実はこれでしょ!「植林」 カーボンサイクルテクノロジー(9)
大気中に増え続ける二酸化炭素の量を減らし、如何に人間社会と調和させながら循環させるか? 排出CO2を分離し、回収し、エネルギー、食糧、マテリアルに変換するため、様々な手段が研究開発されてきている。中には別のエネルギーが必要なものもあり、効率的に機能しないものもあるだろう。設備や運転コストの壁が立ちはだかるものもあるだろう。はたまた限界があって持続的ではないものもあるかもしれない。実は、人類が到達し実践しようと試みているテクノロジーを、自然に獲得して実践しているものがある。植物だ。私は、この植物の力を最大限に引き出す技術も、最も重要なカーボンサイクルテクノロジーの一つと位置付けている。
植物は、空気中の二酸化炭素を分別する。自然界には安定同位体といって、一定割合のカーボンサーティーン13Cが存在するが、同位体分別と言って植物はこの13Cを選り好みするほど、分別能力に長けている。ましてや他のガスを誤って同化するなどあり得ない。分別したCO2は光合成サイクルによって単糖グルコースなどへ炭酸同化(回収)される。これを基質に多様な酵素の連携プレーで多様な化合物や高分子に変換することができる。この植物の力を最大限に使い尽くす叡智こそ、究極のカーボンサイクルテクノロジーだと思うのである。
もちろん一つの植物の固定できる二酸化炭素の量は少ない。しかし植物には、多年生木本類がある。かつて地球の大気に満ち溢れていた二酸化炭素を急激に現在の大気に近いレベルにまで引き下げ、無数の生物がエネルギーを産む呼吸の基質である酸素を現在の大気レベルまで増やしてくれたのは、他ならぬ「樹木」の力であることは疑いようがない。
その樹木を伐採し、森林を伐り開いて食糧生産に充てることは、悪いことではないが、人類は「植林」という究極のカーボンサイクルテクノロジーを確立したではないか。食糧生産に向かなくなった広大な大地に大規模植林することは、最も正しい選択肢の一つであると確信している。
もちろん大規模植林には、コストがかかる。経済的なインセンティブが働かなければ進まないことも、いやというほど経験してきたし承知している。しかしながら、正しい知識が普及し、誰でもどこでもできる簡単な技術さえあれば、高度な知識や高価な設備・装置がなくとも、世界中のいたるところで二酸化炭素を循環させることが出来るのだ。