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本州を半周する乗車券

落語の立川志の輔師匠の演目に「みどりの窓口」というのがあるらしく、そこに出てくるきっぷを実際に買ったらいくらになるんだろうねというのが事の発端。

この動画で9分30秒からが件のやり取り。すなわち、老夫婦が「二人で宮崎まで行きたい」とのこと。
どこでのやり取りかは明言されないが、落語なので東京都区内発着として話を進めてしまう。

初出がいつかは調べきれなかったが、ネタ元となった清水義範の『バールのようなもの』が1995年出版、この演目が入った最初のCDの収録が2003年ないし2004年とのことなので、この期間で唯一手元に存在する『JR時刻表2002年3月号』で調べてみた。

さて、最初の下りは旅程に起こすとこんな感じ。

乗車券:東京都区内→宮崎 15,960円
経由:東海道、山陽、鹿児島本線、日豊
特急券:東京→小倉 10,120円(のぞみ普通指定席)
    小倉→宮崎 1,300円(普通指定席、乗継割引適用)
合計:27,380円×2=54,760円

「始発……6時でよろしいでしょうか?」との提案にOKを出すので乗り継ぎはこんな感じ。にちりん7号には一本後ののぞみ3号(東京6:53→小倉11:39)でも間に合うのは内緒。

東京6:00
↓のぞみ1号
小倉10:36
  12:25
↓にちりん7号
宮崎17:11

ところが、後出しで「福井に住む孫(小学4年生)も連れていきたい、まだ小さいから自分たちが迎えに行く」と言い出したので、大きく寄り道する経路になってしまう。
きっぷは連続乗車券にして一セットにするやりかたもあるけれど、宮崎までの通算と福井に飛び出す部分を別建てにした方が安いのでそちらで算出した。

老夫婦の分
乗車券:東京都区内→宮崎 15,960円
経由:東海道、山陽、鹿児島本線、日豊
    米原→福井 1,620円
経由:北陸
    福井→京都 2,520円
経由:北陸、湖西
特急券:東京→米原 4,920円(普通指定席)
    米原→福井 830円(普通指定席、乗継割引適用)
    福井→京都 2,290円(普通指定席、※乗継割引適用不可
    京都→小倉 6,420円(のぞみ普通指定席)
    小倉→宮崎 1,300円(普通指定席、乗継割引適用)
小計:35,860円×2=71,720円

孫の分
乗車券:福井→宮崎 6040円
経由:北陸、湖西、東海道、山陽、鹿児島本線、日豊
特急券:福井→京都 1,140円(普通指定席)
    京都→小倉 3,210円(のぞみ普通指定席)
    小倉→宮崎 650円(普通指定席、乗継割引適用)
小計:11,040円

一行合計:82,760円

ネタでは「6時23分のひかり」とあるが、使用した時刻表にはドンピシャの列車がなかったので近接する時刻の列車で乗り継ぎパターンを調べてみた。

東京6:33
↓ひかり141号
米原8:50
  8:57
↓しらさぎ1号
福井10:02
  10:43
↓サンダーバード18号
京都12:06
  13:12
↓のぞみ11号
小倉15:39
  16:25
↓にちりん11号
宮崎21:06

辛うじてたどり着けてるだけで、宮崎についてからの夕飯がかなり厳しい時間になってしまった。
サンダーバードを新大阪(12:28着)まで乗ればひかり373号(新大阪12:42発→小倉15:08着)に乗れるけど昼食の時間が取れない上、小倉から先のにちりんがない。小倉からのにちりん11号は長時間停車を取らずに延々走り続けるタイプなので、小倉で補給をしっかりしないとかなりしんどい事態が予想される。

ところが老夫婦、この福井の孫を長野にいる娘夫婦に合わせたい、驚かせたいから福井から孫を連れて長野に行きたいと言い出す。概要を字で書いているだけでも中々のトンチキであるが、動画で見ると笑いが止まらなくなるのでまだ見てない方は見るとよい。

さて、長野で娘夫婦と合流して再度東京まで戻ってきて西進する旅程となったため、経路が6の字状というか、9の字状というか、σの字状というか……とにかく重複が発生してしまうことになった。こうなると実際の乗車券の発券ルールでは1枚の切符にすることができないので途中で分割することになる。
経路を分割するに当たって、JRの乗車券は1枚がなるべく長経路の方が運賃がお安くなるので、実際の乗下車とは無関係に坂田(米原から北陸本線で隣の駅)で分割することにする。

