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森林ビジネス考察(1)       山林を基盤とする町に、如何にして産地形成を起こし、街にするか?         

まえがき
 都会を離れ、森林を基盤とする産業を生業とする地方都市に移り住み、如何にして森林から価値を生んで生きるか?に正面から向き合った。
 森林が自然の力を使って育んだものを、ただ搾取して売るだけでは芸がない。これでは、自分の力を駆使して価値を生んでいるわけではない。とてもではないが、再生産して持続的に発展できるとは言い難い。
 街には空き家が溢れている。一軒の古民家を借りて改装し、カフェを開く。世界中から訪れた人々が集い、コーヒーが売れる。一杯のコーヒーに付加価値を生んで糧を得るとはこういうことかという思いがする。
 地方で森林を恵みとして、都会に負けないくらい、いやそれ以上の価値を生むことはできないだろうか?いやきっとできるはずである。でないと、森林を基盤とする日本の中山間地域の創生など、はかない夢で終わってしまう。そのような危機感から、本連載の執筆を進めることにする。

1.愛媛県・内子町
 内子町(うちこ)は愛媛県のほぼ中央部に位置し、面積の約8割を山林が占めています。山間の小さな町ですが、江戸後期から明治時代にかけて製蠟業などで栄えた美しいたたずまいの町並みが今も残っています。どうして、江戸や東京(都会)から遠く離れた地方に、和蝋の産地形成だけで、歴史上のある時期に、写真のような豪邸が立ち、美しい街並みが形成され、芝居小屋ができるほどの賑わいのある街(集落)にまで発展できたのでしょうか?とても大きな謎ですね。ここではその秘密について考察してみますね。


内子の街並みに現存する旧家


内子の美しい古い町並み


内子座(1916年建設


(1)何から和蝋を作るか?
 和ろうそくは、ウルシ科の櫨(ハゼ)の木の実をすりつぶし、蒸した後に圧をかけて絞り出した液を冷やすと固まってできる木蝋を原料とします。
(2)誰が創り、どのように拡げたか?
 ハゼは、神谷宗湛が1500年末期にハゼの実を中国南部あたりから輸入し、肥前の唐津(現在の佐賀県)に於いて栽培し、その後筑前(現在の福岡県)にも広げました。和ろうそくは、和紙や竹串を芯にして、木蝋を巻き付けて作られます。この技術は、町の住民が考案し伝えてきたようで、特に江戸時代に蠟燭の需要が増加したことから、地方に伝播したと考えられます。内子町は蝋製造の中心地の一つとして栄え、その製品は四国全域に広まりました。
 内子町の本芳我(ほんはが)家の主屋は、木蠟(もくろう)の生産で財をなした明治22年(1889)に建てられたものです。漆喰塗籠の重厚な建物は、鏝絵(こてえ)と呼ばれる彫刻や海鼠壁(なまこかべ)などで飾られ、町並みの中でも圧倒的な存在感を放っています。内子の白蠟は極めて質が良く、第3回と第4回パリ(1889,1900)やシカゴ(1893)、セントルイス(1904)などで開かれた万国博覧会にも出品され賞を受けています。
(3)誰に売って儲けたのか?
 晒(さらし)蝋(白蝋ともいいます)は、あたためた液状の蝋を清水の上に少しずつ落としできるだけ薄い蝋の固まりにし、それをせいろに並べて天日で30日~40日間晒して造ります。いわば精製された蝋というわけです。髪に塗り付けてスタイリングに用いる(いわゆるポマード)などの化粧品、止血用の軟膏、生糸織物や木材表面に艶を与える磨き剤などに使われたと考えられます。
 内子の白蝋は、その品質の高さがパリなど海外で評価され、高級ブランド品として、明治時代中期以降、当時の重要な輸出品にまでなりました。これが内子町の経済を支える要素となっていました。
(4)どうして産地形成は終わったのか?
 19世紀に、ポマードは一般的な美容製品として広まりました。特にヨーロッパでは、フランスの製薬会社が高品質なポマードを生産し、世界中に輸出していました。20世紀(1901~)に入ると、ポマードは髪のスタイリングに広く使用されました。特に1920年代から1950年代にかけて、ポマードは流行のヘアスタイルの不可欠な要素となりました。おそらく、第二次世界大戦まで、内子の白蝋はポマード用に輸出されていたと思われます。
 現代のポマードは進化を続け、さまざまな種類やテクスチャーのものがあります。オイルベースの油性ポマード。ウォーターベースの水性ポマード。マット仕上げのポマード、クリームタイプのポマードなどがあり、個々のスタイリングニーズに合わせて選べるようになりました。戦後は、白蝋の輸出は再開されることなく、内子町の発展は終焉したと想像されます。

 如何でしたでしょうか? 森林をベースとする日本の伝統的なモノつくり、その栄華と終焉。もう一度このようなドラマを繰り返す技術と情熱が、求められているのではないか?と思います。


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