Config2023に現地参加して、AIとデザインの未来について考える
2023年6月、Figmaがサンフランシスコで開催したグローバルデザインカンファレンス Config 2023に現地参加してきました。freeeからはグローバルデザインチームのマネージャーとして、私1人が参加してきました。
本記事では、イベントの雰囲気をざっくり話しつつ、AIに関するトークに絞ったまとめ、現地のデザイナーと話して感じたことを紹介します。
TL;DR
Figmaのイベント体験の作り込みはすごい
これからのデジタルプロダクトのデザインでは、「AIを用いて、パターンを活用したUIを自動生成し、一貫性のある体験をありえないスピードで提供しつつ、複雑な問いを解くための時間にフォーカスし、自分たちらしさをより追求していくこと」が求められる
Config2023に現地参加する魅力の1つは世界中のデザイナーの情熱を持ったデザイナーと交流できること
freeeのデザインシステムもパターンを用いたデザインシステムに進化しようとしていて、LLMとの相性が抜群で筆者がワクワクしてる
イベント開催前
今回1人でサンフランシスコに参戦する予定だったため、現地でぼっちにならないか若干不安でしたが、Figmaによってイベント開催前にSlack チャンネルが用意され、事前に参加者とコミュニケーション取ることができたので、そんな不安は一瞬でなくなりました。
自己紹介チャンネルでコーヒー好きをアピールしつつ、LinkedinのURLを置いておいたり、
hangoutチャンネルでMLBを一緒に見に行かないか誘ってみました。
自己紹介をきっかけに繋がったコーヒー好きのUXデザイナーの方(アトランタ在住)が、たまたま僕のMLB見に行きたい投稿を見ており、彼もアトランタ・ブレーブスのファンではあるものの、野球好きだったので一緒に野球を見にいくことになりました。
8000人以上が現地参加するイベントで一人一人と交流する時間も少ないだろうと思ってましたが、事前に用意されたSlackのおかげでサンフランシスコ初日から楽しむことができました。
イベントの雰囲気
会場はMoscone Center。会場付近のホテルをとったので先にチェックインしようと思ってホテル近くを歩いていたら、近寄るだけで一目でわかる装飾と会場の大きさに衝撃を受けました。
会場の中で特に印象的だったのは、イベントステージ付近に必ず手話通訳の方がいたり、
別の席付近には音声字幕も表示されていました。僕も100%英語の聞き取りに自信があるわけではないので、字幕の近くの席が空いてる時は近くに座ることで、聞き取れなかった部分を確認できて助かりました。
The future of AI and the design industry
Config2023のトークは全てYouTubeに公開されているので、この記事では個人的に関心を持っている「AIとデザイン」に関連するトークで、特に印象に残ったトークを2つ紹介します。他のトークが気になる方は、ぜひYouTubeをご覧ください。
まず、一番印象に残っているトークはFigmaのVP of Product DesignのNoah LevinからAIとデザインの未来に関する話。Noah曰く、AIによって「何をデザインするか」「どのようにデザインするか」「誰がデザインするか」の3つが大きく影響を受けるという話がありました。
「何をデザインするか」
これまでの「デザインの対象」
アプリやWebサイトのデザイン
例えば、出前を頼むために、Uber Eatsを立ち上げて、そこで頼みたい店を調べる。ユーザーのやりたいことは常に変わるので、様々なユースケースに応じた設計が必要だった。
これからの「デザインの対象」
Dynamic UI (ユーザーの入力に応じて適応するようにUI設計)
例えば、ユーザーにやりたいことを尋ね、それが「好きなご飯を頼む」であれば、それに応じて、UIを生成し、ご飯を頼むことができるようになる。
AIによって、ユーザーに何がしたいのか?を把握するためのインタラクションが減り、ユーザーが瞬間瞬間で思いついたことを捉えて、適応したUIを生み出すことができるようになる、という話があった。
「どのようにデザインするか」
これまでの「デザインの手段」
独立した最小単位のコンポーネントを使い、デザインをする
これからの「デザインの手段」
ユースケースに応じたパターンを使い、デザインをする
コンテキストを与えることでユースケースに応じたUIのパターンを流動的に考えれるようになる。
AIは流動的にUIのパターンを活用することができる。つまり、我々はUIを個別の独立したコンポーネント集ではなく、塊で考え、構成する要素として考えていく必要があるという話があった。
「誰がどのようにデザインするか」
これまで
デザインの専門家。
これから
誰でも視覚的な表現を使ってデザインできるようになる
Figmaでは、AIをどのように考え、取り入れていくのか?
