから明らかにひどくなってる。将来に目を向けろという割に随分と“ずさん“な健康管理じゃないか。お前のいう成長は今ある自分を蔑ろにする意味なのか?」

「私にも責任がある。それを……」
そんなのが聞きたいんじゃない。御託はたくさんだ。
「あの白うさぎか」
レユニオンの指揮官でありロドスの一員となったあの戦士。
割って入った言葉に沈黙が続いた。戦士として戦ったが、今のドクターとのやり取りでいつになく腑が沸わたっていた。

「お前にすべきことがあるのは知っている。だがそれは今を生きる人間のためでもあるべきじゃないのか」
「私は未来のために戦っている。それに彼女はこれとは関係ない」
「それがお前自身を傷つける理由にはならない」
「甘い覚悟では戦えないのは君とて知っているはずだ」
わずかにドクターの目線が逸れた。

「話を逸らすな。お前はただ逃げてるだけだ。私からも、お前自身からも」
「冷静さを失えば死ぬだけだぞ、傭兵」
ふざけるな。
いつまでもシラをきる男を押し倒した。ひ弱な体は簡単に地に組み伏せられ少女は逃げ場を与えないように胸ぐらを掴んだ。
二人の距離は鼻があたりそうになる程、二人の付き合いで一番近かった。

フロストリーフはドクターの態度を追求しようと頭に言葉を並べたが、真っ先に出てきたのは違うものだった。
「私と付き合っていたのは、あの女を重ねたからか?」
自分でも驚くような低く、そして弱々しい声が男にかけられた。
目を見開くドクター。戦慄くフロストリーフ。

だが再びの沈黙を許すほど彼女は甘くなかった。

「答えろ」



「答えろドクター!!!!」
静寂に響きわたる怒号。
ドクターへの、ドクターの態度への、今まで私を弄んだことへの、執拗に私を戦いから遠ざけようとしたことへの怒りが爆発した。

「お前が私だけじゃなくあの白うさぎすら侮辱したんだ!!!!お前やロドスの理念に少なからず賛同したからお前と一緒に戦いたいと思った!!!それなのになんだ!!!私の思いも、お前のために戦ってきた奴らの覚悟すら冒涜したんだぞ!!!それがお前の、私への信頼なのか!!??」

男は何も答えなかった。ただ受けれいているかのようにじっと目を離さない。それがまるで自分とは無関係だと、ただ子供の癇癪だと全く気にかけていないよう見え、私は深く失望した。
この程度だったのか、この男は。

「……お前に預ける命はない、出ていけ」

顔すら見たくない。肩で息をしながら拳を握りしめる。
気づけばフロストリーフは一人になっていた。
一度は傭兵として戦友として信じたドクターはそこにいなかった。

取り残されたフロストリーフはベットへ倒れ込み怒りが冷めるにつれ、その対価が突きつけられる。

ーーー違う
ドクターは信頼を裏切る人じゃない。
いつだって相手を思ってくれてる。
さっきのだって依存しがちな私に説教してくれたはずだ。
それなのに皮肉を吐き捨てて。突き放して。

私はあんな事を言いたかった訳じゃないのに。
でも急にあんなこと言われたから
違うそんなの

なんで
ああ
私は  なにを

親を失った幼い頃のように膝を抱え怯えるフロストリーフを抱きしめる者はいない。
彼女はまた一人になった。

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