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コールドスリープの中の人はカチンコチン

コールドスリープ――未来の宇宙旅行や長期間にわたる航海を描くフィクションでは、これがしばしば登場します。映画『エイリアン』や『パッセンジャー』のような作品では、乗組員たちが透明なポッドに横たわり、穏やかな表情で静かに眠りについている様子が描かれます。しかし、現実にこの技術が実現したとしても、その描写は大いに誤解を招くものであるかもしれません。

実際のコールドスリープは、体温を極端に下げ、体内の代謝活動をほぼ停止させることで時間を止める技術です。その温度は、摂氏-80度から-196度にも及びます。これほどの低温では、体内の水分や組織は完全に凍結し、人はまさに「カチンコチン」になります。冷凍庫の中のピザや野菜よりも冷たいわけですから。映画の中で描かれる、優雅に眠る乗組員たちの姿とはほど遠い、冷たく硬直した状態が現実なのです。

ちなみに、家庭の冷凍庫は-18℃程度です。冷凍アイスクリームは、冷凍保存することでかなり長期間持ちますが、永遠に保存できるわけではありません。アイスクリームは、温度が低い冷凍庫に入れておけば、数ヶ月から1年以上保存することができますが、時間が経つにつれて品質は劣化します。まず、アイスクリームに含まれる水分は冷凍庫内で徐々に結晶化し、食感が変わってしまいます。また、空気に触れる部分から酸化が進むことで、風味が損なわれたり、冷凍焼けと呼ばれる現象が起こることがあります。冷凍焼けは、冷凍庫内でアイスクリームが乾燥してしまう現象で、表面が白く粉っぽくなり、風味が失われる原因となります。もしも、コールドスリープの中の人がハーゲンダッツを持ったまま入眠していれば、200年後でも状態良く食べられるはずです。

一方、フィクションの世界では、コールドスリープ中の人物が常温に近い状態で保存されているかのように描かれることが多いです。ガラス越しに見える彼らの表情は穏やかで、まるで普通に眠っているかのように見えます。解凍の終盤作業なのでしょうか。確かに、凍結した無表情の姿では、観客は恐怖で凍りついてしまうでしょうから、演出としてマイルドにするのは合理的といえます。

映画『パッセンジャー』では、システムのバグで一人だけ予定よりも90年早く目覚めてしまうという悲劇が描かれています。彼は孤独と絶望の中で、禁断の行動をとるか悩み、それを実行してしまいます。その結果がどうなるかは映画をご覧になってください。最後の場面までの行間を想像するのが楽しいです。

「エイリアン」の冒頭シーンは、宇宙船の乗組員たちが静かに眠っていた姿から徐々に意識が戻り、再び活動を始めるシーンから始まります。この9月に公開される「エイリアン:ロムルス」は第一話の次に位置付けられるタイムラインだそうで、第一話へのリスペクトを強く感じるので、冒頭シーンがどうやって始まるのかにも注目です。

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