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樹木から学ぶ生き方(1)風に辛抱強い・ミクロフィブリル傾角の役割

樹木は、我らヒトと違って、生まれ落ちた環境から移り住むことは出来ない。その環境にとどまって順応・適応し、我慢強く、何とか生き延びようと懸命である。その姿は、昨日まで何も気付くことのなかった私の、明日からの生き方に勇気を与えてくれる、そんな示唆に富んでいると感じる。樹木から学ぶ生き方もあっていいのではなかろうか?

樹木は強い風に吹かれても、倒れたり折れたりすることなく耐え忍んでいる。樹木に働く風の力は、樹冠の投影面積に比例するため、早生樹ユーカリでは、成葉になると鎌形に細い葉となり、着葉量を減らして風を右から左へ受け流している。よく見ると、樹木の樹幹や枝はしなっている。風を受けた側では引っ張られ、反対側では圧縮される力がかかり変形する。この「しなり」の生物学的メカニズムに興味を抱いた。

ちなみに、フィジー試験植林で用いた耐サイクロン性ユーカリ・テルティコルニスの原産地は、サイクロン常習地であるオーストラリア・クィーンズランド北部であった(適材適所 世界のユーカリ物語(1)フィジー - ユーカリ・テルティコルニス参照)。

樹木の細胞壁は糖(グルコース)が繊維状に繋がったセルロースの束でできている。これをセルロースミクロフィブリルと呼ぶ。セルロースミクロフィブリルは、樹木の長軸方向に対してある角度をもちながら螺旋状に形成される。この角度をミクロフィブリル傾角と呼ぶ。樹木が未成熟のうちは、ミクロフィブリル傾角が大きい。セルロースミクロフィブリルはグルコースが化学結合しているため繊維方向にはほとんど収縮しない。ところが繊維方向に直交する方向においては、お隣のセルロースと時には水分子を介して水素結合しているため収縮し易い。従って、樹木の長軸方向に配列する木繊維や道管・仮道管の繊維方向の収縮が大きい。成熟材ではミクロフィブリル傾角が小さくなる(放射・接線方向の収縮が大きくなる)。木材乾燥では、前者の結果柾目板が曲がり、板目板ではCupや放射割れが起こる要因となる。

一次壁ではセルロースミクロフィブリルの配向は木繊維の長軸に対して直交方向に近く、螺旋状で伸びる。バネでありかつタガの役割を果たして長軸(繊維)方向に細胞伸長し、肥大するのを防ぐ(道管は別なはず)。一次壁を形成する細胞拡大期の細胞は形成層のすぐ内側に、樹幹を円周状に取り囲んでいるため、樹幹はバネで覆われていることになる。これが風がどちらから吹こうがしなる仕組みである。ところが、細胞が成熟するにつれ、細胞は拡大や伸長を停止して、二次壁を形成し始める。二次壁中層のセルロースミクロフィブリルが長軸(繊維)方向に配向して、長軸(繊維)方向のヤング率を高めていくことで、樹幹をあらゆる方向からの風にしなる形質を担保しつつ、折れにくくしている。また、壁層に方向角度の異なる交差構造(セルロース液晶・熱力学的に安定なためできる)を作って、織物のように細胞壁をより強固なものにしている。

樹木は、樹幹の形成過程と細胞壁の形成過程の両方で、風などの物理的な応力(ストレス)に対抗するのに、巧みにミクロフィブリルの傾きを変えているのである。この精緻なセルロースミクロフィブリルの配向を巧みに変化させる生物学的因子(日周による膨圧の変化など)については、未解明な部分が多い。

人生や社会において、苦難やストレスは、風のようにありとあらゆる方向から押し寄せる。それに屈して心折れることなく、樹木のように巧みにしなって、時には剛直になって、上(輝く光の方向)を目指して生きよう。


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