もう一つの光合成 C4植物 植物のカーボンサイクル(5)
太古地球上には現在よりもたくさんの二酸化炭素で満ちていた。ところが、大型のシダ植物で溢れかえった後、大気中の二酸化炭素は次第に減り、光合成によって酸素が増えた結果、生物は爆発的な進化で多様性を獲得することになった。何回かの氷河期を繰り返したことは大気の二酸化炭素が今よりも少なかった時代があったことを示唆している。およそ900-700万年前もそんな時代だったのかもしれない。
大気中の二酸化炭素が少なくなると、植物の光合成速度は落ちる。中には満足なエネルギーを獲得できず、絶滅の危機にあった種もあるだろう。そこで適応進化したのがC4植物たちだ。現在に見られるトウモロコシ、サトウキビ、ススキなどが含まれる。いずれも乾いた草原に適応できる。
空気が乾燥すると、蒸散を抑制するため気孔と呼ばれる窓が閉じられる。そうすれば、ますます二酸化炭素が入ってこなくなる(植物のカーボンサイクル(1))。かろうじて葉肉細胞に取り込まれた二酸化炭素は、水に溶けてpH7.4の細胞質を泳ぎ切り(植物のカーボンサイクル(2)),pH8.0の葉緑体の中でエネルギーを受け取るのだが(植物カーボンサイクル(3))、このようなアルカリ側のpH水溶液では、二酸化炭素は、炭酸と重炭酸イオンに電離平衡にあり、そのモル比は炭酸<<重炭酸イオンとなっているはずである(生命を司る 二酸化炭素の功罪(4)をお読みください)。であれば、炭酸(二酸化炭素)が基質である炭酸固定回路(カルビンサイクル)を回すより、重炭酸イオンを基質とするホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼを用いたオキサロ酢酸(炭素数4)を細胞質で予め作って、それを葉緑体に送った方が有利であると考えた原始植物がいた。それがC4植物たちに進化したのだ。
炭素数4の有機炭素からは、還元力が生み出されると同時に二酸化炭素が放り出され、それを呼吸(カーボンサイクル(4))のように体外へ出すのではなく、維管束鞘細胞と呼ばれる別の場所の葉緑体に送る。二酸化炭素はカルビンサイクルによって有機炭素に帰り咲くことができるのである。すなわち、少ない二酸化炭素を無駄にすることなく効率的に有機炭素を作っていることになる。何て素晴らしい。これらの理由から、C4植物は、乾燥や強光や貧栄養下でも適応できる。
今我々人類は、エネルギーを化石資源に頼ることなく、太陽エネルギーや生物資源を活用したバイオマスエネルギーに転換することに漸く気づき始めた。トウモロコシやサトウキビは、我々の貴重な食糧であると同時に、バイオエタノールの原材料にもなっている。地球の植物の進化に感謝し、それらと共存共栄する炭素循環サイクルを獲得するように進化しなければならないと思う。