月記(2021.10)
10月のはなし。
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クロスノエシスのニューシングル「awake」が発売された。
リードトラックの「awake」。1stミニアルバム「construction」以降の特徴でもある、ひとつのリフを曲の核として反復するスタイルを突き詰めつつ、そのソリッドな反復との対比で、メロディラインと歌声の気持ちよさが浮かび上がってくる。ダンスについても興味深い点があった。サビ頭、メンバーはステージ端に縦一列に並び、歌い出すとともに横に展開していく、僕が知る限りではかなり珍しく思える振付だった。サビ頭こそドカンと派手に広く展開するのが相場だろうところを、あえてスローに入っていく振付。これは後半につれて盛り上がっていく、メロディの起伏ともリンクしているように思える。まさに「ダークポップダンスアイドルユニット」としての魅力が詰め込まれた一曲だと感じた。
今作「awake」は、前作のシングル「moon light」と対応する要素が含まれていると示唆されている。今作のカップリング曲である「幻日」と、前作のカップリング曲である「光芒」は、曲構成がリンクするように作られている。実際ライブにおいて、限られた回数ではあるが、「光芒」のトラックに合わせて「幻日」の歌とダンスを披露するという、セルフリミックスパフォーマンスが披露されている。また、リードトラック同士も世界観が対応しているように読める箇所が多い。月と夜明け。青と赤。歌詞だけでなく、衣装も含めたビジュアル面でも、これら4曲の世界観をクロスノエシスはまとっている。
こもそもクロスノエシスの作品群は、通底した盤石な世界観があるように感じている。直近の4曲は、そうした姿勢がより前面に押し出されている。そして特筆すべきは、「awake」を除く3曲すべての作詞を、メンバーのAMEBAさんが担当しているという点である。曲同士を構造レベルで対応させるというギミックを理解したうえで、適切に作詞を行うためには、単に1曲の作詞を行うのとは、また異なる次元の技術が求められるだろう。それを彼女は見事にやってみせている。この事実を知ったとき、尊敬を通り越して、畏怖に近いところまで感情がブチ上がったのを覚えている。メンバーそれぞれが得意分野を活かすことでグループが活性化していく、理想的なことではないだろうか。しかもそれがクリエイティビティに直結するならば、言うことなしだろう。
この2枚のリリースを経て、4thワンマンライブ「 blank 」が開催される。このワンマンに向けてコンセプチュアルな動きを見せているクロスノエシス。僕はこれからも興味深く見続けていく。
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10月2日のお台場。TOKYO IDOL FESTIVAL 2021が開催された。2年ぶりのTIFの景色は、工事中の広場や、会場を仕切るテントが目立った。そしてなにより、降り注ぐ日差しが、肌が覚えているそれよりも、はるかに柔らかかった。
ここに来た一番の目的は、SMILE GARDENで行われる、MAPAの初ステージを見ることだった。コショージメグミ、改め、古正寺恵巳。彼女にもう一度、ステージで出会うことだった。ひとつのステージに代わる代わる演者が立つフェス形式と、流行り病対策のための整理入場。そんな事情もあり、早めにSMILE GARDENに入場した。ちょうど入場したころには、ひとつの事務所のグループが連続で出演しており、客層も統一感をもって盛り上がっている印象をうけた。そして事務所が異なるMAPAの出番前になると、前方の観客が一定数、会場を後にしていった。よくある光景だ。その流れに逆らうように、僕は少しでもステージに近づこうとした。こんなことを言うのもおかしいが、このくらいは前にいってもいいだろう?と思っていた。ステージがよりよく見えるようになったころ、陽気な出囃子が鳴り始めた。
古正寺恵巳さんがいた。僕は今まであまり聴いてこなかったような、でも一度聴いたら忘れられない、普遍的なポップネスと、強烈なフックが共存する曲と共に、僕は初めてMAPAと出会った。色んな感情が渦巻くことは想像通りだったが、とにかくいま五感で感じられるものを受け止めることに必死だった。MAPAの初ステージは、終わったと見せかけて行われた、紫凰ゆすらさんへの誕生日サプライズ(TIFスタッフ主導・MAPA運営関知せず)によって、不思議な笑いと共に終わった。古正寺さんが「いい感じに終わったと思ったんだけどな~」と戸惑い気味に笑っていた。本当にステージから人がいなくなり、僕は少しだけゆっくりめに会場を後にした。そのときからずっと、「Nirvana」が頭の中に響き続けていた。理由は単純で、かっこよかったからだ。