老夫婦の分
乗車券1:東京都区内→坂田 7,140円
経由:東海道、北陸
乗車券2:坂田→宮崎 20,690円
経由:北陸、信越、北陸新幹線、東海道、山陽、鹿児島本線、日豊
特急券:東京→米原 4,920円(普通指定席)
    米原→福井 830円(普通指定席、乗継割引適用)
    福井→金沢 1,660円(普通指定席)
    金沢→直江津 2,610円(普通指定席)
    長野→東京 4,080円(普通指定席)
    東京→小倉 10,120円(のぞみ普通指定席)
    小倉→宮崎 1,300円(普通指定席、乗継割引適用)
小計:53,350円×2=106,700円

孫の分
乗車券:福井→宮崎 10,030円
経由:北陸、信越、北陸新幹線、東海道、山陽、鹿児島本線、日豊
特急券:福井→金沢 830円(普通指定席)
    金沢→直江津 1,300円(普通指定席)
    長野→東京 2,040円(普通指定席)
    東京→小倉 5,060円(のぞみ普通指定席)
    小倉→宮崎 650円(普通指定席、乗継割引適用)
小計:19,910円

娘夫婦の分
乗車券:長野→宮崎 17,430円
経由:北陸新幹線、東海道、山陽、鹿児島本線、日豊
特急券:長野→東京 4,080円(普通指定席)
    東京→小倉 10,120円(のぞみ普通指定席)
    小倉→宮崎 1,300円(普通指定席、乗継割引適用)
小計:32,930円×2=65,860円

一行合計:192,470円

乗車券と特急券合わせて32枚も発行される事態となってしまった。なおこれは片道分である。
演目中では「周遊の適用になります」という台詞があるが、ここは完全にフィクションである。先述の通り、老夫婦の旅程の経路に重複区間があって1枚のきっぷにできないからである。分割した2枚目の方に適用さえるために、行って帰ってくるのに都合の悪くないところで分割するという手法もなくはないけれど、場合分けが大変煩雑なので算出しないことにした。なお、時代によっては"周遊きっぷ"というよく似た別制度が適用される可能性があるが、発着地同一の条件があるので結局適用できない。

さて、福井への寄り道でもだいぶ到着時間がしんどいことになってしまったのに、本州を半周どころか一番胴回りの太いところを一周して果たして宮崎までたどり着けるだろうか。結論としては、「この時代だからたどり着けた」といったところだ。以下に示す。

東京 6:33
↓ひかり141号
米原 8:50
   8:57
↓しらさぎ1号
福井 10:02
   10:29
↓サンダーバード7号
金沢 11:11
   12:22
↓北越5号
直江津14:09
   14:45
↓(普通列車)
長野 16:18
   16:27
↓あさま524号
東京 18:08
   18:53
↓のぞみ27号
小倉 23:39
   23:50
↓ドリームにちりん
宮崎 6:45

今はなき夜行列車"ドリームにちりん"によって24時間乗りっぱなしルートが形成されてしまった。自分たちの分だけでも10万円超、5人全員分で20万近いきっぷを買って限界旅程に挑むのだから「財力と体力がすごいなあと思いまして、、」なんて駅員氏が思わずこぼしてしまうのも頷ける。
ちなみに、長野から一旦東京に回されているが、これを名古屋経由にしても到着時刻は変わらなかった。運賃+特急料金の合計は一人当たり5000円ほど安くなる。

2021年4月現在のダイヤでは新幹線がさらに延びたりスピードアップしたりしてるので、一周部分のラップタイムは早くなっているのだがドリームにちりんがなくなってしまったので乗りっぱなしで宮崎まではたどり着けなくなってしまった。

東京 6:00
↓のぞみ1号
名古屋7:34
   7:37
↓ひかり535号
米原 8:02
   8:10
↓しらさぎ51号
福井 9:15
   10:01
↓しらさぎ1号
金沢 10:48
   10:57
↓はくたか560号
長野 12:23
   12:28
↓あさま616号
東京 14:12→→→羽田発宮崎行の最終航空便は19:05発
   14:30
↓のぞみ41号
小倉 19:13
   19:41
↓ソニック40号
大分 21:02
   21:47
↓(普通列車)
佐伯 23:05

