週刊オールライター第110号 「M-1グランプリの思い出 2017〜2020」
いよいよ、明日に迫ったM-1グランプリ決勝。私も楽しみです。私は、毎年M-1グランプリの日はお笑い鑑賞を趣味とする母の一挙手一投足に注目しながら見届けることが多くなりました。それが如実に現れたのは平成29年(2017)以降で、特に同年から令和2年(2020)にかけては、一生忘れることのないインパクトを与えることになりました。そこで今回は、この3年間に起きた私のM-1グランプリにまつわる思い出をお届けします。ぜひ最後までお楽しみください。
1. 全てはここから始まった 第13回大会
とろサーモンさんが「ラストイヤー優勝」を達成した第13回大会。実は、この時に母のお笑い鑑賞が趣味になる伏線がありました。その伏線というのは、当時結成10年目のマヂカルラブリーさんが出ていたことです。
1-1. マヂカルラブリーさんとは
ここで、お笑いに詳しくない方のためにマヂカルラブリーさんについて解説します。彼らは、今年(2024年)で結成17年目となるお笑いコンビです。
立ち位置は、向かって左の青ネクタイをしている方がボケ役の野田クリスタルさん、向かって右のピンクベストを着用している方がツッコミ役の村上さんです。
彼らの芸風は主に(コント風)漫才で、漫才の始まりに行う挨拶「つかみ」は村上さんが
「村上です」
と名乗ると、野田さんは
「でっかい海老でーす(私の母曰く「年末年始限定」とのこと)」
「そのズッ友です」
「その残像です」
「漫才王です」
のように小ボケを入れて挨拶し、続けて村上さんが
「マヂカルラブリーです」
と言うのに合わせて野田さんも上記の小ボケをもう1度繰り返す、というつかみを行い、本題の漫才に入ります。
野田さんが
「◯◯◯を、したいよぉ〜」
「◯◯◯に、なりたいよぉ〜」
などと発言してからその発言内容にまつわるネタを披露するという流れです。
漫才以外にもコントをすることがあり、コント日本一を決める「キングオブコント」にも平成30年(2018)大会と令和3年(2021)大会の2度決勝進出を果たすという実力があります。
さらに野田さんに至っては、商品化までされたほどの腕前を持つ「ゲーム制作」を活かし、自分で作ったゲームを実況プレイするというピン芸(1人芸)で、ピン芸日本一を決める「R-1ぐらんぷり(当時の表題)」の令和2年大会に決勝へ進出しており、M-1・R-1・KOC(キングオブコント)の「お笑い3大大会」全てで決勝を経験した史上唯一の「トリプルセミファイナリスト」であり、霜降り明星・粗品さんに続く史上2人目の「M-1・R-1二冠」という称号まで持っています。
しかし、この大会でマヂカルラブリーさんは「賑やかし枠」「2017年のえみちゃん怒られ枠」などと批判・揶揄されてしまいました。それもそのはず、ボケ担当の野田クリスタルさんの世界観が視聴者・審査員に響かず、特に「えみちゃん」こと上沼恵美子さんからかなり酷評されてしまったことは有名です。そして、最後に求められたコメントでも失敗し、顰蹙を買ってしまった方もいらっしゃらるかと思います。この当時は推しの芸人さん(※)がおらず、お笑いに関する理解力が乏しかった私は正直なところ
「このコンビは何がしたかったのだろう」
という考えで見ていたことを覚えています。後から聞いた話ですが、実は私の母はこの年のマヂカルラブリーさんを
「面白かった」
と思っていたらしいです。このマヂカルラブリーさんの存在が、のちに私と母のお笑い観に影響を与えることになろうとは、私と母も含めて誰一人思ってもいませんでした。
※私の推しの芸人さんは「はっぴちゃん。」です。推しになった時期は曖昧ではありますですが、令和4年(2022)頃です。
2. そしてまさかの出来事が起こる 2018年秋
そして平成30年(2018)秋。私は一家でイオンモール幕張新都心に来ていました。ショッピングに来たわけではありません。中に併設されている「よしもとイオンモール幕張劇場」にお笑いを見に来たからです。当日は、ハリセンボンさん、LLRさん、東京ダイナマイトさん、星田英利さん、そしてマヂカルラブリーさんが出ていました。そしていざマヂカルラブリーさんの漫才の時間。披露したのはなんと、「フレンチ」でした。詳しくない方に説明しますと、このネタは野田さんの
「高級フレンチに、行くことになったよぉ〜」
で始まり、ツッコミの村上さんは羨ましがるのですが、野田さんは
「マナーとか何もわからないから教えて欲しい」
と村上さんにお願いをし、村上さんはマナーをいくつか教えます。教えてもらった野田さんは
「ちょっとやってみるわ」
とシュミレーションをするのですが、その動きがかなりはちゃめちゃ。村上さんはずっと
「ねぇ違うよ‼︎違うよ‼︎」
などと絶えずツッコミの嵐を起こす、というネタです。この時披露したのは、「フレンチ」の改良前です(この「改良前です」の一言を覚えていてください)。
