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3メートルの宇宙人

3メートルの背丈の宇宙人は、
その正体はフクロウだと読んでがっかりしたことがある。

元々うろんな人々が、高いところを舞い飛ぶ大きな目のフクロウに驚愕し、
それを滑るように歩く大きな目を持つ、背丈3メートルの巨大宇宙人だと思ってしまった…
ということだったようだ。

その宇宙人のエピソードは好きだったのでがっかりした。そして、自分が大人になって世知を得るのは物悲しいことだとも思った。

いま僕が寝ている寝室はちょうど丘の麓にあって、さまざまな鳥の鳴き声が聞こえる。青いイソヒヨドリがお喋りして目覚めることもあるし、夕暮れに緑のアオバトの玄妙を聞くこともある。鳴き交わすアカショウビン、美しい亜熱帯の鳥たち。

時々、夜寝ていると、ちょうど軒の高さの辺りを奇妙な声の鳴き渡っていくことがある。高い位置で突然「ギャッ」と夜叫ぶ。
その声は国際通りで売っているあの黄色い、叫ぶびっくりチキンのよう。最初聞いた時はとてもびっくりして、怖くなった。
幼児が転んだ泣き声のような、猫の威嚇のような、でもまさか、軒の高さの3メートルで? 隣の丘から軒から、反対側の畑へ移動しながら切れ切れにギャッと鳴きながら去っていく。
寝ながらいろいろ想像したものだ。
空飛ぶびっくりチキン、空飛ぶ猫、畑のまにまに滑るように歩く、背丈3メートルの宇宙人。

好きでお詳しい方の動画を観ていて、ある日その正体が分かった。
県内には3種類のフクロウがいる。元々この辺、中部エリアではアオバズクが多い。アオバズクは穏やかな「ホーホー」という一般的に想像するフクロウの声だ。
そしてたまにヤンバルの森から冬になると、
といっても亜熱帯の当地では最低気温は12℃ほどだけれど、でもともかく冬になると、フクロウが来る。
それも寒い夜に。

冬は毎年違う。
気温が10℃近くまで下がる日々もあれまるで夏のような暖かさが続くこともある。
気温が低い日々は雨も伴い、木々も虫も何もかもうな垂れたように静かな夜にふと見上げると、

うちの前の電線にフクロウが止まっているのだ。
丸い頭は賢そうで、
性別は分からないけれど輪郭がまだ柔らかく、若い個体な気がする。
アオバズクだと思う。郊外の鳥。
森林性のフクロウはたまに遠くで鳴くだけで、ここには来ない。


うちの前は養蜂用の糖液の甘い匂いがして、虫やそれを追ってヤモリの類が来る。
寒い冬で生き物が活動を止めた夜に、アオバズクはそれらの生き物を食べにやって来る。

たまにフワリと羽を広げ旋回して、そのほとんどは虫の捕獲に失敗してまた元の定位置に戻る。何度も繰り返す。
街灯に照らされた広げた羽は美しい灰色だ。内地のアオバズクとは少し違う。

遠くの街並みを背にした、じっと待つ丸い頭はすごく賢そうで、何かを占って告げてくれそうな気がする。

そして、それでも今なお畑の中を滑るように歩く背の高い宇宙人のことを考える。

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