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#9.W.D.ギャンの28の運用ルール を知る
1.株式投資を学ぶための3つの柱
株式投資を臨むにあたっては、「予測技術」「心理的傾向」「運用ルール」の3点を学ぶ必要があります。
本サイトで紹介します「W.D.ギャンの28の運用ルール」は、3つめの「運用ルール」を学ぶためのヒントになります。
1)予測技術
「予測技術」とは、テクニカル分析やファンダメンタル分析を駆使して相場を予測する技術です。
2)心理的傾向
「心理的傾向」とは、含み損がいくらまでなら耐えられるか、いくらに達したら冷静な判断ができなくなるか、などを知ることです。
3)運用ルール
「運用ルール」とは、資金管理、取引テクニック( 注文の出し方 等 )に関する決まりごとです。
ヒトは精神的に弱いです。自信を持って買った株の価格が下がり始めたとき、冷静に対処できるヒトは少ないです。頭では損切りすべきだと理解していても、「戻るかもしれない」という気持ちを抑えきれず、損失を大きくしてしまいます。
そのため、自身の心理的傾向に合った運用ルールを確立し、順守することが重要となります。
2.28の運用ルール
ここで紹介する「28の運用ルール」は、林康史編著(2006).「 伝説の株必勝法「W.D.ギャンの28鉄則」 」を参考にとりまとめています。
28の運用ルールは、「資金管理」「ストップロス・オーダー」「取引テクニック」の3分野に分類されます【図1】。
運用ルールの詳細を併せて整理していますので、ご活用ください。
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1)資金管理編
● ルール1.
資金の額:資金を10等分し、1回の取引に資金の10分の1以上のリスクを決して取らない。
投資に伴うリスクは、一般的に「信用リスク」「流動性リスク」「市場リスク」など多岐に及び、すべてのリスクを管理するのは困難です。
ギャンはこのようなリスクをコントロールするため、「リスク ≒ 1回あたりの損失額」と定義しています。
具体には、投資資金を10等分して、1回あたりの取引における損失限度を資金の10分の1にせよとしています。つまり、100万円を株式投資に回そうと決めた人が1回の取引で取ってもよいリスクは、10万円となります。
● ルール3.
過剰な売買を決してしない。これをすることは資金運用の原則に反することになる。
ルール3は、ルール1を補完するルールです。ルール1「資金を10等分し、1回の取引に資金の10分の1以上のリスクを決して取らない」を遵守しても過剰な売買をしていては元も子もありません。
過剰な売買には、大きな額を取引するということだけではなく、小さな利益を狙って小さな取引を頻繁に行うことも当てはまります。
頻繁な売買は手数料がかさみ、利益が目減りします。利益を効率的に増やすには、頻繁な売買を避けるのが無難です。
● ルール8.
リスクの均等分散。できれば、4つか5つの銘柄を取引する。資金全部を1銘柄に集中させることは避ける。
ウォール街には「ひとつの籠のなかにすべての卵を入れてはいけない」という格言があります。どんなに確信があっても、1銘柄にすべての資金を投資してはいけない、というものです。
資産をひとつの銘柄に集中させていては、その銘柄が急落したときに、一度に大きなダメージを受けてしまうからです。
しかし、分散させすぎるのも良くありません。分散投資は、一度に大きな損失を被る可能性は低くなる一方、利益も平均化されてしまうためです。
分散させないのも良くないし、分散させすぎるのも良くないのです。何ごともバランスが大切となります。
● ルール11.
実現益は蓄積せよ。連続して取引に成功したら、一部は温存し口座に入れ、緊急時やパニック時にだけ使うこと。
ギャンは、「連続して利益が上がったら、運も頂点かもしれないのだから、それ以上利益を追うのではなく、いったん資金を蓄積していざというときのために備えること」と論じています。
ギリギリの勝負を続けていては、市場の黄色信号を見落としてしまったり、自身の相場観を狂わせてしまう恐れがあるためです。
何ごとも、「余裕」を持つことが重要となります。
● ルール24.
長期間成功し設けた後で取引量を増やすことは避ける。
ギャンは、「元手がスタート時の2倍になったら取引量を2倍にしてもよいが、それまでは取引量を増やしてはならない」と論じています。
いかに調子が良くても、取引量を増やすことには慎重にあるべき、ということです。
ただ、実際は大儲けして調子づいているときに、その利益の一部を安全な金融商品に移すことはなかなかできないものです。
● ルール27.
損が出た後では取引量を縮めよ。決して増やしてはならない。
ギャンは、「もし3回連続して損をしたなら、取引量を減らし、残っている元手の10分の1のリスクだけ取れ」と論じています。
元手を全て失くしてしまうことを避け、取引を続けられるようにするためです。3回連続で損を出したのは、自身の相場観ややり方が間違っていたからであり、同じやり方を続けていれば、残りの資金も減ってしまう可能性が大きくなります。
取るリスクを減らし、自分のやり方を見直し、将来のチャンスを担うことが大切です。
2)ストップロス・オーダー編
● ルール2.