10月17日の錦糸町。タワーレコードで行われたMAPAのリリースイベントに参加した。緊張感のあった初ステージとは打って変わって、笑顔でのメンバー同士のやりとりも見ながら、またもう少しMAPAのことを知った。観客には、お世話になっている人たちと、全く知らない人達が、入り混じっていた。
初めての特典会。古正寺さんと目が合ったら、開口一番「ちょっと!髪染めてないじゃん!」と言われた。そこでやっと、なにかが固まって、なにかが溶けだしたような気がした。なんでこの人は、こんなに素敵に笑えるんだろう。なんでこの人を想うと、どこか柔らかな気持ちになれるのだろう。その理由はずっとハッキリとはわからないままだが、とりあえず水色か赤、どちらの色に染めるかを決めないといけない。あと正気では来るなと言われていたが、正気はよく忘れるので、そこは問題ないようでよかった。
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(たぶん)久しぶりにエフェクターを買った。その名も「Shoegaze Fuzz -Total Feedback-」。下北沢に拠点を置くエフェクター工房・Kitazawa Effectorと、高円寺HIGHにて定期開催されているライブイベント・TotalFeedbackがコラボし、cruyff in the bedroomのハタユウスケ氏がサウンドプロデュースした、「アンサンブルに埋もれないファズ」をコンセプトに開発された歪みエフェクターである。僕が手に入れたのは、Total Feedbackにも頻繁に出演しているアイドルグループ・RAYのメンバー、甲斐莉乃さんが筐体デザインを行った限定版だ。
・ハタ氏の解説、他Total Feedback出演者による紹介動画
・ハタ氏による解説動画
めちゃくちゃ好きです。動画でも触れられているとおり、ロシアンマフを参考にしつつ、深く歪ませてもブーミーになりすぎないよう、扱いやすく調整されているという印象を受ける。各ツマミの効き幅も広いうえに、3wayスイッチで「Normal / Low cut / Low cut & High boost」と音質切り替えが可能。ポジション毎に歪みの質感やトーンの効き具合も変わるため、どんなギターにも、どんなプレースタイルにも、どんなジャンルにも対応し得る懐の深さがあると言えるでしょう。公式の言うとおり、まさしく「十徳ナイフ」と言える歪み。
ちなみに、甲斐さんデザインモデルはいくつか「おまけ」付きのものが販売されている。そのひとつである「轟音体験コース」は、スタジオで甲斐さん本人と一緒に、Shoegaze Fuzzを使って音出しができるという(ヤバい)ものである。一部のRAY楽曲なら簡単にセッション(!?)もできるらしい。甲斐さん自身、RAYのバンドセットライブで数回ギター担当としてステージに立ち、ハタさんと共にシューゲイズ・サウンドを響かせた実績がある。本物の音を学んでいる甲斐さんからレクチャーを受けられるという意味でも、かなり貴重な(ヤバい)企画である。安い買い物とは言えないが、それこそギターをはじめてみたい、もう一度やってみたい、そんな人にこそオススメしたいエフェクターだと感じるし、甲斐莉乃という存在がそうした人の心を動かすとしたら、それはとても素敵なことだと思う。
僕は、誰かが楽器をはじめるという現象が大好物である。うまく鳴らせるようになった。新しいフレーズを覚えた。なんかすげぇ音が出た。そうした瞬間に宿る、別の世界に生きるような感覚。まだ知らない人ほど、これから知る喜びは広がる。かつての僕もそれを知り、そして今なお憑りつかれ続けている。どうやらこの数年、楽器がよく売れているらしい。素晴らしいことだ。みんな深夜にヘッドホンをつけてイカレた音を出し続けて朝を迎えたりしてほしい。
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花奏かのんというバーチャルベーシストがいる。彼女の(5ヶ月遅れの)活動3周年記念ARライブがついに開催された。
「バンドとVtuberのリアルタイムでの共演」。VOCALOIDたちが切り拓いてきた地平があり、今やVtuberの市場規模は拡大し、大規模なイベントも増えてきたなか、ひょっとするとARライブ自体は、そこまで珍しいものと感じない人も多いのかもしれない。そこに対してのどうこうもあるにはあるが、それはまたの機会にとっておく。僕はとにかく彼女のこのライブを待っていたし、ただひたすらに感動したのだ。
