見出し画像

週刊オールライター第101号「停車駅をバラバラにする意味」

突然ですが皆さんは、「千鳥停車」という言葉をご存知ですか?簡単にいうと、列車種別の優劣関係なく、停車駅がバラバラに設定されていることを言います。関東では西武池袋線、関西では阪神本線が有名です。なぜこのような現象が発生するのでしょう。今回はこの理由を解説し、存在意義を明確にお伝えしたいと思います。


1. 関東の千鳥停車 西武池袋線の例

西武池袋線の千鳥停車を説明する前に、列車種別の優劣を先に説明します。西武池袋線の列車種別は以下の通りです。

各駅停車<準急<通勤準急(平日朝上りのみ)<快速<通勤急行(平日朝上りのみ)<急行<快速急行<座席指定列車(特急及びS-TRAIN)

そして停車駅案内は以下の通りです。

秋津にて撮影。

各駅停車から快速までと快速急行は停車する練馬駅を急行・通勤急行は通過していますし、ひばりヶ丘駅も通勤準急だけ通過しているなど、停車パターンという概念がないのがお分かりいただけると思います。これが「千鳥停車」です。なぜこのような現象が発生しているのでしょう。それは「混雑緩和」と「通勤距離の遠・近分離」を図るためです。
この理由が成立する背景を、急行・通勤急行が通過する練馬駅を例に説明します。練馬駅は池袋駅と吾野駅を結ぶ西武池袋線、東京メトロ有楽町・副都心線の小竹向原駅から分岐し、練馬駅を結ぶ西武有楽町線、練馬駅から分岐して豊島園駅を結ぶ西武豊島線、東京を6の字型に「一周」する都営大江戸線の4路線が乗り入れるターミナル駅です。ここで、西武池袋線沿線の特徴を説明すると、この路線の沿線は都心(JR山手線)に近いベットタウンとして住宅地がとても発展しているという特徴があります。料金不要列車の最上位種別である快速急行とその次に速い急行・通勤急行を共に停めてしまうと、混雑することは容易に想像できます。また、豊島線という存在も急行・通勤急行が通過する大きな原因です。豊島線は、豊島園駅と練馬駅の1駅間だけを結ぶ路線ですが、ほとんどの列車が豊島園〜池袋を直通する各駅停車です。ここで緩急接続などをすると更なる混雑を招く恐れがありますので、あえて急行・通勤急行を通過させて混雑緩和を図っているのです。
さらにいうと、そもそも急行・通勤急行の存在意義は、池袋から遠い場所に住む人が早く池袋に着けるようにした列車です。その列車を池袋に程近い練馬などに停車させる必要性は、極端な話にはなりますが「ない」と捉えることもできます。速達性のある列車の停車駅を増やすことのデメリットとして、「速達性の意味を成さなくなる」ということを覚えてください。

西武池袋線の急行。
停車駅は石神井公園、ひばりヶ丘、所沢、所沢〜飯能間各駅です。
所沢から先の速達需要に特化しています。
西武池袋線の快速。
停車駅は練馬、石神井公園、ひばりヶ丘、ひばりヶ丘〜飯能間各駅停車です。
ひばりヶ丘までの速達性に特化しています。

2. 関西の千鳥停車 阪神本線の例

今シーズンをもって岡田彰布監督が退任となった阪神タイガースの親会社である阪神電鉄。関西の「千鳥停車」といえば、阪神本線です。阪神本線の列車種別は以下の通りです。

普通<区間急行<急行<区間特急<快速急行<阪神特急(大阪梅田〜須磨浦公園)<直通特急(大阪梅田〜山陽姫路)