ストップロス・オーダーを使うこと。取引にあたっては常に3~5ポイントの差でストップロス・オーダーを置いてポジションを守ること。
「ストップロス・オーダー」とは「逆指値注文」と呼ばれ、株価が上がったら買い、株価が下がったら売る、と、通常とは逆の方向に注文することです。
この注文の目的は2つあります。1つめはブレイクスルーして発生したトレンドに乗るため、2つめは投資による損失を限定するため、です。
特に、2つめの目的は大切です。損失が明らかになれば、まずは損切りをして次の損失を出すことを避ける、ということです。思惑が外れた場合は損失を確定してでも、手を打たなければなりません。そのための手段が「損切りのための注文」(ストップロス・オーダー)です。
なお、3~5ポイントという数値はあくまでも当時の市場に応じたものなので、現在の市場ではその数値自体を重要視する必要はありません。
● ルール4.
儲けを損失に変えない。3ポイント以上の含みができれば、利益を失わないようにストップロス・オーダーを近づけること。
ギャンは、「儲けが出たとき(株価が上がって含み益が出たとき)には、その利益を失わないように、ストップロス・オーダーの価格を上げて近づけよ」と述べています。
このルールを用いることで、損切を確実に実行するだけでなく、元手を温存しながら含み益を増やしていくことが可能となります。
なお、ルール2と同様に、3ポイントという数値はあくまでも当時の市場に応じたものなので、現在の市場ではその数値自体を重要視する必要はありません。
● ルール16.
ポジションと同時にストップロス・オーダーを出し、これをキャンセルしない。
ギャンは、「株を買ったり、空売りして、新たな取引が生じたときには、それと同時にストップロス・オーダーを出し、途中で気が変わったからといって、それをキャンセルするようなことをしてはならない」と述べています。
ルール16は、株式投資を始めるなら、何はともあれ、ストップロス・オーダーを置くことが大切であることを記したものです。
3)取引テクニック編
● ルール5.
トレンドには逆らわない。自分のチャートとルールに従って、相場のトレンドに確信が持てないときは売買しない。
株式投資における重要な要旨のひとつがトレンドです。トレンドとは、株価が時々刻々と上がったり下がったりしながら生み出す、「上昇または下降に関する大きな方向性」のことです。
トレンドには「上昇」「横ばい」「下降」があります。「上昇」トレンドの株を買えば利益が上がり、「下降」トレンドの株を買えば損を出すことになります。そのため、トレンドを把握することはとても大切です。
ギャンは、「トレンドを正確に判断するため、常に研究を怠らないこと。儲けのことは考えない。相場に正しくあれば、儲けはついてくる」と論じています【「ウォール街 株の選択」より 】。
● ルール6.
疑わしいときは手仕舞い、ポジションを持たない。
疑わしいと考えたときや自信が持てないときは、例えそれが損切りであっても手仕舞うべきであり、しばらく取引そのものをやめて様子を見ることが必要となります。
● ルール7.
活発な銘柄のみを取引する。動きが鈍く、活気の鈍い銘柄には手を出さない。
株に投資する場合、動きが活発な銘柄にするべきです。
売りたいときに売れないような流動性の低い銘柄に資金を投資することは、投資効率が悪くなるため、手を出さないのが無難なのです。
● ルール9.
指し値をしてはならないし、売買の価格を固定してはならない。成り行きで売買すること。
ルール9は、トレンドを追随することを念頭においた発注方法を示したものです。
株式投資で失敗しないためには、いかにチャンスを逃さずに株の売買を行うかが重要となります。指値注文は売買価格を固定するため、チャンスを逃してしまう恐れがあります。
ギャンは、指値注文を避けるべきと論じています。
● ルール10.
充分な理由なしで手仕舞わない。利益を守るには、ストップロス・オーダーでフォローする。
多くの投資家は、理想的な売買を狙ってあれこれと画策した結果失敗してしまう、ということを繰り返しがちです。
手仕舞いは、「ストップロス・オーダー」でフォローすることが大切になります。
● ルール12.
配当目当てで株を買わない。小掬い商いをしない。
投資家のなかには、配当金や百貨店などの株主優待制度の利用を目的に、株を取得される方がいます。それはそれで問題ないことですが、「投資」という視点にあっては正道ではありません。
また、スキャルピング(小掬い商い)のような薄利を稼ごうとする売買手法もトレンドを見失う恐れがあることから、「投資」の正道とは言い難いようです。
● ルール13.
難平をしない。難平はトレーダーの最大の誤りである。
「難平」とは、買った株が下落傾向に入った場合、その銘柄をさらに買い増しし、平均購入価格を下げる手法です。
ギャンは「ポジションが不利になり始めるということは、どこかが間違っているのである。それなのになぜ難平売買をするのか」「難平で相場を打ち負かした例を見たことがない」と述べています。
● ルール14.
我慢できないというだけで相場から逃げない。また、待ちきれなくなったというだけで手を出さない。
十分な理由なしに、ポジションを変えてはいけません。
ヒトは株価が上がり始めると、それをなんとか手に入れたいと思い、我慢できなくなって無謀な買いに走ってしまいがちです。また、トレンドが下落基調に入っているにも関わらず、また値上がりすると思ってしまい、下落途中で買いに走ってしまうことがあります。
自身をコントロールできないヒトが投資の世界で成功するのは、困難なことです。
● ルール15.
