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振り出しに戻るか世紀を越えるか、CO2の旅の長さを決めるのはヒト!? 植物のカーボンサイクル(9)

樹木に固定されたCO2は、生物の寿命を迎えて細胞壁が分解され緩やかに大気へと戻る。この時に登場するのが木材腐朽菌と呼ばれる微生物である。彼らは、強固に構築された細胞壁を酵素で分解する。グルコースを栄養源として成長しキノコを作る。キノコの細胞壁は多糖類であるので、一気にCO2に戻るわけではない。セルロースはセルラーゼによって分解されるが、リグニンは簡単に分解できないため、腐植となって土に留められる。

樹木は伐採され、乾燥された木材は利用される。この時実は、固定されたCO2の寿命を決めているのは我々である。

もし木質バイオマスとして発電の燃料にする道を選択すると、固定されたCO2はエネルギーを放出しながら一気に大気へ戻される。短い命だった。

もし紙やマテリアル利用の道を選んでも、大量消費型の現代文明下では、近い将来ゴミとして焼却され、燃料と同じ道を辿ることになる。リグニンは黒液として回収され、紙を乾かす燃料に使われるが、一気にCO2に戻されることには変わりはない。

ところが十分に乾燥され、社寺仏閣の建造物に利用されると、法隆寺五重塔(世界最古の木造建築、1300年以上)のように世紀を跨いで、CO2は固定される。木材細胞壁のセルロースは水を含水率3%程度にまで失い、強く硬く結晶化していると考えられる。

住宅だけでなく非住宅の木造化が進められようとしている。都会にも森のように多くの固定されたCO2を貯蔵できる時代を迎えようとしている。

すなわち、樹木によって固定されたCO2の寿命を決めているのは人である。どの道を選択するかによって、大気中の二酸化炭素濃度は変わり、地球温暖化が急激に進むのか緩やかに進むのか、それを決めているのもまた人であると言えるだろう。

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