叶わなかった夫婦の絆②
結婚して1年後長男が生まれ、その2年後長女が生まれ、そのまた1年後に夫は脱サラした。以前から夫は独立したいと言っていたのでサラリーマン家庭に生まれ育った私は少し戸惑いはあったけれど夫を全面的に信じていたので反対はしなかった。はじめは夫と2人ほどの従業員でなんとかやりくりしていたが、まだバブルの影響もあって事業も好調だった分多忙を極めていた。私は子供達がある程度大きくなるまでは絶対に専業主婦でいたいと強く思っていたが、ある日から夫に事務所の留守番を頼まれたり、伝票記入や銀行業務とどんどん仕事が増えエスカレートしていった。まだ赤ちゃんだった長女をおんぶして、発売されて間もない大きい携帯電話を首からぶら下げて銀行に出かけたりもした。そんな調子だったので近所のママ友によく長男の面倒を見てもらっていた事が本当にありがたく感謝でいっぱいだった。
私は夫のことを心から愛し信頼していたので、同じ道を手を取り合って協力し、助け合う事が当然だと思い不本意ではあったけれど子供達を保育園に預けることにした。それからが怒濤の日の連続だった。
事業が忙しくなればなるほど時間に追われ、育児や教育、躾けも殆ど協力しない夫に、私は不満が募りよく口論にはなったけれど、夫婦なら誰もが超える道なんだと勝手に解釈していた。やがて私自身も、多忙=金銭的余裕=達成感に満足したのは紛れもなく事実である。夫には事業に成功して良い物を食べ、身につけ、高級車に乗り不動産を得るという野心があった。誰しも描く事なんだろうけど私にはそんな欲望はあまりなかった。家族皆が健康で笑顔で暮らせることに優る幸せってあるのだろうか。たとえ多少環境が変わっても夫の気持ちまで遠ざかってしまうなんて夢にも思っていなかった。何故か根拠のない自信がその頃の私にはあった。
起業からおよそ10年経ち次第に夫の望み通り欲しいものは殆ど手に入り、生活もだんだん派手になり、夜の街に頻繁に出かけ連日の朝帰りが続いた。そして誰しもが想像できるありふれたシナリオの展開になる。夫に愛人ができたのだ。