小さな儲けと大きな損は避ける。
ヒトには、失うことを嫌うという習性があります。
少しでも利益が出ればすぐに手仕舞うことを考え始め、一方で大きな損失が出るとなかなか損切りができなくなる、というものです。
ギャンは、それを避けよ、と言います。そのためにも、最初に運用ルールを決めて、守ることが大切になります。
● ルール17.
あまり頻繁に売買しない。
頻繁に売買すると、手数料がかさみ、利益を小さくしてしまいます。
また、目先の売買に注意が奪われてしまい、トレンドを見誤ってしまうことになりかねません。その結果、大きなトレンドの波をつかみ損ねる可能性が大きくなります。
● ルール18.
買いをいとわないのと同様、空売りをいとわないこと。トレンドに追随し、儲けることを目的とする。
ギャンは、トレンドに従って利益を出すことを前提として、空売りもいとわないことを進めています。
損切りのルールを守り、リスクをコントロールすれば、株価下落の局面でも利益を出すチャンスがある、ということです。
● ルール19.
安いというだけで買ってはならないし、高いというだけで売ってはならない。
株式投資では、株を安く買って高く売ることで利益を出していくことが基本となります。
ギャンはこう言います。「トレンドが下向きなときには売るのみ安すぎるということはなく、逆にトレンドが上向きなときは買うのに高すぎるということは決してない」【「株価の真実」より 】
重要なことは「トレンド」に乗ることです。
● ルール20.
ピラミッディングのタイミングに注意する。株が非常に活発になり抵抗線を抜けるのを待ってから買い増しし、支持線を割るまで待ってから売り増しする。
「ピラミッディング」とは「利乗せ」と訳される投資手法です。当初のポジションに含み益が発生した段階で、さらにポジションを積み増していく方法です。その積み増していく様子が、ピラミッドのように見えることから、ピラミッディングと呼ばれています。
ギャンは、ピラミッディングするときは「抵抗線」と「支持線」のブレイクをシグナルとするように、と述べています。
● ルール21.
買いのピラミッディングをするには、発行済株式数の少ない銘柄を選び、空売りのピラミッディングをするには、発行済株式数の多い銘柄を選ぶ。
買いのピラミッディングをするには強力な上昇トレンドを示す銘柄(商品)を選び、売りのピラミッディングをするには明確な下降トレンドを示す銘柄(商品)を選ぶ。
商品の価格は、市場における需要と供給の関係で決まります。この構図は株価にも当てはまります。
そのため、発行済株式数が少ない銘柄は市場の品薄感が高まり、株価が上がる可能性が高くなります。空売りの場合は、逆に、発行済株式数が多い銘柄の方がよいことになります。
● ルール22.
ヘッジは決してしない。ある銘柄を買い建てしていてその価格が下がり始めたとき、これをヘッジしようとして別の銘柄を空売りしてはいけない。この場合は相場から手を引いて損を確定し、次の機会を待つ。
ここでいう「ヘッジ」とは、「現物買い」と「株の空売り」の両方を同時に行う投資方法です。A社株を現物買いしたものの急落してしまったので、同業種のB社株を空売りする、というのも「ヘッジ」の1つです。
相場の格言に「両建て両損」というものがあります。
ギャンは、自身が間違っていたときには損失を確定し、次の機会を待つべきと述べています。
● ルール23.
十分な理由なしにポジションを変えないこと。取引する場合は、十分な理由に基づくか、または明確なルールによること。また、相場のトレンドが変わる明確な兆候がない限り手を引かない。
ギャンはこう言います。「ルールに従うことができないヒトは投機や投資はやめたほうがよい。失敗に終わることが確実だからである。道はどちらかひとつ、ルールを厳格に守るか、まったく守らないかである」
● ルール25.
相場が天底となる時を当て推量してはならない。天底は相場が明らかにする。明確なルールに従うことで、相場を知ることができる。
このルールは「相場を予測してはいけない」と述べています。
天底は誰にも分かりません。過去をふり返ってはじめて、天底だったことが分かるものです。そのため、予測はせずに、「ストップロス・オーダー」で相場をフォローしていくことが重要となります。
● ルール26.
自分よりも相場を知らない人の助言に従ってはならない。
ヒトは、「ほかのヒトと同じようにしたい」という心理的傾向を持っています。
多くの投資家は、周囲の意見や、ときには自身よりも知識のない人の意見に影響され、損を出してしまうということを繰り返しています。
● ルール28.
間違えて入るのを避けると同じく、間違えて手仕舞うことも避ける。いずれも間違いだからである。
多くのヒトは、取引を始めるときは慎重になり、「間違えて取引を始める」ことがないように注意を払います。
それは取引を終えるときも同じです。取引を始めるときは慎重なヒトでも、手仕舞うときは意外に慎重ではないものです。
ギャンは、取引を始めるときと終えるときのいずれに対しても注意を払うべきと述べています。