Figmaでは、Brainstorming、Design、Buildという開発の全てのプロセスにおいてAIを役立てることができると考えているという話があった。
Brainstorming
FigJamでアイデアの自動生成したり、サマリを作らせる。
Design
Figmaで既存のデザインやデザインシステムを学習し、1クリックでUIを生成したり。
Build
Figmaのデザインに応じてコードを自動生成する。例えばVS codeのプラグイン上でFigmaのデザインをもとにコードを生成する。
Designing with AI: building the flagship GPT-4 language product
2つめは、Duolingo MaxのProduct ManagerとProduct Designerによる「Designing with AI: building the flagship GPT-4 language product」。
Duolingo Maxとは、言語学習アプリDuolingoがGPT4を使ってリリースしたアプリ。「自分の回答の問題点をAIが教えてくれる機能」と「ロールプレイ」を兼ね備えている。
Duolingo Maxの始まり
この企画が最初に始まったのは、2022年9月。CEOから登壇者であるPrincple Product Managerに突如1on1が組まれた。(2022年9月時点でGPTを使ったプロダクトを検討開始し始めるCEOのスピード感がすごい)
当時、ChatGPTのデモを触ってみるとこれまでの言語学習を一変させる可能性があったと語っている。Duonlingoを壊滅させる可能性もあるし、逆に飛躍的に進化させる可能性もあった、と。そこで、Duolingoは0から戦略を考えなおし、GPTを使ったプロダクトを出すことにした。
GPTを理解するためのデザインスプリント
過去のリサーチで、ユーザーがどういうニーズを抱えているかはわかっていが、GPTのことは開発者含め誰も理解が足りていなかった。だから、デザインスプリントを実施し、GPTのことを理解しようとした。
全社で3日間一つの場所にあつまり、デザインスプリントを実施した。GPTを使った様々なアイデアが生まれ、その中の一つに今リリースしている機能の1つのロールプレイがあった。たくさんの票が集まったので、ロールプレイを検討していくことにした。
まず、Promptから始める
GPTを使ったロールプレイのプロトタイプを作ったが、最初は文脈を全く理解しないものだった。例えば、カフェのロールプレイで、AIが「あなたの名前は?」と質問した答えに「コーヒーが欲しい」「朝食が欲しい」と返信しても、「あなたの名前は?」としか返さなかったり。
原因はPromptがよくなかった。
GPTを使ったプロダクトの開発プロセスでは、「Discover」→「Define」→「Validate Prompt」→「Design」→「Iterate」→「Discover(へ戻る)」という進め方にした。大事な点として、要求を定義した後にPromptを検証するフェーズを入れるようにした。
自分たちらしさを追求する
ロールプレイが成立するようになったのでプロダクトをリリースし、ユーザーリサーチやドッグフーディングを行った。その結果はあまり良くなかった。Voice & Toneが感じられなかったり、Duo(Duolingoのキャラ)らしいストーリーがなかった。
Duolingoには16のキャラクターがおり、それぞれパーソナリティが定義されている。そのパーソナリティが反映されるようにPromptを考え直した。
( Duolingoのキャラクターのパーソナリティの話についてのトークも合わせて聞くとオススメ。)
AIを使ったプロダクトで大事なこと
ユーザーに何がしたいかを聞くのではなく、我々がどうしたいのか?という意見を持つ必要がある。そうしないと、見た目が違う「Chat bot」を作っているだけになってしまう。Duolingoらしさとは?なぜそれをやるのか?を考える必要がある。
Config2023のトークから学んだこと
Figmaのセッションを聴いて、AIによってプロダクト開発に与える影響は「①AIによって設計されるデジタルプロダクト」「②製品開発プロセス全体の変化」の2つだと感じた。
ダイナミックUIやパターンを活用したデザインによって、デジタル体験がアップデートされていったり、また開発プロセスのあるゆるところでAIが組み込まれることでに、プロセスの自動化や新しいアイディアを刺激するサポートを受けることできるようになると思う。
僕はこのようなAIによる変化をポジティブに捉えている。
パターン化できるものは自動化してプロダクトに適用していくことで、一貫性のある体験を提供し、学習コストを下げやすくなると思っている。また、プロセスの自動化によって生み出された時間で、より複雑な問いに向き合う時間が増えたり、パターン学習だけでは生み出せない「自分たちらしさ」について、より深く向き合うことができると思っている。
一方、AIによってアップデートされるデジタル体験を、Figmaのトークにあった「ユーザーが瞬間瞬間で思いついたことを捉えて、適応したUIを生み出すことができるようになる」だけと捉えてしまうと、単純に見た目の違うChatBotを生み出すだけになってしまうかもしれないな、と思った。
