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ショートショート「妹に親友ができたらしい」


目次
1.親友
2.僕が兄だ
3.兄の秘密
4.お願い
5.

1.妹に親友ができたらしい

僕の妹に親友ができたらしい。とても可愛い子だそう。最近の彼女は日々を以前より楽しんでいるように見える。いい事だ。

言うまでもなく妹は大切な兄妹なので、彼女にも大切な人が出来た事が僕自身とても嬉しい。

引っ込み思案でなかなか自分から声をかけられない妹を見ていると僕はつい、手を貸したくなってしまう。貸してしまった回数は数え切れない…。手が焼けるほど可愛いと言うのは事実だと思う。

そんな彼女にも親友ができた。多少違うかも知れないが、親戚のおばさんが言う「あんなに小さかったのにこんなに大きくなって」がわかる気がする。あれは、身長や体付きだけを言っているのではないのだと思う。
激励の言葉でも送らなければ。

今日はその親友に初めてプレゼントを買うそうで、一緒に連れ出された。僕は運動できるカフェで待機だ。屋内にこんなスペースがあるのは珍しいと思う。結構広い。適度に運動しクッキーを食べ、ミルクを飲んだ。美味しかった。一時間もすると、かわいい袋を大事そうに抱えた満面の笑みの妹が帰ってきた。とても気に入ったものが見つかった!そんな笑顔だ。良かったね!僕もそう返した。

親友へのプレゼントはサプライズだ。僕もサプライズをしてもらった事があるけれど、あれはかなり良い。普段の感謝や思い、親密度がよく伝わる。何より、サプライズする側の、喜んでくれるかな!渡すの楽しみ!の気持ちが伝わって来るのが良い。そして、もらった側は驚きと溢れる喜びを全身で表すのだ。彼女の親友の喜ぶ姿が目に浮かぶ(親友を見た事はないが)

2.何と言われようと兄

親友はキョウコと言うらしい。夕飯の後、妹が家族に聞かせてくれた。黒髪のぱっつんボブでキリッとしたつり目、165cmの美しい子。妹は意外にも161cmあるらしい、優しい髪色のロングヘアでおっとりした目をしている。真逆のタイプ。キョウコ、聞けば聞くほど頼もしいな。お兄ちゃん負けそうです。

言ってる場合ではなかった。正直なところ僕はとても焦っていた。お兄ちゃんの座を剥奪されそうだ。落ち着け、それは無いだろう。僕も妹にサプライズしようか…いや、それは出来ない。ただ妹が兄妹として大切なだけでも今の世の中は厳しいから、ロリコンだとかシスコンだとか何だとか言われかねない。よく分からないが僕は家族が大切なだけだ。

まあ大丈夫、揺らがない僕の兄としての立場がある。自分で言うのもなんだが僕は兄としてかなりできるヤツだと思う。妹が退院して来て依頼、僕らはずっと共に育ってきた。一緒に遊んで片付けもしたし、リンゴは擦れないが熱を出した時は両親に代わり看病することも多かった。転んだ時は体を起こすのを手伝った。


3.兄の秘密

次の日の朝方、父が救急車を家に呼んだ。
水を飲みにキッチンへ向かった妹が突然意識を失い倒れたのだ。僕は立ち尽くした。暖かい毛布、お湯、枕、電話。頭では考えたがどうしようもなく動けなかった。僕は何もできない。

隊員のように僕もテキパキと出来ればいいのに。ただ狼狽えることしかできない。

僕は兄なので強くあらねばならないのに。

母が言っていた。
妹はガンだと。

父に言われた。
あの子を支えてやってくれと。

妹は入退院を数度繰り返していた。
がんの摘出手術の末、一度目に退院した時に、僕は彼女とはじめて出会った。その時の僕はまだほんの子供で、何も知らず兄と言うよりは弟だったけれど、細く小さな腕は僕をしっかり抱きしめ頼ってくれた。

数日前まではペットショップのアクリルケージでうなだれていたが、一目見て僕はこの人達の家族になると分かった。そして連れられてついた家にあの子が帰って来たのだった。僕が兄。守るべき妹。僕の妹。

両親が言っていた、あの子はあなたの妹よ、と。

僕は我に帰り、隊員の防御を潜り抜け妹に近づいた。何度も何度も妹を起こそうとぺろぺろ顔を舐めたり、聞こえるように力の限りで名前を呼んだりした。

声をかけ続けていたら少し、ほんの少しだけまつ毛が動いた。

妹がお願いと言った。僕は分かったと返した。

安定したところを見計らい隊員たちが妹を救急車に乗せて運んで行った。どうやら僕は乗れないらしい。

その日の夕方までずっと玄関に座っていた。
尻尾を振って出迎えるためだ。しかし妹は病院に泊まりらしい。大きな検査が必要になった。父だけが帰ってきた。僕のためだ。一緒にいてやりたかっただろうに。

