皆、愛を伝えたいんだよね、きっと。【掌編小説】
この物語は、妃観さんのコメント欄→ふゆほたるさんの作品を受けて、即興で書いたものです。温かく見守っていただけると嬉しいです。
皆、愛を伝えたいんだよね、きっと
ひろみちゃんは、お妃さまお付きの占い師だ。今はもう、妃観(ひろみ)先生と呼ばないといけない。
私たちは幼い頃、毎日のように二人して小さな泉へ駆けて行った。泉の周りには自然発生したお花畑(Alpine Meadow)がある。
白い花が群生していたので、村人たちはその様子を「Greenfield の White life」と呼んでいた。緑野の白い命。
その場所が私たちのお気に入り。一緒に花冠を編んでは、水鏡に映して未来を占っていた。幼い私たちの占い方は、ごくシンプル。花冠があまり美しく映らなければ、凶。美しく映れば、吉。
単純な占いでも、コンディションがまざまざと映るので、侮れない。私たちは幼少から、人より少しだけ多くのものが『視えた』のだった(Clairvoyance)。
ある日 水鏡を覗くと、花冠を着けたひろみちゃんの姿が、それはそれは夢のように美しくてお城のお姫様のようだったので、
「すてき!しばらくは大吉ね!」
と私は思わず飛び跳ねてはしゃいだ。ところが、ひろみちゃんの笑顔がにわかに翳り、
「ゆりちゃん、聞いて。ものごとがあまりにも美しく仕上がると、そこから気を付ける必要があるの。そろそろ、そのことを知っておいたほうがいいわ。ゆりちゃんに、教えたいことがあるの」
と、いつもよりずっと大人びた口調で言った。
「なぁに、その言い方。わたし、そういうの嫌いだわ」
私はただ、一緒に喜んでもらえなかったことが恥ずかしくて、そして私に何かを教えようとしている―つまり彼女のほうが多く知っている―ことが悔しくて、拗ねてしまったのだ。
花冠をポーンとグリーンフィールドに投げ捨てて、私はズンズンと泉を後にした。まだまだ子供だったのだ。
しばらくひろみちゃんと会っていないうちに、彼女がお妃さまの占い師として都に迎えられたことを知った。
今思えばあの日、少しずつ身支度をして、髪も念入りに梳いていたので、泉に映った彼女は格別な美しさだったのだろう。お話をしているときは、きっとお顔しか見ていなくて分からなかった。
*
あれから月日は経ち、私は生まれ育った村で結婚式を挙げた。
ちょうどその頃、風の便りで
「お子ができた妃観先生は、お妃さまの計らいで、しばらくは都に隣接する自然豊かな村で家族と一緒に暮らせるようになった」
という噂を聞いた。その村なら、わが村の住人も足を運んだことがある。
私は、心臓をバクバクさせながらペンを執った。その時代、まだまだ貴重な紙が、緊張の汗で湿る。エプロンで手汗を拭きながら夢中でしたためた。
「ひろみちゃん、ううん、妃観先生。お元気ですか?
子供の頃のこと、ごめんなさい。最後に水鏡で占ったあの日、うっとりするほど、ひろみちゃんは美しかったよ。『お城のお姫様』に視えたものだから、私は飛び上がるほど嬉しかったんだ。
だけどひろみちゃんは、悲しそうな顔をしていた。お城に行くのは、お妃さまにお仕えするためだったんだね。
ひろみちゃんは今、元気に過ごしていますか?そうだったら、私、もう幸せです」
ここまで書いて「いやだ、『先生』ってつけていない箇所が幾つもあるわ」と書き損じに気付いたけれど、それ以上紙を持っていなかったので、そのまま村の青年のもとへ走った。
「冬蛍さん!この文を、届けてほしいの!」
冬蛍さんは、伝書鳩も使えるし、旅をしながら直接 文を届ける仕事もしてくれる。彼は実のところ魔法使いであるというのが、専らの噂だ。
鳩を肩に乗せた冬蛍さんがニコッと微笑んだ。
「もちろん、いいよ。だけど、『効果の保証』はしないよ?」
いやね、わざわざそんなこと言うなんて、やっぱり魔法使いなんだわ。
私はもう効果を感じている。立場上、ひろみちゃんが返信を送ることができなくても、彼女への愛と憧れ、幼き日の謝罪だけ伝われば、彼女はきっとニッコリと笑ってくれる。
想いよ、届け!
私たちは生きているうちに、自分なりに愛を贈り合いたいのだ。
おわり
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