Duolingo Maxのトークを聴いたことで、よりなぜ自分たちがGPTを使ったプロダクトを提供したいのか?自分たちが他とは違った点は何か?より自分たちらしさって何か?を考え、それをプロダクトに落とし込んでいくことが大切になってくると感じた。
世界中のデザイナーとの交流
Configに現地参加して一番よかったことは、世界中のデザイナー、エンジニア、プロダクトマネージャーと出会い、話すことができたこと。数え切れない出会いがあったが、その中でも特に印象に残っている出会いの一部を紹介する。
Figma Japanのみなさまの企画で、イベント最終日の夜にFigma CPOであるYuhki Yamashitaさんと懇親会で話すことができた。
AIとデザインの未来について、というテーマで思わず興奮して一方的に話してしまった僕の考えを、Yuhkiさんは優しく聴いてくれただけでもありがたいのに、最後に「その考え良いね」って言ってもらったのはめちゃくちゃ嬉しかった。
一緒に写真は撮りそこなたが、日本語のローカライズを担当したプロダクトマネージャーの方も参加しており、感謝の気持ちをたくさん伝えたり、ローカライズ時の優先順位の考え方など、ためになる話をたくさん聞くことができた。
また、コロナ前に知り合い、コロナ禍が突入したことで中国と日本で離れ離れになってしまい、一度も対面で会ったことない友人にConfigで初めて会うことができた。彼は現地のデザイナーを僕に紹介してくれて、DuolingoやShopify、SAP、Uberなどなど、名前を聞くだけでも驚くような企業で働くデザイナーをつなげてくれた。
イベント最終日には、Config会場の目の前の公園で開催されたAfter Partyに参加した。と言っても、お酒はないのでただ話すだけだけど。東京で参加してるMeetupと違って、知り合いが別の知り合いを紹介したり、つなげたりする文化があって、1時間参加して同じ場所にいただけで、数十人以上の人と知り合うことができた。
ChatGPTについて率直にどう?って聞いたり、実際に業務で使ってるの?って話を聞いたり、今夢中になって取り組んでいることや課題に感じてることについて話したり。ビッグネームの企業で働くデザイナー、サンフランシスコのスタートアップで働くデザイナーってだけでビビってたけど、話を聴いてると、freeeでこれまでやってきたこと・これからやろうとしていることと、大きな違いはなくて、より良い未来に向けて、情熱に溢れるデザイナー達が真摯に向き合っているんだなってわかって嬉しくなった。
これからのAIとデザインについて思うこと
①LLMの流れは世界的に見てもまだまだこれから
LLMは、これからのデジタルプロダクトを大きく変えるゲームチェンジャーになる可能性を秘めている。ChatGPTの誕生によって、例えば文章を自動修正するようなサービスは一気に消えてしまう可能性もあり、危機意識を持っている人が増えている。
プロダクトに組み込もうとし始めている会社はいたが、デザインプロセスに取り入れているところは少ない。
②LLMによって、我々は複雑な課題やコアとなるような部分によりフォーカスできるようになる
LLMによって、標準UIの自動生成が当たり前になることで、一貫性のあるUIを短時間で提供できるようになる。例えば、一覧と詳細のように決まったパターンのデザインが自動で生成されたり、自社のデザインシステムを学習し、パターンをもとにUIを生成することで、ユーザー観点では一般的なパターンでは、ほぼ学習コストなしに利用できるようになる。
そして、我々はオリジナルや新しい発明にフォーカスしやすくなる。複雑な問いにフォーカスしたり、体験にフォーカスしやすくなる。
③アイデアを思いつき、世に出すまでの速度が劇的に変化する。
品質の高いプロダクトをリリースする速度が一気に変わるため、まずリリースしてから検証しよう、という動きが一気に増える可能性はある。AI時代におけるリサーチのあり方、みたいなテーマも面白そう。
④その”プロダクトらしさ”がこれまで以上に大事になる。
Duolingoは自分たちが作り上げたキャラクターがある。その個性があるから、ただのチャットbotではない存在が出せる。
では、自分たちらしさをプロダクトにどのように取り入れるか?AI時代において、自分たちらしさをより尖らせていくことがデザイナーとして求められてきそう。GPTとProduct Principlesみたいな組み合わせPromptを考えていくのも面白そう。
最後に
実は、今回のブログで紹介した内容をサンフランシスコから帰国した直後の社内イベントで発表したところ、信じられない偶然が起きました。
その社内イベントでは、freeeのデザインシステムを作っているfkadyが、次の記事の続編として「パターンを用いたデザインシステム」の現在地の話をしていたんですが、FigmaのNoah LevinによるAIとデザインの未来の登壇との繋がりを感じました。
LLMの進化とfreeeのデザインシステムの未来を組み合わせると、どういう世界が待っているか?を今から想像するだけでもワクワクするなと思います。
ここに書き足りない話はたくさんありますが、そろそろ文字数が長くなってきたので終わりにしようと思います。
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