森山満穂のバックボーン(読書遍歴)
【長い文章を読むのが面倒くさいって方は、太字の部分を読めば私が読んだ本だけがわかるようになってます!】
今でこそ本が好きな私だが、小、中……高も少し入るだろうか、私は本好きとは言えない子どもだった。その頃、夢中になっていたのはNHKでやっていた「天才てれびくんMAX」という子供向け総合番組と、テレビドラマと、「ちゃお」や「なかよし」などに載っていた少女漫画。中学に入るとアニメから少年漫画にハマってコミックを買い漁っていた。文通相手のおすすめでバトルファンタジーもののライトノベルなんかもちょっと齧っていたが、巻数が多すぎてすぐに読むのをやめた記憶がある(ちなみにその時読んでいたのが、作者名を忘れてしまったが「バイトでウィザード」という作品。面白かったが、中学生のお小遣いでは全巻制覇は難しかった……)。しいて言うなら小学生の時、「ハリー・ポッター」シリーズを読んでいたくらいだろうか。もちろん読んでいて楽しくはあっただろうが、それでも映画の予習のために読もうくらいの気持ちだったので、本が好きという感じではなかった気がする。何年か経って初めて設定や構成の妙の面白さに気づくなんて、私も愚かだったな……。
それはさておき、転機が訪れたのは高校で部活に入部してから。私が入った部活は「文芸読書部」。元々ライトノベルを読んでいたあたりから小説を書きたいと思っていて、完全にマンガの好きな要素を掛け合わせただけのそれらしい物語(実際はめちゃくちゃ駄文)を個人的に書いていた。なので、小説を書くために文芸部に入ったのだ。でも私が入った部活の名前は「文芸読書部」。この部活では書くだけじゃなく、読むことも活動に含まれていた。ということで、半年に二、三回は図書館に行って本を読んだり、文化祭で大判紙におすすめの本を紹介して展示するためにテーマの小説を読んだりという活動を通して、自然と本に触れる機会が多くあった。そんな中で出会ったある作品に私は衝撃を受けた。その作品は湊かなえの「告白」。
これもたぶん映画化されたのが興味を引いたきっかけだとは思うけれど、小説を読んだのが先だった。読み終わった瞬間、心が震えた。事件関係者それぞれの思惑が一人称で語られることで浮き彫りになり、章を追うごとに重厚になっていく背景、テーマは深く重苦しいのに読みやすくて引き込まれる。小説を読んでこれほどまでに衝撃を受けたのは初めてだったと思う。その後、私はストーリーだけでなく、構成も工夫して書くようになった。それからは図書館で読んで気になったものなどをぽつぽつと自分で買うことが増えるようになった。具体的には東野圭吾「容疑者Xの献身」、貴志祐介「青の炎」、夏川草介「神様のカルテ」、あさのあつこ「バッテリー」。それまでは本にお金を使うようなことはあまりなかったから、この頃から読書好きへと変わる片鱗があったのだろう。
大学に入ると、いっそう本に関わることになった。私が進学した大学は創作文芸コースという書くための講義やゼミがあるところだった。そこである教授に言われた一言で、私は読書に目覚める。それは「読んで学べ」。書くためには読むことが必要。その言葉を信じて、私は興味のある作品やその時自分が書いていた物語と似たようなジャンルの作品を図書館に通いつめて片っ端から読んでいた。その時読んだ主な作品をあげていくと、東野圭吾「プラチナデータ」、加藤シゲアキ「ピンクとグレー」、朝倉卓弥「四日間の軌跡」、石田衣良「4TEEN」、森絵都「カラフル」、重松清「青い鳥」、貫井徳郎「愚行録」、七月隆史「僕は今日、昨日のきみとデートする」。(余談ですが、お気付きだろうか?これほとんど、映像化された作品なのだ。前の二つは映画化されることを知って読んだけれど、後の二つは話題になる前に読んだので、その後映画化されると知ってめちゃくちゃ驚いた)とにかく書くために読むという生活を続けていた。
大学卒業後は、図書館に気軽に行けなくなったこともあって、再び漫画・アニメ漬けの毎日になっていき、本を読む機会は少なくなっていった。そんな中でも読んでいたものが畑野智美「夏のバスプール」、加藤実秋「チョコレートビースト」、深津十一「花工房ノンノの秘密 死をささやく青い花」くらいかな。
そしてまた、第2の転機が。それはTwitterを始めたこと。元々はnoteの企画の参加条件を満たすためにアカウントをつくったのだが、140字小説を書いてみたりとツイッター文学をやり始めたところ、思いの外楽しくてTwitterに夢中になっていた。そんな中で憧れの物書きさん何人かに巡り会って、「この人はどんな本を読んで、影響を受けたのだろう?」と思うようになった。奥手な私は直接訊く勇気はなくて、匿名で質問できるサービスでその方たちの好きな本を訊き回り、その本を買っては読むようになった。その本のチョイスはとても素晴らしくて、みるみる読書にハマっていった。その中でも一番心打たれたのは、柴村仁「プシュケの涙」。
