『沖縄スパイ戦史』三上智恵・大矢英代
沖縄戦北部を探ったドキュメンタリー映画
1945年4月、米軍が沖縄本島へ上陸し日本軍と激しい戦闘があったことはみなさんもご存知でしょう。
日本で唯一の戦場となってしまった沖縄。そして多くの住民が巻き込まれ犠牲となってしまった。米軍、日本軍、沖縄住民の中で一番戦死者が多かったのは沖縄住民なのだ。こんなに悲しいことが現実に起こったことを、私たちは中学高校で深く教わらない。
この映画は沖縄戦の別の面から見たドキュメンタリー。
沖縄に観光で訪れたことのある人なら本島南部にある「ひめゆりの塔」の存在は知っているでしょう。沖縄戦は南部での戦闘が激しく、それゆえ甚大な被害と悲劇が多く起こっていた。長期に渡って戦闘が続いたため「ひめゆり学徒隊」に代表される、南部の地域を舞台に沖縄戦のことを語られることが多いです。
一方、北部は南部に比べて米軍はさほど苦労なく制圧していったのだそう。その本島北部、そして波照間島にもスポットライトが当てられていることがこの映画の一つの特徴です。
タイトルの「スパイ戦史」の字ごとく、本土の日本軍は沖縄にスパイ養成学校で訓練された人間を送りこんでいた、という事実。それが沖縄の人々をさらに苦しめることに直結したということも注目すべき点です。
なぜ同じ日本国民相手にスパイを送っていたのか。その理由は、沖縄住民の中に溶け込み、住民たちを戦闘にスムーズに加担させるよう仕向ける、要は戦力として利用するため。そしてそのターゲットは主に若干15、16歳の少年たちでした。米軍の圧倒的な戦力に対抗するためには何としても沖縄の住民を利用するしかなかった、というのが日本軍の本音でしょう。
映画では、戦争を生き抜いたおじーやおばーが当時のことを証言してくれています。伝えるのが責務と感じ語ってくれる方、涙を流してしまう方、今も語れないことがあるという方。私たちには到底計り知れない痛みを持った方々の言葉たちが、その映像とともに自分の胸に突き刺さる思いでした。
こういった事実を知ることは、人生の中で避けようと思えば避けられます。向き合わないように過ごすことは簡単なことかもしれません。しかし、向き合って知ろうとすることは、二度と起こしてはならないという意志となり、あんな悲劇を繰り返さないでほしいという、沖縄の人たちからのバトンであると感じています。
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