生きることは、ただ愛なのかもしれない-『DEATH TAKES A HOLIDAY』観劇記録

ファンタジーでありながら決してそれだけに留まらず、幻惑的な世界観に人生のリアルをあくまで自然に内包する構成美。
人間の生死・命という大きな題目を中心に据えつつも、重苦しくなりすぎずかつ訴求性を損なわない絶妙なバランスを保った筆致。
生命の輝きと愛を分かち合う歓びが、どこまでも静かにうつくしく描かれた作品だった。

わたしがはじめて舞台に立つ小瀧望さんに出逢ったのは、2023年2月、彼にとってはじめてのミュージカル出演にして初主演作となった『ザ・ビューティフル・ゲーム』でした。

宗教戦争によって夢や日常を奪われ、そのなかで揺れ動く自らの愛や信念に苦悩する青年を、その身体と心いっぱいに表現して0番に立つ彼にただ魅せられて、圧倒されて、それからずっと心を掴まれたままでいて。

だから、今回もほんとうにほんとうに期待しかしていなくて、今度はどんなミュージカルの小瀧さんが観られるんだろうって、収まらない高揚と少しばかりの緊張を抱えて席に着いていた。
彼なら絶対にこの期待を裏切らないでいてくれることなんて、最初からわかっていて、そのはずなのに。

彼が登場して歌い始めた瞬間から終演までずっと、小瀧望さん、すげ〜………という脳死感想しか湧かないくらい、やっぱりただただ、ずっと圧倒されていた。

これ本当に小瀧望さんか??こんな小瀧さんわたし知らんのやが??な瞬間が今回もたくさんたくさんあって、まだまだ知らない顔がどんどん出てくるの、ほんとうにどこまでも飽きさせないひとで困ってしまった。
何回でも新鮮にびびるくらい歌上手いし声響くし通るし顔綺麗だしスタイル良すぎるしで、終始なんやこれ……の気持ちで観ていました

前作のジョンとはまた違った形で、ミュージカル俳優としての小瀧さんの堂々たる佇まいに改めて感服した。華があるってこういうことなんやなというか……アイドルという肩書きを背負って、主演・座長としてカンパニーの真ん中に立つ計り知れない重圧の中で、圧倒的な存在感と、しなやかでいて煌びやかな光に魅せられて作品の世界に没入させてもらった。

死神という誰も見たことのない存在をこれほど違和感なく具現化すること、観る者にそう感じさせるまでどれだけの見えない努力があったのだろうかと思いを馳せずにはいられなかった。どこまでも深みを増す艶やかな歌声、軽やかで華やかなダンスシーン、今作にも大好きな舞台の小瀧さんが沢山詰まっていて、またひとつ忘れられない観劇体験ができました。

◯だいすきだった小瀧さんの羅列

・冒頭のイントロダクション、ナレーションのお声にめちゃくちゃ聴き覚えがあって、まさかと思ったら本当に小瀧さんでした……あまりに声が良すぎて、こんなのまでできるんか……??って驚嘆しかなかった。
あの映像とナレーションありきで作品の主題がはっきり提示されることで、これから目の前で始まるであろう物語に自然とすべてを委ねて心と思考を浸す準備ができる。導入としての位置づけがあまりに鮮やかだったなと思う。

・死神の登場シーン、仮面でお顔が隠れてるのもあって、最初本当に歌ってるのが小瀧さんだってわからなくて、でもやっぱり小瀧さんで。こんな歌い方する小瀧さん見たことない。小瀧さんのこんな声聴いたことない。本当に同じ人かと疑ってしまうほど、あれは紛うことなき死神の姿だったなあと何度でも思う。

・対してサーキ王子としての振る舞いはずっとスマートでスタイリッシュで、登場シーンで自己紹介した瞬間に客席から自然と拍手が沸くの最高だった……小瀧望さんって、もしかすると本物の王子様だったのかもしれない、と思ってしまうくらいには、所作・立ち振る舞いのひとつひとつがあまりにも洗練されすぎていて、他担でも終始ひいひい言ってました本当に。特に女性と接する時の一連の流れが貴公子すぎて、舞台上の女性キャラクターたちと同じトーンでなんて素敵なひと…!になってた。
かと思えば思いきりこの休暇を楽しもうと全身から溢れる高揚感も、にこやかに他の人たちと交流しようとする人懐っこい笑顔も、でも本質的な中身は死神のままだからちょっとズレた発言して空気を固まらせてしまうところも全部チャーミングで、みんな一瞬で夢中にさせられてしまうのも本当に頷けるなあと思った あれは天性の人たらしだ………

