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週刊オールライター第118号 「名鉄の『底なし沼』入門」

愛知・岐阜の両県に444.2kmの路線網を持つ中京圏最大勢力の私鉄・名古屋鉄道。「名鉄」とも呼ばれます。この名鉄、多くの鉄道ファンは口を揃えて
「カオス」
と形容しています。決して悪い意味で言っているのではありません。名鉄には、理解が追いつくまでに気の遠くなるような時間を要する、アクロバティックで目まぐるしい列車がたくさん存在します。それがこのように表現されるのです。
そこで今回は、名鉄の数ある列車の中から、私が選んだ「底なし沼(「カオス」という表現をそのまま使用しても良かったのですが、言葉の響きが悪いので、「底なし沼」と柔らかく表現してお送りします)」のような列車を10列車選び、初級・中級・上級の3ランクに分けてご紹介。皆さんを「底なし沼」にご招待いたします。今回ご紹介するダイヤは、2025年2月時点のもので、今後のダイヤ改正で変化があるかもわかりません。


初級編 列車種別が〇〇なのに車両は××

まずは、初級編です。名鉄の「底なし沼」の中でも一番レベルがやさしいのは列車種別と使用車両のレベルが釣り合っていない列車です。今回初級編で特集する列車は以下の4つです。

①赤池06:27発犬山行き625列車・赤池07:18発犬山行き723列車(犬山線内急行・名古屋市営地下鉄車両による優等運用)

平日ダイヤで、名古屋市営地下鉄鶴舞線赤池を06:27に発車する犬山行きと07:18に発車する犬山行きの特徴は「列車種別が『急行』なのに車両は『地下鉄車両』」です。地下鉄車両が通過駅のある列車の運用に就く、という事例は相互直通運転が盛んな関東でよく見られるのですが(都営新宿線急行、東京メトロ副都心線Fライナー、横浜市営地下鉄ブルーライン快速など)、関東以外ではこの名鉄犬山線、京都市営地下鉄烏丸線と近鉄京都・奈良線を直通する急行だけです。
ちなみに、鶴舞線から犬山線に直通する急行はこの犬山行き以外にも、岩倉行きが2本設定されていますが、地下鉄車両と名鉄車両が1本ずつ担当しているので、どちらが来るかは運次第です。

②新鵜沼06:00発急行豊川稲荷行き674列車(一部特別車・特別車への乗車OK)

「名鉄特急」と呼ばれることがある特急・快速特急に充当される車両のうち、豊橋・中部国際空港方2両が特別車両、その後ろ4両は特別料金なしで乗車できる一般車になっている「一部特別車編成」となっている1000・1200系と2200系は、朝と夜に急行や普通運用に入ることがあります。要するに、「列車種別が『急行』なのに車両は『一部特別車編成の特急車両』」ということです。
その列車の一つが、この平日朝06:00に新鵜沼駅を発車する急行豊川稲荷行きです。この列車は急行ですが、特別車も開放されており、特急などと同じく特別車両券「ミューチケット」を購入することで利用できます。

一部特別車特急の例(パノラマsuper1000・1200系)。

③豊明05:35発急行豊橋行き512列車(一部特別車・特別車締切)

「列車種別が『急行』なのに車両は『一部特別車編成の特急車両』」という列車の中には、特別車の客扱いを実施しない「締切」状態のまま運用する列車も存在します。その列車が、豊明駅に隣接する犬山検車場豊明検査支区からの出庫を兼ねている、豊明駅を朝05:35に発車する急行豊橋行きです。この列車が特別車の客扱いをしない理由は、運行経路が名鉄名古屋駅にかすらないからだと思われます。豊明駅は、名鉄名古屋駅から見て豊橋方へ14駅離れた場所にあります。前述した急行豊川稲荷行き674列車は、大ターミナル・名鉄名古屋駅を通るため、岐阜県から名古屋方面の通勤客需要を見込んで特別車を開放していると思われますが、この列車は着席需要が見込めないため、営業していないものと思われます。

中級編 特別停車

名鉄の優等列車には、特別停車が日常的に行われています。要するに、時間帯によって停車する駅が増えるのです。また、普段その種別の列車が停車しない駅を始発着駅とする列車も「特別停車」扱いに分類されます。

