[log]ひとりぼっちで泣かないで
「はぁ・・・」
部屋にたどり着き、ベッドに身体を投げ出して大きなため息を吐く。
これ以上ないくらいに重大なミスをして、これでもかってくらいに怒られて、挽回するチャンスすら与えられないまま、半ば強制的に帰宅させられた。
悔しいのと情けないのと疲れたので、本当に頭も心もいっぱいいっぱいだった。
カバンの中でスマホが鳴る。
重い身体を起こして画面を見ると、表示されているのは彼の名前。
「・・・っ・・・タイミング・・・」
出るのを躊躇っていると、切れた。
・・・そして、また鳴りだした。
彼にしては珍しい。
何か急用かな。
「・・・もしもし?」
「彩音?今大丈夫?」
「うん、どうかした?」
一生懸命いつもの調子で言葉を発する。
そうやって頑張っていないと、全部彼に見抜かれてしまう気がした。
落ち込んでいるところなんか見せたくない。
「いや、なんか急に会いたくなってさ。」
胸がギュッと締め付けられるのがわかった。
どうしてこんな絶妙のタイミングでそんなこと言うの?
甘く優しい声色が身体中を巡る。
・・・ダメだ、泣きそう、
「・・・彩音?」
「・・・ご、ごめっ・・・」
"ごめん"と明るく言おうと思ったのに、必死になって出したその声は涙声以外の何でもなくて。
あぁ、何やってんだ私。
「今、家?」
「・・・」
これ以上何か言ったら止められなくなりそうだ。
沈黙をYesと判断したらしい彼は"待ってて"とだけ言い残し、電話が切れた。
*
玄関チャイムが鳴って我に返り立ち上がる。
電話が切れてからの時間が、長かったのか短かったのかもわからない。
ドアを開けると、一番会いたかったけど、会いたくなかった、大好きな人。
その優しい笑顔を見た瞬間、堪えていた涙が堰を切ったように溢れ出した。
彼の前では笑顔でいるってずっと決めてたのに。
私が彼に元気を与えられる存在でありたい、って思ってたのに。
大きくて逞しい腕に抱かれて、気づいた時には子供みたいに泣きじゃくっていた。
*
「落ち着いた?」
「・・・」
その問いかけに無言で頷く。
どれくらいの間、彼の胸で泣いていたのだろう。
時々背中をさすってくれたり、頭を撫でてくれたり・・・。
そうやって触れる彼の体温は、ぐちゃぐちゃになった私の心を徐々に落ち着かせてくれた。
散々泣いたら、少しすっきりした気がする。
「ごめんね・・・」
「全然。」
そう言ってまた優しく笑う。
・・・その顔、ずるいよ。
再び力強く抱きしめられた。
「たまには甘えていいんだから。」
「・・・ごめん、」
「謝んないでよ、俺ってそんな頼りなかった?」
彼がそう言って笑う。
あ、そんな風に思わせちゃってたんだ、って初めて気が付いた。
そんなわけないのに。貴方ほど頼りになる人なんかいないのに。
「そうじゃ、なくて、」
泣きすぎてしゃっくりが止まらない。
彼が私の言葉を待ってくれているのがわかる。
「心配、かけたくなくて、・・・すごく忙しいの知ってるから、私が、負担に―――」
その瞬間、ふっと視界が暗くなる。
それ以上は言うな、と言わんばかりのキス。
「俺は彩音が大好きだから、大事だから、辛いことははんぶんこしてあげたいし、楽しいことは2倍にしてあげたい、」
優しい口調で、柔らかい声でそう言う彼の瞳は、まっすぐに私を捉えて離さない。
「どんなに忙しくても、だよ。」
「・・・」
「だから、ひとりで泣いちゃだめ。」
「・・・はい。」
「ん、よくできました。」
頭をくしゃくしゃされて、また少し視界が滲んだ。
(あっ・・・メイク・・・)
(心配しなくてもちゃーんと崩れてるよ)
(うぅ・・・見ないで・・・)
(ふふっ、恥ずかしがってんのも可愛い、)
2014.04.28