この路線の千鳥停車を行う列車は、快速急行、区間急行・区間特急、直通特急です。
まず、快速急行について説明します。尼崎から分岐する阪神なんば線を介して近鉄奈良線と相互直通運転をしている快速急行の停車駅は、尼崎を出ると武庫川、甲子園、今津、西宮、芦屋、魚崎、神戸三宮ですが、この駅全てに停車する快速急行は1本もありません。理由は、平日朝のみ武庫川・今津が通過になる代わりに芦屋に停車するからです。芦屋は平日昼〜夜と休日ダイヤでは停車しません。
阪神本線は、駅間距離が短いという特徴があり、利用者の多い駅が乱立しています。このため、優等列車を複数設けた場合に停車駅をパターン化すると混雑が激しくなるのはおわかりいただけると思います。このために停車駅をずらす必要性があると考えられます。
なお、快速急行が御影を通過する理由は混雑緩和ではなく、直通先の近鉄車両の長さが阪神車両よりも長いことに加え、御影駅のホームが延伸できなかったからです。

次に、区間急行・区間特急・直通特急は関連があるので一気に説明します。区間特急は平日朝のラッシュ時に限り御影発大阪梅田行きが設定されていて、停車駅は香櫨園までの各駅と今津、甲子園、尼崎、野田、大阪梅田です。区間急行も同じく平日朝のラッシュ時のみ運行されており、大阪梅田〜甲子園に加えて上りのみ青木発大阪梅田行きも運行されます。停車駅は(青木→芦屋→西宮→今津→)甲子園、鳴尾・武庫川女子大前、武庫川、尼崎、千船、野田、福島、大阪梅田です。区間特急・区間急行ともにラッシュに特化した列車ですので、急行や直通特急の停車しない駅に停車してその駅周辺に住む乗客を梅田まで速く運びます。西武池袋線の通勤準急・通勤急行の停車駅設定と似たような理由で普段の急行・特急停車駅を通過する場合があります。また、朝に山陽姫路から来る直通特急は甲子園を通過しますが、これは区間特急が設定されている関係であり、複数の優等種別に乗客が殺到しすぎないようにしているためです。

近鉄奈良直通の快速急行。
近鉄車両でも運行されるため、御影に停車ができません。
私鉄の優等列車の中でも運行区間が短い阪神本線の急行。
停車駅は、野田、尼崎、武庫川、甲子園、今津、西宮です。
山陽姫路まで直通する特急は「直通特急」と名乗ります。
(阪神)神戸三宮までの停車駅は尼崎、甲子園、今津、西宮、芦屋、魚崎、御影、神戸三宮です。
区間特急が運転される平日朝に限り、甲子園に停車しない列車があります。

3. おまけ JR東日本の特急「湘南」と京急の「イブニング・ウィング」「モーニング・ウィング」が横浜駅に停車しない理由

千鳥停車ではありませんが、ここで「なぜ停車しないの?」という疑問を持たれやすい列車も全国にはまだたくさんあるので、それについて少し解説しようと思います。その代表格が、横浜駅を通過するJR東日本の特急「湘南」と京浜急行の有料座席指定列車「モーニング・ウィング」「イブニング・ウィング」です。横浜といえば、神奈川県最大の都市である政令指定都市で、その玄関口として栄える横浜駅には、JR東海道本線・上野東京ライン、横須賀線・湘南新宿ライン、根岸線、京急本線、相鉄本線、東急東横線、みなとみらい線、横浜市営地下鉄ブルーラインが乗り入れる大ターミナルです。先述した3列車はその大ターミナルを通過するのです。その理由は、「横浜駅から西側に位置する地域に住む人へ向けた通勤輸送のための優等列車だから」です。その地域向けの列車を横浜駅に停めてしまうと、さらに混雑しやすくなるのはお分かりいただけるでしょう。その場合、快適性と速達性の両立ができません。何度も言いますが、千鳥停車もこの理由であえて利用者の多い駅を通過駅として設定するのです。

むすびにかえて

今回は、停車駅を優等列車の停車駅をバラバラにする意味を取り上げました。この記事を執筆する上で私は、優等列車の停車駅は「優等」という意味をしっかり成すように設定されているので安易になぜ停めないのかと言ってはいけない、と学びました。全てのものには理由がありますから。

それではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?