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フロリーss(仮)その3 冒頭

作成中のフロストリーフとドクターの小説の一部です。
ーあらすじー
テーマ:氷・約束
果たせなかった約束と、永遠に溶けない言葉。
Day1
恋人同士のフロストリーフとドクターはいつものようにバーで晩酌を交わし、次に飲む酒を決めて会う約束をした。
酔いが回り距離が近くなるにつれフロストリーフの鼓動は高まっていく。
そんな彼女にドクターはとある願いを伝えるものの、それをきっかけに喧嘩別れしてしまう。
フロストリーフはドクターとの今ある幸せを大事にしようとし、ドクターは自分を通過点として成長し巣立っていってほしいと願ったのだ。
生きていてほしい、その想いは同じくして二人はすれ違い素直になれない自分を呪った。

Day2
もう恋人として会うことは叶わないと消沈するフロストリーフはエレベーターでドクターと偶然会う。
言葉を伝えることはできなかったもののまた会う約束をする。二人はその希望を胸にお互いの戦場へと向かった。
しかし廃都市での救援活動中、敵から味方を守るため単身囮になるフロストリーフは強敵を相手に技量と経験で善戦するも、徐々に追い詰められ死亡してしまう。
再びドクターが恋人と会ったとき、彼女は感染者を収容する黒い棺の中にいた。
約束が果たされることはなかった。

Day3
恋人の死亡と裏腹にドクターは仕事を言い訳に彼女が残したものに目を向けられずにいたが、とあることをきっかけに彼女の遺品を手にした。
そこには彼女の想いと願いが拙い文字で綴られていた。普段から死に急ぐように仕事をするドクターの健康を思ったものだった。ドクターは彼女の思いを無駄にしないためにもフロストリーフに向き合い自らを変えていく。
この世にフロストリーフはもういないが、その約束が違えることはなかった。

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※Day3    ドクターがフロストリーフと夢で再会するシーンです。

「(なんだ執務室か)」
意識を失った後どうなったかと思ったがドクターの前にはいつも通りの景色があった。今日も仕事がたくさんある。ため息をつきながら腰を下ろし机に置かれた書類に目を通すと、
「ん?」
文字がはっきりせず焦点が合わない。紙を近づけるが変化はない。
「(どうなってる、体が堪えてるのか?)」
すると携帯端末から呼び出し音が鳴った。画面に表示された名前はフロストリーフだった。ありえない。絶句のあまり空いた口が塞がらない。
数コール後、震える手でと応答ボタンを押した。
「……もしもし?」
「ドクター、仕事お疲れ様。調子はどうだ?」
フロストリーフの高揚した声が聞こえてきた。縁起の悪い冗談とも思ったが、彼女の端末はもう登録抹消されている。
だがこれは間違いなく彼女の声だ。あの少し低いハスキーな声。機嫌が良く年相応にはしゃぐ時のそれだ。聞き間違えるはずがない。
冷静に当時と同じように答えた。
「ああ……フロストリーフもお疲れ様。こっちは相変わらずだよ。それで、どうした?」
「今夜一杯どうだ?久しぶりにお前と飲みたい。積もる話もあるしな」
「……!い、いいね。じゃあいつもの店に11時でいいかい?」
「わかった。他の酔っ払いに捕まるなよ?また酔い潰れたお前を探し回るのはごめんだぞ」
「ははっ……気をつけるよ」

この会話は数日前に昼休憩にした電話で、その日の夜に一緒に飲んで…….喧嘩した。
「そうだ、これから一緒にお昼でもどうだ?」
「え?」
「お前のことだから仕事に夢中だと思ってな。もうすませたのならまた今度にする」
「い、いや、まだだけど」
「なら今から行かないか?正直、夜まで待ちきれない。会いたい」
少女の焦がれる声がスピーカー越しに伝わってくる。耳元で囁かれるそれは泣いているかのようにも聞こえた。あの時気がつけれていたら。

「すまない、ちょっとやることがあってね」
「……わかった。ちゃんと食べないとまたフォリニックに言われるぞ。それに、お前が倒れたら私は、いやだ」
「気遣い感謝するよ、フロストリーフ」

しばらく談笑するともうすぐ切る頃合いになっていた。
「また電話する、できるだけ早く行くよ」
「待ってる。あまり無理はするな。じゃあ」
慈愛とすら思えるほど優しい口調で元気付けられる。
通話を切ると再び眠気に襲われ、目の前が真っ暗になった。


ハッと気づけばエレベーターの前にいた。
厚い資料を脇に抱えてエレベーターの到着を待っていると扉がゆっくり開いた。俯いたフロストリーフが自分を見るなり気まずそうに顔を背けた。これは最後に会った時のもの。つまり終わりが近い。
「おはよう」
「……おはよう」

乗り込むと後ろから視線を感じた。ソワソワしているのか体を揺する音が聞こえる。加速感はなく装置がぼやけて見える。

ああ。無意識にあいた心の穴を埋めようとしている。
忘れなければ仕事は身に入らない。仕事を続ければ忘れられる。
それなのに、ずっとフロストリーフを求めていた。

「ドクター……!私は……」
振り返るとフロストリーフが自分の名を呼んだ。思いを言葉にできず狼狽する彼女を落ち着かせるように、私たちは約束を交わした。
「帰ったら、また話そう」
その言葉を聞いたフロストリーフの表情は和らぎ、今はもう見れない微笑みを向けた。私は彼女が初めて笑って時のことを思い出した。

これが続けばいいと思っていた。

エレベーターを降りると扉が閉まり始める。
これで二人の思い出は終わる。有り得たかもしれない未来はもう来ない。彼女は何を望んでいたのだろうか……。
それを聞く機会は失われた。
未練がましくこんな夢を見ているのにまた会えた喜びを惜しむ自分に嫌気がさした。これはきっと罰なのだ。歯を噛み締め、待った。

「……ん?」
いつまで経っても時が進まない。
扉はその瞬間を切り取られ途中で止まっていた。その合間からフロストリーフが胸に手を当て、この時を望んでいたのか微笑んでいた。
記憶違いかと思ったが、これは彼女自身が話している予感があった。
それを彼女の目が物語っていた。

「ドクター」
初めて見たその瞳に吸い込まれる。

「私の願い、受け取ってくれないか」


それを最後に全てが暗転した。














Day3
ロドス本艦
医務室 救急救命センター付近
08:24:57

見知らぬ天井とベット。心電図に点滴。医療オペレーターが覚醒したドクターを見るなり慌ただしく電話し始めた。
体を起こすと自分は病室にいた。
眠気以上にだるく頭が回らない。おそらく意識を失ったタイミングでここに運ばれたのだろうか。わからない。

しかしあの言葉だけはっきりと覚えていた。
幻想だが、あれはフロストリーフ自身の言葉だと確信に満ちたものがあった。とある宗教観では未練を断つまでは霊となって彷徨うと聞いたことがある。ドクターはそれが本当だと信じずにはいられなかった。

担当医から1週間の安静を言い渡され、数日間は久々の食事と何もない時間を過ごした。ご飯を食べ読書し寝る……忘れかけた当たり前を噛みしめた。忙しい中見舞いに来てくれたり心配してくれるオペレーター達が暖かかった。

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