【アメリカ相続法②】SP州からCP州/CP州からSP州に転居する夫婦の財産について

導入

上記の記事では、community property statesとseparate property statesの二つの夫婦財産法の体系がアメリカにはあることをお伝えしました。
ここで、問題となるのが、では、この州間を転居した場合には、夫婦の財産はどう取り扱われるのか、ということです。

論点(SP州→CP州の場合)

伝統的な抵触法の考え方では、動産(movable property)については、その財産の取得時のカップルの居住地(domicile)の法が適用されると考えられています。したがって、SP州からCP州に移った場合、SP州居住時に稼得した財産については、SP州法に基づき、稼得した一方配偶者に帰属し、また、死亡時点でCP州居住者であれば、CP州法に基づき、elective share(遺留分のようなものです。詳細は上記記事をご覧ください。)が認められないことになります。要するに、稼得していない他方配偶者は、SP州で稼得した一方当事者の財産に何ら権限がなく、また、SP州法では認められているはずの財産も得られないことになります。

CP州では、community propertyとして、婚姻中に稼得した財産に共有持ち分を許容することで、稼得していない他方配偶者が保護されていた一方、SP州では、共有持ち分は認めないものの、一方配偶者が死亡した場合には、elective shareを法定することで、他方配偶者を保護していました。
しかしながら、SP州からCP州に転居した場合には、このいずれの保護もかいくぐり、稼得していない他方配偶者の保護が非常に手薄な状態になります。

解決策

これに対して、カリフォルニア州をはじめとするCPのいくつかの州は「quasi-community property」(QCP)という観念を作り出しました。

すなわち、SP州で稼得した動産について、もし当該州であればCPとされていた財産については、QCPとして、QCPの所有者である一方配偶者の相続の分配(probate)等の一定の局面において、CPと同様に扱う、という解決策です。

なお、不動産(real property)については、相続処理に関して所在地法が適用されるので、SP州で取得していれば、当然elective shareが認められるので、QCPとして扱う必要がありません。

CP州→SP州

逆に、CP州で稼得して、リタイアしてSP州に移る場合には、community propertyとしての性質が維持されるので大きな問題がありません。

なお、SP州のうち16州については、community propertyの性質を受け入れ、elective shareの対象としないこととしていますので、不都合はありません。ただし、それ以外のSP州においては、裁判所は、community propertyをコモンローのjoint ownershipとみて法を適用することになります。(この場合に、community propertyの性質を維持したい場合には、CP州法を準拠法とする信託を行うことが望ましいとされているようです。)


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