一番上の特急河和行きは、南加木屋・巽ヶ丘に特別停車します。

④栄生06:38発快速急行中部国際空港行き600E列車(快速急行が停車しない栄生駅始発)

名鉄名古屋駅の一つ隣の栄生(さこう)駅は、急行・準急が停車しますが、この駅始発の快速急行が1本だけ存在します。休日ダイヤで、栄生駅を06:38に発車する中部国際空港行きです。なぜ名鉄名古屋駅始発ではなく、栄生駅始発になっているかというと、
「名鉄名古屋駅が狭いから」
「栄生駅の東枇杷島駅方に車両を留め置く場所があるから」
この2点が理由と思われます。
ちなみに、名鉄名古屋駅がどれだけ狭いかは、過去に記事にしていますので、そちらをご覧ください。

⑤名鉄一宮07:37発急行中部国際空港行き800E列車(大江駅特別停車)

平日ダイヤの、朝方に常滑・中部国際空港方面に向かう快速急行のうち、この列車を含む3列車は大江駅に特別停車します。大江駅からは、東名古屋港駅に向かう名鉄築港線が伸びており、その路線を使って通勤する乗客の需要に応えるためにあえて停車しているものと思われます。名鉄築港線は、沿線への通勤客輸送のために朝夕だけ列車が走る路線です。このため、接続する路線である常滑線も、朝夕は築港線に合わせたダイヤ設定が必要になってきます。このために、快速急行をあえて停車させているのでしょう。
※ちなみに、大江駅に特別停車する快速急行のうち、残りの2本は始発駅から快速急行として運転しないという、「訳がわからない」と言われてもおかしくない列車です。詳しくは、上級編の「おまけ」をご覧ください。

⑥名鉄岐阜07:19発特急河和行き276列車(南加木屋駅・巽ヶ丘駅・住吉町駅特別停車・住吉町駅に停車する唯一の特急)

常滑線・太田川駅から分岐して河和駅に至る河和線を走る特急は、太田川駅の次は阿久比駅に停車しますが、時間帯によってこの区間内にある南加木屋・巽ヶ丘の両駅に停車する特急が多く設定されています。さらに平日朝の下りダイヤでは、これら2駅に加えて住吉町駅にも停車する特急があります。それがこの列車です。

⑦河和06:42発特急須ヶ口行き279列車(特急が停車しない須ヶ口駅が終点・全車一般車特急)

この列車は、初級編の「列車種別が〇〇なのに車両は××」という事例も含まれる応用編というべきです。
河和駅を06:42に発車する特急須ヶ口行きは、特急が停車しない須ヶ口駅が終点です。また、この特急に使用される車両は、一般車両の3500系や3700系などです。名鉄特急の中には、このように全車一般車の特急も設定されています。さらにこの列車、とんでもないことに4両で運転します。朝ラッシュの時間に4両で名鉄名古屋駅に向かうのです。

上級編 これが、底なし沼の真骨頂だ

ここでは、先ほどまでの8列車よりもさらに複雑なことになっている列車をご紹介します。名鉄では、今まで紹介した「列車種別が〇〇なのに車両は××」「特別停車」に加えて「途中で種別変更を何回も行う」という事例があります。
これは名鉄特有のダイヤ方法で、その時間にあったニーズ・ダイヤ事情に合わせるために列車の種別を変えることが多いのです。1回だけならまだしも、複数回行われることが多いです。それが、名鉄という鉄道会社です。

準急新可児行きは、犬山で普通列車になります。

⑧中部国際空港06:10発名鉄岐阜行き急行721F列車(太田川駅まで急行、太田川駅から神宮前駅まで普通、神宮前駅から名鉄岐阜駅まで急行・特別車締切)

常滑線の一部特別車の特急・快速特急は現在、2200系により運転されていますが、この間合い運用で平日朝に設定されている列車の一つが、中部国際空港を06:10に発車する名鉄岐阜行き急行です。この列車、まず特急車両なのに急行列車の運用に就くことが珍しいのですが、この列車のとんでもないポイントはそこではありません。それは、「中部国際空港から太田川駅まで急行で走った後、太田川駅から普通列車に種別を変えて神宮前駅まで走り、神宮前駅から種別を急行に戻して名鉄岐阜駅に向かうところ」です。