ただし、小倉から先を以下のようにすると飛行機を使わずともその日のうちにたどり着ける。さくら567号は新大阪から博多までのぞみ41号の後を追ってくるので、この区間のどののぞみ停車駅でものりかえができる。ただし、新八代からのバスは東京駅の窓口では買うことができないので、とても不安が残る。

小倉 19:39
↓さくら567号
新八代20:51
   20:59
↓B&Sみやざき567号
宮崎 23:04

「バスの切符は現地で買ってください」と念押しした上で、全員分の運賃料金を計算すると以下の通り。のぞみ41号からさくら567号へののりかえは一番安くなる新大阪駅で計算した。この両列車についてはどこでのりかえても階段なしでのりかえができる。

老夫婦の分
乗車券1:東京都区内→坂田 7,480円
経由:東海道、北陸
乗車券2:坂田→新八代 20,240円
経由:北陸、北陸新幹線、東海道、山陽、鹿児島本線
特急券:東京→米原  5,360円(東京~名古屋のぞみ、普通指定席)
    米原→福井  860円(普通指定席、乗継割引適用)
    福井→金沢  860円(普通指定席、乗継割引適用)
    金沢→長野  5,050円(普通指定席)
    長野→東京  4,270円(普通指定席)
    東京→新八代 12,050円(東京~新大阪のぞみ、普通指定席)
バス:新八代→宮崎  4,350円
小計:60,520円×2=121,040円

孫の分
乗車券:福井→新八代 9,790円
経由:北陸、北陸新幹線、東海道、山陽、鹿児島本線
特急券:福井→金沢  430円(普通指定席、乗継割引適用)
    金沢→長野  2,520円(普通指定席)
    長野→東京  2,130円(普通指定席)
    東京→新八代 6,020円(東京~新大阪のぞみ、普通指定席)
バス:新八代→宮崎  2,180円    
小計:23,070円

娘夫婦の分
乗車券:長野→新八代 17,050円
経由:北陸新幹線、東海道、山陽、鹿児島本線
特急券:長野→東京  4,270円(普通指定席)
    東京→新八代 12,050円(東京~新大阪のぞみ、普通指定席)
バス:新八代→宮崎  4,350円
小計:37,720円×2=75,440円

一行合計:219,550円

消費税が5%から10%になって、新幹線が北陸と九州で開業してスピードアップした分が乗ってきて5人分で2万7千円ほど高くなった。このうち1万円くらいが消費税だから、差し引くと現代技術とはなかなかお手軽な値段で利用できるものである。
以下は蛇足ながら、仮にこの老夫婦が現代技術を駆使するコンピューターおばあちゃんとインターネットおじいちゃんで、有り余る財力と体力を駆使して旅行に行きまくっていて、様々なルールに精通している人だと仮定して、上記の行程に適用できるあらゆる割引を載せたらどうなるかを試算した。手当たり次第に適用させていったので適用の可否に誤りがあるかもしれない。なおサービスの利用に必要な会員権の価格は含めていない。

乗車券ジパング倶楽部割引 東京~福井 6,230円×2
e特急券 東京~米原 4,150円×2
eきっぷ 米原~福井 1,200円×2 
WEB早得1 福井~長野 4,540円×2+2,260円
お先にトクだ値35 長野~東京 5,280円×4+2620円
EX早得21 東京~博多 15,890円×4
乗車券(小人) 東京~博多 7,040円
特急券(小人) 東京~博多 4,650円
B&Sみやざきネットきっぷ 博多~宮崎 7,300円×4+3,650円

一行合計:166,340円

以下は蛇足の蛇足。初出と思しき期間中(1995年~2004年)に「大安の25日」がどれだけ存在するか調べてみた。仕掛けるなら1998年の12月であってほしい。

1995年5月(木)8月(金)
1996年1月(木)
1997年8月(月)11月(火)
1998年2月(水)12月(金)
1999年9月(土)
2000年4月(火)7月(火)9月(月)
2001年4月(水)10月(木)
2002年5月(土)8月(日)
2004年11月(木)

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