・あとサーキ王子、ロシア人の設定なのにあんなに違和感ないのどういうこと??ルーティン動画でもメイク工程が少なすぎて、もともとお持ちのお顔立ちが完成されきっているのを改めて実感してしまいだめになりました

・♪ALIVE! があまりに好きすぎる話 表情づくりの鮮やかさよ……はじめてふかふかのベッドで眠って朝日を浴びて目覚めて、美味しいご飯の味を知って、シルクの手触りを知って、そうしてはじめて"生"を実感する。素敵な休暇を謳歌するぞ!私は今生きてる!って晴れやかに歌うこのナンバーが、生きることには確かに希望があるんだって信じさせてくれるようで、あんまり眩しかった。一秒も無駄にしたくない!ってベッドの上で心から嬉しそうに飛び跳ねるサーキ、ほんとうに愛らしくって、こちらこそ一秒も見逃したくなかったよ!の気持ちです

・タップシーンも本当に想像よりずっとずっと素敵で…アリスの明るさに乗せられて徐々にひとつに重なっていく色合いの鮮やかさに、きらびやかに揺れるパリの夜を確かに見ました……ああいう種類の華やかさがあるミュージカル大好きや……

・その時々の感情に応じてカラフルに色を変えながらきらきら光る瞳、くるくる変わる表情、サーキの想いを伝えるそれらがほんとうにあかるくてまぶしくって、だからこそ有限のそのひかりが少しでも永く喪われないように幾度も願ってしまった。

◯その他感想・考察など

・最初にヴィラの人々と話して、そこから人間の感情と希望を教わる場面
人々の抱く(=人間の)感情がわからないと吐露する彼に、それならこれから見つけていけばいい、人生の歓びを見つけよう、って歌う人々の姿に、観ているわたしまでなんだか救われた気持ちになってしまった

・ヒロイン・グラツィアのWキャスト
これまでの観劇ではあまり体感してこなくって、今回折角なら!と両方観させていただいたんですが、同じ役で同じ衣装を着て同じ台詞を喋って同じ曲を歌ってるはずなのに、こんなにアプローチが変わるのか、纏う空気が変わるのかと驚嘆しっぱなしでした……
個人的には、リオさんのグラツィアには清廉な瑞々しさ、さくらさんのグラツィアには可憐な奔放さのイメージをずっと感じていたんですが、お相手によって小瀧さんのお芝居も微妙に変わってたような気がして、やっぱり役者さん同士の化学反応ってほんまに面白い……を体感するまたとない機会になりました。

・女性キャラクターたちの愛らしさ
今作の女性キャラクターたち、ヒロインのグラツィアをはじめとしてみんなそれぞれの愛らしさをすごく感じていて。
彼女たちがそれぞれに劇中で唄われる"真実の愛"に気づいてその想いを紡いでいくダンスシーンは、間違いなくこの作品の核のひとつだといまでも思っている。心から幸せそうにそれぞれの愛する人を想う表情が、3人ともほんとうにかわいらしくってだいすきなシーンでした。

なかでもわたしはずっとアリスがだいすきで…愛する人を失くして、突然目の前に現れた素敵な王子様の思わせぶりに翻弄されて、でも最後にはちゃんとほんとうの大切を探し当てられた彼女が、わたしにはとても眩しかった。
ほんとうは煌びやかなパリジェンヌなんかじゃなくて、ただの農場育ちの田舎娘なの、ってサーキに吐露するシーン、意識的にも無意識にも自分を着飾って良く魅せようとして夢に酔ってしまう人間のもどかしさがありありと映っていて どんなに優しくされたって、私に本気じゃないんでしょう、どうやらそうらしい、冷たい人ね、ってあの応酬が一言ずつ心に刺さっていく感覚だった。そのなかでエリックとの出逢いを経た彼女が、どうか光を掴めるようにと思わず願ってしまった。

そしてデイジーのこと コラードがグラツィアに夢中なことをわかっていながら、それでもときめきを抑えきれない心の動きがずっとそこに確かにあって、サーキとグラツィアの結末を想うほどに、すべて元通り、が彼女の夢を奪ってしまわないことをただ願っていました 彼女たちの未来のことも、ずっとほんのりくるしいままでいる。