これを生で見た母は大笑い。おそらくですが、生で見たことによって野田クリスタルさんの世界観が母の性格にマッチしていたことが証明されたのだと思います。
星田さんの漫談が終わった後、全てのネタが終了し帰宅したのですが、母は野田さんの世界観から抜け出せていなかったのか、かなり余韻に浸っており、アンケートの
「面白かった芸人」
の欄に迷わず
「マヂカルラブリー 野田クリスタルさん」
と書いていました(ちなみに私は誰を書いていいか分からず、「ハリセンボンさん」と回答しました)。
そして帰りの車内で母は、マヂカルラブリーさんの追っかけのためだけにTwitter(現X)を開設してしまいました。
「どれだけハマったの・・・」
と、当時は野田さんの世界観がよく分からなかった私は少し引き気味でした。
これ以降、母はマヂカルラブリーさんの大ファンになり、単独ライブに行くためにルミネtheよしもと、大宮ラクーンよしもと劇場などに足繁く通い、マヂカルラブリーさんが加入している大宮ラクーンよしもと劇場を拠点とするユニット※「大宮セブン」の冠番組「それゆけ!大宮セブン」を連ドラ予約するなど、マヂカルラブリーさんのおかげで、「無趣味」と公言していた母のお笑い鑑賞はもはや「趣味」の領域にまで突入しています。
※大宮セブンメンバー(12/21現在)
囲碁将棋さん、マヂカルラブリーさん、GAGさん、タモンズさん、すゑひろがりずさん、ジェラードンさん。
3. 「えみちゃん待っててねぇ〜」 第14・15回大会
霜降り明星さんが平成生まれ初・史上最年少優勝のダブル快挙を達成した第14回大会と、ミルクボーイさんが史上最高得点となる681点をマークし、勢いそのままに令和初の王者になった第15回大会。記録と記憶に深く刻まれたこの2大会ですが、母の推しであるマヂカルラブリーさんは準決勝(敗者復活戦)止まりでした。この2大会とも野田さんは中継カメラに向かって寒空の中上半身裸になり、因縁の上沼さんに向かって
「えみちゃん待っててねぇ〜」
と叫んでいました。これを見た母は
「よし、もうメインは見た」
と、放送開始直後にも関わらずほぼ見尽くしたような発言。それを見た私はこう思いました。
「マヂカルラブリー、本当に何がしたいのだろう」
当時の私は、推しの芸人さんができた現在とは違い、お笑いに対する理解力がまだ備わっておらず、マヂカルラブリーさんのお笑いはまだわからない部分が多く、このようなリアクションを取るしかありませんでした(本当にごめんなさい)。
4. 「嘘だ、絶対何かの間違いだ」の衝撃、そして・・・ 第16回大会
令和2年(2020)12月20日。新型コロナウイルスパンデミックが猛威を振るう中、中止されることなく開催された第16回M-1グランプリ。その最終審査により優勝者が決まった瞬間、母から発せられたのは
「嘘だ、絶対何かの間違いだ」
の一言でした・・・。
2020年のマヂカルラブリーさんは、野田クリスタルさんの史上初となる「お笑い三大大会におけるトリプルファイナリスト」からのR-1ぐらんぷり優勝から始まりました。その直後にコロナパンデミックになってしまった訳ですが、M-1グランプリは予定通り開催。まさにこの大会のスローガンのように、M-1は止まりませんでした(この大会のスローガンは「漫才は止まらない」「M-1は、止まらない。」でした)。その大会になんと、マヂカルラブリーさんが3年ぶり2度目の決勝進出を決めていたのです。当然、大ファンの母は楽しみにしていました。そして迎えた当日。M-1に合わせて受験勉強(当時私は高校3年生でした)を打ち切り、父が夕食の鍋料理をスタンバイする中、M-1グランプリの放送が始まりました。そしてやってきたマヂカルラブリーさんの出番。彼らは6番目でした。せり上がりで野田さんは土下座(正座?)をして登場。会場の笑いを誘い、つかみ挨拶で
「どうしても、笑わせたい人がいる男です」
と挨拶し、一気に見ている人を引き込みました。そして、披露したネタは「フレンチ」でした。私は思わず
「えっ」
と声を出してしまいました。幕張でやったあれをそのまま?と思ったからです。しかし会場は3年前と違い爆笑の渦。そして審査の時間。私はこの時、オール巨人さんの点数(88点)を見て
「あぁ、また賑やかしと言われて終わるのか」
と思いましたが、隣に座っていたサンドウィッチマン・富澤たけしさんが94点をつけて
「ええっ⁉︎」
と驚き、そこから全員が90点台をつけていて驚くしかなかったです。そして因縁の上沼さんは94点をつけました。野田さんは思わず
「っしゃーーーっ‼︎」
と2度絶叫。村上さんも目を丸くして手で顔を覆い、
「う〜れしい〜‼︎嬉しい‼︎」
と喜びを爆発。合計得点649点をマークして見事3年前のリベンジを果たし、10組中2位で最終決戦進出を決めました。上沼さんは、3年前のことは
「覚えてない」