空港線の一部特別車特急・快速特急に使用される2200系(右)。
左は3300系です。

⑨伊奈06:36発普通弥富行き843列車(新安城駅まで普通・新安城駅で西尾発を連結・新安城駅から神宮前駅まで急行・神宮前駅から須ヶ口駅まで準急・須ヶ口駅から弥富駅まで普通)

いよいよ、2025年2月現在の名鉄で(私調べでの)難易度MAXな列車が登場します。
平日ダイヤで、伊奈駅を06:36に発車する弥富行き普通列車です。この列車はまず、新安城駅で西尾線の西尾駅を07:19に発車する普通3843列車を後ろに併結しますが、ここでこの列車はなんと急行に種別を変えます。そして急行のまま神宮前駅まで走り、神宮前駅ではさらに準急に種別を変えてラッシュアワーの名鉄名古屋駅に突っ込み、須ヶ口駅に向かいます。須ヶ口駅からは普通列車に種別を戻し、日本一低いところにある陸上駅(海抜0.93m)として知られる弥富駅に向かいます。
もうすでに頭がこんがらがっていらっしゃる方が多いかと思いますが、この列車は、普通→急行→準急→普通と、3度も種別が変わるだけでなく、1度目の種別変更を行う新安城駅で西尾線からの列車と併結するという、「底なし沼」という言葉を体現した列車なのです。

※おまけ1 大江駅特別停車の快速急行について

大江駅に特別停車する快速急行は⑤で紹介した列車の他に、名鉄岐阜06:23発中部国際空港行き720Eと新鵜沼06:46発中部国際空港行き774Eがありますが、この2列車はともに名鉄名古屋駅まで急行として運転し、名鉄名古屋からは快速急行として運転します。

※おまけ2 名鉄岐阜発各務原・犬山経由準急吉良吉田行き774列車について

2024年3月ダイヤ改正での、各務原線ワンマン運転開始に伴い廃止された「名鉄岐阜06:16発(各務原・犬山・岩倉経由)急行吉良吉田行き774列車」という列車をご存知ですか?この列車は、今回「難易度MAX」と特集した843列車の上をいく「難易度SUPER MAX」というべき列車です(某カップ焼きそばにありそうな表現ですが・・・)。

まず、この列車は06:16に名鉄岐阜駅を2両編成で発車します。犬山線の起点である新鵜沼駅に着くと、前側に4両+2両の組成で停車している車両を連結します。4両+2両+2両の8両になったこの列車は、名鉄名古屋駅まで快調に走るのですが、その名鉄名古屋駅で、普通に種別が変わってしまうのです。さらに奇妙なことに、この先にある呼続(よびつぎ)駅、桜駅、本笠寺駅、本星崎駅と4駅連続で後ろ2両のドアが開きません。この4駅は、ホームが6両までしかないので後ろの車両は必然的にドアが開けられないのです。その後列車は鳴海駅に到着。ここで前4両と後ろ2両+2両に分割されます。この間、後ろを走っていた急行豊橋行きに抜かされます。
そして分割された編成はどうなるかというと、まず前4両は急行に種別が戻されて吉良吉田駅に向かいますが、その道中もまたとんでもないことになっていて、豊明駅と北安城駅に特別停車をします。
そして、取り残された後ろ4両はなんと「普通・豊明行き」に変わってしまうのです。

もうこの時点で何が何だかわからない方が多いかと思いますが、この急行774列車は、「前側に6両を増結する」「列車種別が2回も変わる」「4駅連続で後ろ2両から降りれない」「切り離し作業中に後ろを走っていた急行に追い抜かされる」「特別停車がある」、そして「始発から終点まで同じ車両で乗り通せない」というイレギュラー要素がいくつも詰め込まれた、最強の底なし沼列車でした。

むすびにかえて

今回は、名鉄の数ある列車の中から私が選んだ「底なし沼」のような列車を10列車選び、初級・中級・上級の3ランクに分けてご紹介しました。
名鉄は、本当に面白い鉄道会社です。今後また名古屋に行く機会があったら、このような「底なし沼」を思う存分楽しみたいと思います。

それではまた。

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