・ダリオとエヴァンジェリーナの関わり
亡くなった夫・マリオを想うあまり、主治医・ダリオを夫だと思い込んでしまうエヴァンジェリーナ。彼女の言葉も、その想いも自らに向けられているわけではないと知りながら、一途に彼女を想い支え続けるダリオ。その献身がサーキとの出逢いによってほんの一瞬だけ報われる終盤シーン、ずっとずっと心に焼きついて消えない。彼女はマリオを忘れられずとも、ダリオを想っていないわけでは決してなくて、サーキの存在に死を意識したことで、自分の中に密かに生まれていた愛の行く先に気がつくことができたからこそ、なのかなと勝手に解釈してるけど、だとするとここも元通り、の結末があまりにくるしくてたまらなくなってしまった

・エリックとロベルト、そこに対峙するサーキ
TBGでのジョンとトーマスを経ての東さんとの再共演、ほんとうに嬉しくてずっとわくわくしてたんだけど、ここのロベルトを介した対峙の場面、ただただじわじわと心を絞られる苦しさがそこにあった。ロベルトを死へ誘う死神の温度のない冷たい瞳と表情、心を交わした戦友が生命を落とす瞬間をまざまざと見せつけられるエリックのやるせなさ、全部がダイレクトに飛び込んできてずっと締め付けられていた 前作も今作もつらい関係値だったので、いつかこのふたりがしあわせに対峙する作品観たいです……
きっとエリックの最大の見せ場だったこのシーン、登場シーンは少ないながら圧倒的な存在感と深みを与えてくれる存在だった彼の魂の叫びのようで 改めてミュージカルで拝見して、やっぱり東さんすげえや……になりました

・グラツィアの両親との関わり
きっとサーキにとって最も大きな転換点だったと思う。ロベルトの部屋で母・ステファニーと話す場面、息子を失った母親の想い、もう戻ってくることのない彼の生活が残った部屋を片付けられない切なさ、当たり前にそこにいた人がある日突然いなくなるということ、残された人の苦しさ、そういうものが渦になって迫ってくるようで、こんな感情をサーキは初めて知って揺らいでいるんだろうことを、その瞳の色がなによりも雄弁に語っていてくるしくなってしまった

その後の父・ヴィットリオと話すシーンでも、グラツィアを連れていくこと=グラツィアから未来を奪うことで、それがどういうことなのかを初めて突きつけられた死神が最後に告げる、「彼女を置いていくことにする」その一言の重みがずっと忘れられない。
娘の身代わりに生命を落としても構わない、とまで告げる父親の覚悟に触れて、親から子への愛情を知る一連を目の当たりにして、そのお互いの愛のままならなさに途方もなくくるしくなるのと同時に、このひとは目に宿す光の色まで操れるひとなんだろうかとどきどきしてしまった

・彼女に未来を遺すために、「私は君を愛していない」ことを心を切り裂きながら告げるサーキの苦悩。あの絞り出し方、観ているだけで締め付けられるような苦しさがあって、ただでさえ息を詰めていたのに、そのあとにぽろぽろ発露する本音をグラツィアがちゃんと聴いてくれていて、幸せ、と謳う彼女を抱きしめてしまう自分を勝手だ、と悔いる彼はあまりに人間くさくって、たまらなくなってしまった

・ラスト、グラツィアの前で死神の姿に戻ってしまうシーン
きっといちばん見られたくない人に、いちばん見られたくない姿を見せてしまったあの場面で、彼が仮面を外すことができたのは、彼女のサーキへの想いがどこまでも澄んでまっすぐだったからで。外套を翻して、そのなかに彼女の魂を抱いて未来を見つめるあの結末の朧げなうつくしさが、ずっと脳裏から離れないでいる。正しいのかはわからないし、遺された家族たちのことを想うとたまらないけれど、でもあの瞬間のふたりにとっての永遠に一緒に居られるただひとつ、は、きっとあれしかなかったのだとも思う。

戦争・病気・災厄、あまりに多すぎる人の死に疲れ果て、はじめてグラツィアの死を見逃した瞬間に休暇を取ろうと決意する死神。人間が自分を、死を恐れるのはなぜか。夢とは、希望とは、愛とは何か。グラツィアやヴィラの人々との交流を通してそれを知った彼は、この2日間の休暇を通してきっとはじめて"生"を生きることに気づいたのだと思う。たぶんそれまでの彼は"死"を生きることしか知らなかったのだと思うので。彼らが辿り着いた結末はどこまでも哀しいものだったけれど、同時に途方もなくうつくしくて、それをうつくしいと想えてしまうことがまた哀しくて、なのにどうしようもなく愛おしい、そんな不思議な心地からじわじわと生まれてくる充足感でひたひたになりながら歩いた帰路が、いまもわたしをあの世界に惹きつけつづけている。

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