p12とp8について

Appleの開発環境で、セキュリティや認証のためにp8ファイルとp12ファイルは非常に重要な役割を果たしています。どちらも「鍵」を扱うファイルですが、その用途や管理方法は異なります。

p12ファイル:アプリ署名に必要な伝統的な鍵

p12ファイルは、PKCS#12という規格に基づいており、デジタル証明書と対応するプライベートキーを一つのファイルにまとめたものです。主に、iOSやmacOSアプリの署名に使用され、これによってアプリが信頼できるものであることをAppleに保証します。

また、p12ファイルは、SSL/TLS証明書を扱う際にも利用されます。WebサーバーにSSL証明書をインストールして、通信を暗号化し、ユーザーのデータを保護するために、p12形式で証明書とプライベートキーを保管することが多くのホスティングサービスで一般的です。これにより、サイト訪問者がWebサイトにアクセスする際、ブラウザがSSL証明書を確認し、通信の安全性を保証します。

今日のiOSアプリ開発では、XcodeがApple Developer Programと緊密に統合されています。開発者はXcode上でApple IDでサインインするだけで、自身の開発者アカウントに紐づけられた証明書やプロビジョニングプロファイルを自動的に管理できます。
Xcodeは、アプリのビルドプロセス中に必要な署名情報をApple Developer Programから自動的に取得し、アプリに埋め込みます。このため、開発者はp12ファイルを意識することなく、シームレスにアプリを開発デバイスにインストールできます。

開発実機のケーブルランでは意識しなくなったp12ファイル

p12ファイルのポイント

  • 証明書とプライベートキーが含まれる: アプリを署名するための公開鍵証明書と、それに対応するプライベートキーがセットで格納されています。

  • 有効期限がある: 証明書には有効期限が設定されており、期限が切れた場合は新しい証明書を発行し、p12ファイルを更新する必要があります。

  • パスワードで保護: p12ファイルはパスワードで保護でき、不正アクセスから重要なプライベートキーを守ります。

  • アプリ配布時に必須: App Storeでアプリを公開するには、このファイルを使って署名することが必須です。

p8ファイル:プッシュ通知やAPIアクセスに必要な鍵

p8ファイルは、AppleのPush通知(APNs)やApp Store Connect APIを利用するために使われるプライベートキーを格納するファイルです。p12ファイルとは異なり、証明書は含まず、プライベートキーだけを保管します。このキーは、JWT(JSON Web Token)を生成して、サーバーとAppleのサービスとの安全な通信に使います。

p8ファイルのポイント

  • プライベートキーのみを含む: p8ファイルはプライベートキーだけを格納しており、証明書は必要ありません。

  • 有効期限がない: p8ファイルには有効期限がなく、更新する必要がありません。これは、p12ファイルと大きく異なる点です。

  • JWTによる認証: p8ファイルを使ってJWTを作成し、これを使って認証します。JWT自体には有効期限が設定されているため、p8ファイルに期限がなくてもセキュリティが保たれます。

  • プッシュ通知やAPIアクセスに必須: APNsでのプッシュ通知や、App Store Connect APIの利用にはp8ファイルが必要です。

p8ファイルとp12ファイルの違い

| 項目 | p12ファイル | p8ファイル |
|---|---|---|
| 含まれる内容 | 証明書とプライベートキー | プライベートキーのみ |
| 有効期限 | あり | なし |
| 使用用途 | アプリの署名 | プッシュ通知、APIアクセス |
| ファイルサイズ | 大きめ | 小さめ |
| 管理 | 定期的に更新が必要 | 更新不要 |

p8ファイルに有効期限がない理由

p8ファイルには有効期限がありませんが、それはp8ファイル自体が認証に直接使われるわけではなく、JWTを作成するための鍵としてのみ機能するからです。JWTには有効期限が設定されており、期限が切れたトークンは無効になります。この仕組みのおかげで、p8ファイル自体を定期的に更新する必要がありません。

この設計の利点

  • 運用コストの低減: p8ファイルの更新が不要なため、証明書の更新にかかる手間が省けます。

  • セキュリティの向上: JWTの有効期限は短く設定されることが多く、万が一トークンが漏洩しても、すぐに無効化されるため被害を抑えられます。

セキュリティ対策

p8ファイルとp12ファイルはどちらも機密性の高い情報を扱うため、次のようなセキュリティ対策が必要です。

  • アクセス制御: ファイルへのアクセスを必要最小限に制限し、不正な操作を防ぎます。

  • 安全な保管: 例えば、ファイルを暗号化したストレージに保存するなど、物理的にもデジタル的にも安全に保管します。

  • 監査とログ管理: ファイルへのアクセスや操作のログを定期的に確認し、不正アクセスがないかを監視します。

p8ファイルが後発であるにもかかわらず、p12より「若い」番号である理由は、これらの番号がファイル形式の開発順序を直接示しているわけではないためです。p12は「PKCS#12」という標準規格に基づいており、これは「Public Key Cryptography Standards」シリーズの12番目として登場したものです。一方、p8ファイルの「p8」は、Apple独自の命名規則に基づいており、PKCS標準とは無関係です。そのため、p8がp12よりも若い番号を持っていても、必ずしも後発の技術が若い番号を持つわけではなく、それぞれ異なる命名体系の中で付けられた番号であることが理由です。

p8ファイルの方が後発

まとめ


p8ファイルとp12ファイルは、Appleの開発において重要な役割を果たします。p12ファイルはアプリの署名に使われ、p8ファイルはプッシュ通知やAPIアクセスに必要です。特にp8ファイルの有効期限がないという特性は、運用コストの削減とセキュリティの強化に役立っています。開発者は、それぞれの用途や特徴を理解し、適切なセキュリティ対策を講じることで、安全にAppleプラットフォーム上での開発や運用が可能になります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?