メダカの研究
2023年度、はせがわ研究室にメダカの水槽が突如出現した。
決して観賞用ではない。情報メディア学科なのにメダカの研究???
この疑問に答える記事をここに記す。
はせがわ研究室は、情報メディア学科の情報システム系の研究室の1つで、AI(人工知能)・VR(バーチャルリアリティ)・AR(拡張現実)・アプリ開発・システム開発の技術を応用して、複雑な社会や情報分野を対象とした問題解決を目指す研究室である(たぶん)。(注1)
生命現象もまた複雑な現象の1つである。
現在、メダカを飼育して、目指している研究は、主に次の2つである。
(1)顕微鏡映像のデジタル動画像解析
たとえばメダカの初期発生卵に見られる律動性収縮運動を顕微鏡でとらえて動画像をデジタル解析する。
参考文献:
(2)生命現象のモデル化とコンピュータシミュレーション
たとえば、メダカの初期発生卵に見られる律動性収縮運動における収縮の伝搬を、球面上のセルオートマトンを使ってモデル化しシミュレーションを通して自己組織化の原理を追求する。
参考文献:
ちなみに「モデル化とシミュレーション」は、高校「情報」でも詳しく扱われるほど一般的な研究手段であり、コンピュータの利用が有効な問題解決の手法の1つである。
また、メダカではなくミジンコではあるが、水生生物の泳ぎをモーションキャプチャ技術を使って解析するという内容で、卒業研究を行なった学部生が、はせがわ研究室には、過去にも存在した。
参考文献:
https://www.nagoya-bunri.ac.jp/~hasegawa/sotsuken/07/07-3.pdf
そして、すでに、今年2023年にメダカの水槽が設置されてから、メダカの泳ぎをモデル化してシミュレーションしようとする研究が、密かに、はせがわ研究室で始まっている。
また、3DCGの表現の研究に、体が半透明のメダカを参考にする学生も現れた。
というわけで、情報メディア学科の研究室でメダカを飼い始めた理由がわかっていただけたと思う。AIや人工生命の研究も、生命現象をもとに新しい情報科学分野の研究が進んだ事例である。メダカの泳ぎ、産卵、卵の発生、姿形などは、まさに情報メディア技術を応用した研究対象の宝庫であり、こうした研究が、情報メディアの技術の発展や知見の蓄積に貢献することが期待できるのである。
なお、私(長谷川)は、もともと約40年前に入学した名古屋大学理学部では物理学科に進学し、4年生のときには、筋蛋白や生体膜のin vitro(注2)実験を行なっていた「生物物理学」実験系の研究室に所属した。
コンピュータ、AI(人工知能)、情報システムの開発の研究は、学部を卒業して企業の研究所に配属されてからのことであった。
その後、約30年前、私は、理学部物理学科のときの恩師である御橋廣眞先生が名古屋大学大学院多元数理科学研究科に移って、数学者である四方義啓先生らと経済・医学・物理・生命科学などの分野に数学を応用する研究・教育を始めたときに、博士前期課程の学生として参加した(注3)。そのとき、理学部の生物学科でメダカを研究して私と同じ大学院の研究室に進学してきた長谷川昌広氏(注4)と出会った。
そして2023年、なぜか長谷川昌広氏が20年ぶりに現れて、メダカの研究が、名古屋文理大学はせがわ研究室で再開されることになったのである。
これからの研究成果は、続報に譲る。
なお、蛇足であるが、本稿のタイトル「メダカの研究」が、コナンドイル著シャーロックホームズシリーズの一冊「緋色の研究」のパロディであることは、言うまでもない。
【脚注】
注1)ちなみに「複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメスを入れ、様々な謎や疑問を徹底的に究明する」は、探偵ナイトスクープの局長の口上である。
注2)in vivo(生体内)の生命現象を、生体外の試験管などで再現する実験をin vitroという(ガラスのおもちゃにビードロがあるが同じ語源のvitroは試験管やプレパラートのように主にガラスでできた実験環境を指す)。そして、in vivoの生命現象やin vitroの実験での現象を、コンピュータでシミュレーションして原理を探る手法をin silicoと呼ぶ(コンピュータの半導体の材料がシリコン(ケイ素)であることから)。
注3)御橋廣眞編『蛍光分光とイメージングの手法』
第7章「画像処理と画像解析」(長谷川聡)の記述にも、その頃の研究成果の一部が反映している。
注4)長谷川昌広氏:名古屋大学大学院多元数理科学研究科修了・理学部生物学科卒のサイボーグ。