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[log] 7月7日のお話

 七夕だから、星でも見に行こうよ。


 そう言って彼は私を誘った。
 いわゆる"友達以上恋人未満"ってやつで、さらに言えば、トップアイドルの彼と、しがない一般人の私。
 もし週刊誌に撮られても、彼にしてみれば、十分に釈明できる関係が保たれていた。

 カーステレオが静かに、アコギの澄んだ音を響かせている。

 運転席に座る彼の横顔は、いつもと変わらない。


 私は、彼を好いていた。
 ひょんなことで知り合うずっと前から、私は彼を好いていた。

 恋に落ちてしまったら最後、きっとその先に幸せは無い。
 そう推測することは容易だったけれど、やがて自分の心に嘘をつき続けることが出来なくなった。
 幸せが欲しいのではなくて、ただ、"好き"の感情だけを拠り所にして、彼に恋をした。


 「ねぇ、聞いてた?今の話」
 「えっ・・・あ、ごめんなさい。何?」


 聞いてなかったの?と少々呆れたように笑った彼。
 こうして色んな表情を知る度に、ますます"好き"は募ってしまって。
 やり場のない感情にいつも苦しめられ、決して実らないであろう恋が、私を蝕んでいくのに気付いた。

 傍にいることさえも、辛くなっていた。


 高速をとばして連れてこられたのは、人気の少ない海だった。
 車を降りて、見上げた先には無数の星。

 あぁ、こんなに綺麗だったっけ。

 夜空を見上げたのなんていつぶりだろう。
 耳に残るのは、幾度も打ち寄せる波の音。


 「晴れてよかった」
 「・・・うん。」
 「織姫と彦星、ちゃんと会えてるかな」
 「・・・」


 星空が滲んで、つーっと、涙が頬を伝った。
 泣きたくなんてないのに、意に反して止まらない涙。
 全てを包み込んでくれるような広大な星空と静かな波音、そして彼への複雑な思い。

 心配そうに私を呼ぶ声が、ますます涙を誘う。


 「ごめん。」


 そう言ったのは彼の方だった。
 驚いて、隣に立つ彼を見る。


 「ずっと逃げててごめん、」
 「・・・」


 不意に右手をとられる。
 骨ばった男の人の手の感触が直に伝わって、脈打つ心臓がうるさい。

 彼の瞳が、まっすぐに私を見つめていた。


 「・・・好きだよ。」


 "俺の織姫に・・・なってくれませんか?"


2014.07.07.

Photo by,Luke Peterson Photography