理由は大きくふたつ思い当たる。ひとつは、単純に僕がいわゆる「古参」だったから、ということだ。彼女のデビューは2018年5月。いわゆるVtuber四天王たちを中心に旋風が巻き起こった2017年末を経て、その勢いがどうなっていくのかと思いつつ、なんとなくその世界をウォッチしていた頃だった。彼女は事務所などに所属していない、いわゆる個人勢だった。なぜ見つけたのかはよく思い出せない。Vtuberと試奏動画ばかり見ていたので、YouTubeのアルゴリズムがナイスレコメンドをしてくれたのかもしれない。とにかく、彼女が「弾きます!」といってZAZEN BOYSの「Honnoji」のあのベースを弾き出した瞬間から、この人の行く先を見なければならないと直感したのだった。
それからしばらくして、彼女は「3Dモデルでベースを弾きたい」という目標を掲げたクラウドファンディングを立ち上げ、見事に目標を大きく超えてプロジェクトを達成させた。一方で、生活の都合などもあり、活動ペースは決して安定はせず、長期で活動が停滞している時期もあった。ただそれでも彼女は戻ってきて、環境を変えてでも、少しずつでも、休み休みでも、とにかく活動を続けた。そして2019年9月、3Dモデルでのベース演奏動画を公開し、その夢をひとつ叶えてみせてくれたのだ。
その後、彼女はVtuberプロダクション「774inc.」が運営するクリエイター支援プロジェクト「ブイアパ」に参加。動画や配信といった活動も続けつつ、楽曲の制作や提供、演奏参加など、活動の幅を広げていった。しかし2020年になると流行り病の影響が表れ、それはVtuber活動にも音楽活動にも、様々な制限をかけてしまった。今回の3周年記念ARライブが当初の予定から相次いで延期になったのも、同様の理由である。でも、それでも、彼女はやるといったらやるのだ。僕はあの「Honnoji」を聴いたときから変わらず「ずっとずっとずっとずっと待ってる」のだ。
ようやくふたつめの理由になる…予定だったのだが、想像以上に長くなるうえ、確認しなければならないことも多く見つかったため、今回は割愛させていただきたい。己の未熟さに乾いた笑いを浴びせかけることしかできない。とはいえ何も書かないのもおかしいので、要旨を今時点でざっくりまとめると、僕は彼女の「独立性」に憧れており、そうしたメンタリティに由来するであろう、何度だって「繰り返す」姿勢を尊敬している、ということだ。下書きは別途保存したので、どこかで表に出せたらいいなと思いつつ、今月はひとまず、象徴的な曲を紹介して終わりにする。
活動3周年、おめでとうございます。
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あるとき、「いつからギターやってるんですか?」と訊かれた。僕は事務所都合で年齢非公開なので、その辺に繋がる事柄を明言しないよう気を付けているのだが、つい「10年くらいは…」と言ってしまった。すぐに脳内に小野まじめがやってきて「やっちまったなぁ!」と言ってきた。僕はせんちゃんなのか、それとも餅なのか。
「継続は力なり」と、どこかの誰かが生み出したらしい言葉がある。これはわりかし真理に近いと思っていて、やればやったなりの力がつく、というのはそう否定されるものではないだろう。僕は10年くらいギターをやっている。じゃあ、僕は10年くらいギターを「継続」しているのだろうか。そもそもの語感がおかしいのはそうだが、違う意味でもなんか違う(?)と感じる。僕は教則本に必ず載っている「B」のコードが押さえられない。「継続は力なり」なのだとしたら、10年くらいギターを継続している僕なら、10年分の威力がある「B」を鳴らせるはずだ。どうやら、僕は10年くらいギターをやってはいるが、継続はしていないようだ。
「続ける」ことと「繰り返す」こと
このブロックの文章は上記のメモ書きに基づいて生成されている。まさかクールポコが出てくるとは考えてもいなかった。いや、彼らのネタは決まった様式を繰り返すことで成立しているのだから、あながち外れてもいないかもしれない。
せ「カッコつけて、ポケットに手を突っ込んで、センチメンタル通りを練り歩く、17歳の俺がいたんですよ~」
ま「なぁ~~~にぃ!? やっちまったなぁ!!!」
せ「繰り返される、」
ま「諸行無常!!!」
せ「よみがえる、」
ま「性的衝動!!!」
せ「曲が混ざっちゃったよ~」
ま「本日は以上!」
ま&せ「「クール、クール、クールポコ!押忍!!!」」
ま「あぁざしたぁ!!!!」
以上、10月分の限界です。ありがとうございました。
・今月あたらしく知った音楽
・今月なつかしんだ音楽