と会場を驚かせましたが、
「あんたらアホやろ(笑)ホンマにバカバカしい。バカバカしさが突き抜けるというのは芸術や。ホンマに良かったと思う。」
と褒めました。これを見た母は
「よかったね〜」
と素直に喜びました。
しかし、マヂカルラブリーさんの伝説は、これで終わらなかったのです。3位・見取り図さん、1位・おいでやすこがさんと戦った最終決戦で、マヂカルラブリーさんはあのネタを披露するのです。
ファーストラウンドと同様に土下座をして登場した野田さん。つかみの挨拶は
「その(村上さんの)ズッ友です」
を使用しました。そして披露したネタは「吊り革」。そうです。転がり回っている野田さんを村上さんがひたすらツッコミを入れるという伝説のネタです。私は正直に言って、母のリアクションが気になりすぎて笑った記憶がありません(見取り図さん、おいでやすこがさんのネタ中もです)。
そしてCMを2本挟んで迎えた最終結果発表。結果は、見取り図さん2票、おいでやすこがさん2票、マヂカルラブリーさん3票で、マヂカルラブリーさんが優勝してしまったのです。舞台の下手に近いところに座っていた上沼さんが、おいでやすこがさんに投票したことがわかった瞬間、母は次のような一言を放ちました。
「嘘だ、絶対何かの間違いだ」
おそらく、受け入れるまでに時間がかかったのだと思います。私はマヂカルラブリーさんの優勝が決まった瞬間、母は飛び跳ねるほど喜ぶかと思ったのですが、出てきたのはこの一言だったので、私にとって衝撃でした(ちなみに母は、野田さんがR-1で優勝した時も同じコメントを放っています)。
しかし、私にとって辛かったのはこの翌日でした。母の好きなマヂカルラブリーさんが漫才の天下をとったことで、お笑い感性がまだ出来ていなかった当時の私も、母の推しが優勝したという経験をしたことで、心なしか誇らしい気分になっていました。しかし、翌朝登校して聞いたクラスメイトの会話が
「マヂカルラブリー面白くない」
だったので、思わず耳を塞ぎました。心の中でではなく、実際に両手に耳を当てました。本当です。それほどショックだったのは言うまでもありません。耳を塞いだ原因は、母の「お笑い感性」を否定されたと感じたからです。しかも、マヂカルラブリーさんのネタに関する批判は各地で発生しており、今よりも精神が幼かった私は、母の「お笑い感性」を全国民から否定されたような感覚になり、傷つきました。
しかし、審査員含めたお笑い芸人さんの多くはマヂカルラブリーさんを(中にはいじりを交えつつも)フォローしていました。
審査員だったサンドウィッチマン・富澤たけしさんはブログで
「主催者側が漫才じゃないと判断したら失格にすればいいわけで、『点数をお願いします』と言われた以上、審査員は漫才として審査する。各審査員は自分の中の漫才の解釈の枠で点数や1番を決める。漫才は色んな形があっていいし、だからこそ新しい形が産まれ、進化していくんだと思います」
と語り、相方の伊達みきおさんもブログにて
「センターマイクに向かって舞台袖から出てきて『どうも』と始まれば、それは漫才。漫才と言うのは…みたいな、そんな難しいもんなんかない。おもしろければそれで良し」
とフォローしました。
ちなみにサンドウィッチマンさんは、平成19年(2007)の第7回大会にて、M-1史上2組しか達成したことがない「下剋上(敗者復活からの優勝)」を達成しています。
富澤さんのブログ
伊達さんのブログ
また、平成14年(2002)の第2回大会で4位の成績を残したおぎやはぎさんはコンビで担当しているラジオ番組で
「プロの審査員が決めているんだから」
と小木博明さんが論争自体を批判し、矢作兼さんは
「優勝したからこそ、論争になるわけじゃん?5位とかだったら論争にならない。マヂカルラブリーが時代を変えたな」
と羨望ともとれるコメントを残しました。
今思えば「マヂカルラブリーのネタは漫才じゃない」論争は、誰も得せず時間を無駄に使うだけのくだらない悪口を言い合っていただけだったと思います。お笑い芸人という職業に心の底から敬意を持ち、「笑わせて頂いている」という考えを持ちながらお笑い鑑賞を楽しんでいる私の母が、無視していたのはいうまでもありません。
とはいえ、マヂカルラブリーさんが優勝した第16回大会がきっかけで、私は母の持つレベルの高いお笑い感性と考え方に深く感銘を受け、それ以降私が母のお笑いトークの話し相手になり、私自身もお笑いに関して勉強するようになりました(その結果、大阪に行って一人でお笑いライブを見に行くまでになりました)。
むすびにかえて
今回は、明日に迫った「M-1グランプリ」にまつわる忘れられない思い出を書きました。皆さんもM-1にまつわる思い出はありますか。ぜひコメント欄で教えてください。
そして、明日は誰が優勝するのでしょうか!?
頑張れ!ファイナリストの皆さん!敗者復活戦の皆さんも応援していますよ!!
それではまた。