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フロリーss(仮) その2 冒頭

※ 作成中のフロストリーフとドクターの小説の一部です。

ーあらすじー
テーマ:氷・約束
果たせなかった約束と、永遠に溶けない言葉。

Day1
恋人同士のフロストリーフとドクターはいつものようにバーで晩酌を交わし、次に飲む酒を決めて会う約束をした。
酔いが回り距離が近くなるにつれフロストリーフの鼓動は高まっていく。
そんな彼女にドクターはとある願いを伝えるものの、それをきっかけに喧嘩別れしてしまう。
フロストリーフはドクターとの今ある幸せを大事にしようとし、ドクターは自分を通過点として成長し巣立っていってほしいと願ったのだ。
生きていてほしい、その想いは同じくして二人はすれ違い素直になれない自分を呪った。

Day2
もう恋人として会うことは叶わないと消沈するフロストリーフはエレベーターでドクターと偶然会う。
言葉を伝えることはできなかったもののまた会う約束をする。二人はその希望を胸にお互いの戦場へと向かった。
しかし廃都市での救援活動中、敵から味方を守るため単身囮になるフロストリーフは強敵を相手に技量と経験で善戦するも、徐々に追い詰められ死亡してしまう。
再びドクターが恋人と会ったとき、彼女は感染者を収容する黒い棺の中にいた。
約束が果たされることはなかった。

Day3
恋人の死亡と裏腹にドクターは仕事を言い訳に彼女が残したものに目を向けられずにいたが、とあることをきっかけで彼女の遺品を手にした。
そこには彼女の想いと願いが拙い文字で綴られていた。普段から死に急ぐように仕事をするドクターの健康を思ったものだった。ドクターは彼女の思いを無駄にしないためにもフロストリーフに向き合い自らを変えていく。
この世にフロストリーフはもういないが、その約束が違えることはなかった。

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※Day2の冒頭、エレベーターシーン

モーター音と共に階層の数字が上がっていく。
エレベーターの壁に寄りかかるフロストリーフ。着くまでの何もない間が昨日のやりとりを思い出させる。目を閉じればドクターの表情と取り返しのつかない発言がいやでも脳裏に浮かんでくる。
「(あんな言い方をするなんて......)」
はあ。
ドクターの強情さも大概だ。普段から散々言われているのに全く改善しないのはどうかと思う。しかし冷静さを失って強い言葉で怒鳴ってしまった自分にため息が漏れた。何より一緒に飲むのはしばらくないだろうという事実が胸を締め付ける。腹から湧き上がる吐きたくなるような不愉快さを誤魔化すように、唸り毒づくフロストリーフ。
「チッ」
行き場のない怒りを壁にぶつけた。その反射が痛みに変わる。
「(今度は頭を冷やして話さないとな........)」

すると重力がかかりエレベーターが減速し始め、PRTSの音声と共に開いた扉から既視感を覚える靴とコートが垣間見えた。少し間をあけ、その人物が乗ってくる。
顔を上げると見慣れた顔が、会いたくないが会いたい人がそこにいた。思わず目が見開き、暴れる心臓を抑えるように斧を握りしめた。
「(ドクター......)」
「おはよう」
「......おはよう」
かろうじて返事をするとすぐに顔を逸らし口元を袖で隠した。
フロストリーフは今彼に顔を見られたくなかった。それに、自分がどんな顔をしてるか知りたくもなかった。

ドクターがボタンを押すとびエレベーターは加速し始めた。少し離れて立つ二人。ドクターの背中がこちらに向いている。居心地の悪さから手汗が滲み、擦れたマニキュアが少し欠け落ちる。清掃された白い床にこびりつく汚れに目を止まるが、すぐに目の前の男に視線が移る。
気まずい。けれど、ちゃんと謝らないといけない。
相手を一瞥しつつ再び手を握りしめて話しかけるタイミングを伺う。

息を吸い意を決して相手の名を呼んだ。
「ドクター…..!」「フロスロリーフ….!」
前のめり気味に名前を呼ぶ声が重なりお互い言葉が詰まったが、ドクターも同じことを思っていたとわかると、強張った体が少しだけ和らいだ気がした。
今しかない。
「ドクター、昨日は......!」
そう切り出した瞬間だった。ガコン!エレベーターがドクターの降りる階に到着した。扉が開くやいなや外で待っていたであろう内勤オペレーターが声をかける。
「ドクター、お待ちしておりました。こちらです」
「すぐに行く。少し待ってくれ」
ドクターは何かのハンドサインを出し、何かを察したオペレーターがそそくさと離れていく。

ドクターがフロストリーフに向き直り、コクっと頷いた。
自分を待ってくれているが、フロストリーフは言葉を紡げなかった。
ドクターと一緒にいたいと思うようになってからドクターに甘えている自覚が少なからずあった。
そして昨日、その一線を超えた。
謝らなければいけないと同時に、二度と楽しく過ごすことができないんじゃないか。
これ以上迷惑をかける訳にいかないのに、彼女が口を開いても出てくるのはかすれた息だけ。
目はそれを叫ぶけど、音にはならない。
わずかな時間だったかもしれないが、その長い時の中で、思いを告げることは叶わなかった。

ドクターは少し顔を下げ目を閉じたのちゆっくりとフロストリーフを見据えた。
「フロストリーフ」
怒りもなければ失望もない、ただいつも通りの口調でその名が呼ばれた。
「私も、君に伝えたいことがあるんだ」
ドクターの言葉も揺れていた。フロストリーフと同じように。
ドクターも同じ気持ちなのだ、今度は確信した。
フロストリーフはそれまでに経験したことのない方法で、ドクターと繋がれた感じがした。
これ以上に望み得ないほどに、深い安心感と一体感に包まれた気がした。
「だから帰ってから、また話そう」
「あ、ああ!」
思わず声が裏返ったが気にもならない。

ドクターのいつも通りの声と目。秘書だった頃、作戦の時、バーで飲み終わった後と同じそれで、また約束をした。
フロストリーフは相槌を打つだけで精一杯だった。彼がステップを乗り越えるとまた彼女に振り返った。
距離は離れ行先も違う。言葉は何もなかったが、扉が閉まるその時までその目が逸らされることはなかった。

約束したから。それだけで十分だった。

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