ミステリー調に進んでいくストーリー、軽快なテンポとタッチ、細部に光る情景描写の繊細な美しさ。それでいて、深く胸に染み込んでくるテーマ性。仄暗さと青春の瑞々しさ、鬱屈した感情が作品全体に表れていて、私はこんな作品が書けるようになりたいと思った。読み終わってもずっと胸に残って、いつまでも心の中に留めておきたくなるような気持ちを抱いた作品。つられるように続編の「ハイドラの告白」、「セイジャの式日」、主人公の由良がちょろっと出てくる「ノクチルカ笑う」も読み、ますますこの作品が好きになった。(全部読んだ方がいたらぜひお話してみたい)
他にも江國香織の「きらきらひかる」、こちらは詩集だけど「すみれの花の砂糖づけ」、最果タヒの「グットモーニング」、吉本ばななの「N・P」、住野よるの「君の膵臓を食べたい」、沢木まひろの「きみの背中で、僕は溺れる」など、入手できるものはできるだけ読み漁っている。
その上、読書アカウントの方とお知り合いになり、魅力的な本のツイートを目の当たりにしたことで、また読みたい本が増える。あれを見て、読書欲をそそられない方がおかしいと思う。そして、ここから現在に至るまで、私の読書黄金期が始まる。さらに読書アカウントさんに感化されて、昨年くらいから読了ツイートをしたり、あらすじや感想などをまとめた読書ノートをつけるようにしたり、読後の楽しみも増えてしまって今はけっこうな読書沼に落ちている。最初は尊敬している読書アカウントさんからおすすめしてもらった多崎礼「煌夜祭」、島本理生「ナラタージュ」、井上悠宇「誰も死なないミステリーを君に」シリーズ、辻村美月「スロウハイツの神様」「V.T.R」、江國香織、辻仁成「冷静と情熱のあいだ」、石田衣良「娼年」、西加奈子「白いしるし」、桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」「荒野」、米澤穂信「氷菓」、越谷オサム「階段途中のビックノイズ」、新海誠「言の葉の庭」「天気の子」、壁井ユカコ「2.43 清陰高校男子バレーボール部」シリーズ、宮下奈都「羊と鋼の森」、平田駒「スガリさんの感想文はいつだって斜め上」シリーズ、葦舟ナツ「ひきこもりの弟だった」、氷高悠「あなたのことを、嫌いになるから」など一般文芸はもちろん、ライトノベルなどもジャンルを問わず読みまくっている毎日だ。
読了ツイートはこんな感じ
こちらは今つけている読書ノート。最新のものを。最近はレイアウトにもこだわっている。
今までの遍歴をご覧のとおり、私は作家さん単位で本を読むことがあまりない。けれど、最近すごくハマっている作家さんがいる。それは額賀澪さん。「君はレフティ」という作品を最初に読んで、この人の書く物語、言葉のチョイスがすごく好きだなと思い、続けて「さよならクリームソーダ」を読んだ。
これがもう、すごく良くて!!まだ未読だけれど、三冊ほど額賀さんの作品をストックしている。そして、まだ買おうとしている(笑)額賀さんはたぶん切なさを書くのが上手い。そして、物語の性質の色を変えるのがとても巧みな方だ。冒頭のイメージは柔らかくあたたかい暖色のような話だと思っていたのに、物語が進んでいくにつれてその色は劇的に冷たく切ない寒色になっていく。その鮮やかさといったら、まさに圧巻。作品名を挙げた両作ともその技巧が存分に発揮されているので、読んでいない方はぜひ読んでほしい。
とここまで自分勝手に話してきたが、まとめると、物語をただ純粋に楽しむという読み方から表現を切り取る読み方に変わって、最終的には物語を楽しみつつ、表現の美しさに注視するという両方いいとこ取りの読み方に確立したってところだろうか。それと、今まで統一性のない選び方ばかりしていたが、こうしてまとめてみると私が惹かれるジャンルは青春小説、ミステリーなんだなぁと把握することができた。
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忘れられない物語はいくつもある。それは死ぬまで私の心に留まり続けることだろう。私もいつか、そんな物語が書けるようになりたいな。そうして今日も、新しい本のページをめくる。その本が私の心と書く力の糧になってくれることを信じて。