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秋の夜長の、光と影の庭園美術館へ行ってみよう

秋の深まりを感じさせる10月のある日、東京都庭園美術館に行って参りました!「あかり、ともるとき。」という展覧会が開催されていたのです。美術館そのものを展示の主役に据え、特に照明にフォーカスするという、魅力的な企画に心惹かれ、オンラインで最終入場の17時の回を予約しました。


時代が違えば一般人が立ち入ることができなかった場所。元は旧宮家の邸宅でした。

その日は、まるで展覧会のために用意されたかのような素晴らしい天気でした。夏の名残の暑さもなく、かといって秋の肌寒さも感じさせない、心地よい夜風が頬をなでていきます。

ファサードを進んだエントランスの床のタイル。
アール・デコの特徴である幾何学模様と、植物を思わせるモチーフ。

普段なら蒸し暑さを感じさせる庭園美術館のサンルームも、この日ばかりは快適そのもの。建物全体が穏やかな空気に包まれているようでした。

ルネ・ラリックによるガラスの贅沢なシャンテリア

庭園美術館の魅力は、なんと言ってもその贅を尽くした設計にあります。部屋の数の多さに驚かされますが、それ以上に印象的なのは、それぞれの部屋が持つ独特の雰囲気です。

H. LAPINのサインがドアの上に見える
アンリ・ラパンによる装飾の数々

全体的に用途ごとに部屋が用意されているのに対して、バスルームは風呂とトイレが一つの空間にこじんまりとまとめられています。フランス式の家屋を範にとっているためです。どこか寂しげな印象も受けます。当時の宮家の贅沢な暮らしぶりが偲ばれると同時に、豊かさの中にある孤独も感じさせられる、そんな思いを抱きました。

アール・デコ様式の幾何学模様があちこちにある。隠れていない、隠れミッキーのような状況

今回の展覧会の妙は、その控えめな演出にありました。新館の一部にスタンドランプなどが展示されている以外は、美術館既存の照明だけが使われています。

ズームして撮影すると肉眼で見るよりも迫力がある

この素朴とも言える演出が、逆に建築の美しさを際立たせていたのです。いつもなら気づかないような建物のディテールや空間の広がりに、じっくりと目を向ける機会となりました。

1933年建築の当初から使われているかもしれないドアの連結部品


最後の見学者となってしまった私を、スタッフの方々全員が見送ってくださいました。少し気恥ずかしさを感じつつも、かつてこの館に住んでいた方々も、同じように人々に囲まれて暮らしていたのかもしれないと想像が膨らみます。日常とかけ離れた空間で過ごした人々の生活に、ほんの少し近づけた気がしました。


ゲストが来たとき用のダイニングルーム

「あかり、ともるとき。」展は、単なる展示物ではなく、場所が持つ歴史と空気感を肌で感じられる貴重な機会でした。歴史的建造物の意味や、そこで営まれた生活について深く考えさせられ、心に残る夜となりました。秋の夜長に、光と影が織りなす物語に出会えたような、そんな贅沢な時間でした。月が綺麗でした。

アール・デコ(Art Deco)は、1920年代から1930年代にかけて世界的に流行したデザイン様式であり、建築、インテリア、ファッション、工業製品、グラフィックデザインなど多くの分野に影響を与えました。このスタイルは、第一次世界大戦後の産業化や技術革新と結びつき、新しい時代の美学を象徴しています。

アール・デコの特徴は、幾何学的なデザイン、直線的なフォルム、シンメトリー、そして装飾性にあります。特に、ジグザグ模様、放射線状のパターン、チェッカーボードなどの視覚的に強いデザインが用いられました。また、素材に関しても、ガラス、スチール、クロム、ラッカーなど新しい工業素材が積極的に取り入れられ、その結果、モダンで洗練された印象が強調されました。

アール・デコは、伝統的な装飾過多のアール・ヌーヴォーとは異なり、よりシンプルで大胆なデザインが主流です。しかし、古代エジプトやギリシャ、アフリカの伝統的なモチーフも取り入れ、エキゾチックな要素が混在していたことも特徴です。

このスタイルは、パリの「1925年国際装飾芸術博覧会」が契機となって広まりました。日本では、朝香宮邸(現在の東京都庭園美術館)などがアール・デコの代表例として知られています。アール・デコは、現代のデザインにも影響を与えており、今でもその独特な美しさが評価されています。

アール・デコの流行


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