そんな気持ちを察してか、父はいつも言わないような事を言う。お前にどれだけ救われたか分からないよ、なんて。泣いちゃうじゃないか。涙は出ないけどさ。

その日は一緒にねた。だいすきな父の枕ではなく、だいすきな母の枕の方にねた。

4.お願い

僕は病院にいる妹にプレゼントを届けなければいけない。近いうちに渡さなければいけない理由があるようだ。

妹の部屋へ行きプレゼントを探し、きっと病院へ行くだろう父に託す事にした。プレゼントは机の上に置かれていてすぐ見つかったが問題は父だった。

父に犬語は伝わらないが、とりあえず言ってみる。

ワゥーン ワン ワン

だめだ。察しの悪い男だ。この袋を見ても気付かないものかね、これは父の愚痴ではなく愛すべき点である。鈍感さが可愛いのだ。気づいて欲しかったがこれは愛すべき点だ。

救急車はすぐ来たから病院はさほど遠くないはずだ。僕は行く事に決めた。病院は分かりやすい匂いがするから行くのはそれほど大変ではないはずだ。

妹の願いを聞けてこそ兄と言えよう!

即座に支度に取り掛かった。途中お腹が空くと悪いので大好きなドックフードと食パンをトートバッグにつめた。父は大事な会議があるようで、もう出かけていた。

僕もそろっと出よう。
8:00出発だ

開け方は三歳の時に理解した。何度かひとりで外に出たが近所の人はめざとく家にいる母に連絡したので僕はすぐに御用となった。なるべく見つからないよう心がけた。人に見られた時は近くにいる人の後を追うか、家に帰るようなそぶりを見せた。

少し病院の匂いが強くなったと思うと、車通りも多くなった。車は危険。よく教えられた。青は進め、赤は止まれ。

何だかすごい視線を感じる、と言うか撮られている。はじめてのおつかいじゃあるまいし、と思いつつ僕は気づかないふりをしてあげる事にした。急いでますので…。

どんどん強くなる病院の匂いに鼻が曲がりそうだ。よっぽど暇なのか、若い男が携帯を片手に僕をつけていた。初めてのストーカーだ。このまま病院に着いてこられて、妹のストーカーになったら困るのでこの男の子を巻く事にした。13歳の僕もまだまだ走れる。面倒だから沢山省くが上手いこと巻いてやった。今頃ティッシュ配りのお姉さん達に足止めを食らいティッシュを5個くらいもらっているだろうよ。

病院が近い。かなり息が上がり、鼻水が垂れていた。僕もティッシュをもらっておけば良かったと思った。

病院は入るのが難しそうだ。救急車へも乗れないし、きっと中へも入れないのだろう。でも僕は入らなければいけない。とうとう着いてしまった。自動ドアが開けば見張りや中の人がこちらを見るはずだ。どうしよう。休憩しつつ考えた。

悩み兼ねているとバス停から歩いて来た老婦人が今にも倒れそうになりながら歩いていた。いい事を思いついてしまった。婦人は小さいので僕が杖の代わりになることができそうだ。盲導犬のようなフリをする作戦だ。最も婦人が犬アレルギーでない事と、目は見えているだろうが僕の助けを受け入れるかに全てかかっているのだが…。

婦人は近寄った僕の背中をぺちぺちと撫でると首輪に手をやり少し寄りかかった。婦人も僕を病院の介護犬か何かだと勘違いしているような感じもしたが、そちらの方が好都合だ。皆んなそれっぽい感じの目を向ける。

なんなく乗り切れてしまってラッキーだ。婦人に感謝を込め挨拶をしてわかれた。病院内は手すりがたくさんだからあの婦人も一人で問題ないだろう。

かすかに妹と母の匂いがした。大きすぎる病院でないがまあまあ広い。人と合わないのは至難の業だが幸い僕は病院と同じ白色だった。遠くに人がいても目を瞑れば、相手にはご飯の入った荷物だけしか見えないだろう。

いつの間にか午後になっていた。
午後はドラマでやってた通り手術が多いようで医者の動きは少なかった。ありがたい。階段を三つ上がると急に匂いが濃くなった。
ここだ。よく音を聞き静かになったところで階段の扉から出た。左、右、ナース、右の病室に隠れる、ナースが去る、奥の病室へ進む。一番濃い匂いがする!自然としっぽが動いてしまう。妹!来たよ!!!扉を開け中に入ると、思った通り妹がいた。目をまんまるくしている。無理もない。よほど嬉しいと見た。顔をいつものようにぺろぺろと舐めると妹はいつものように満面の笑みを浮かべた。

母は遅めのランチタイムらしい。

再開を喜んでいたら急にノックが聞こえた。ガラガラと扉が開く前にベット下へ体を滑り込ませた。セーフ。血糖値を測る時間だとか。

その日は父が青ざめた顔で病院へやって来た。
やつがいなくなった、と騒ぐ。
僕はベットの下で静かに笑った。
無事に届け物をしたのでドッグフードをたくさん食べ安心して眠った。

妹は次の日無事にプレゼントを渡すと、キョウコは色んな意味で涙を流して喜んだ。僕も尻尾がブンブンだ。

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