原油というモノカルチャーに頼るブルネイとベネズエラの、似ているけれど対照的な国内統治
主権国家にはその国内における法律は自由に制定する権利がありますが、国際社会の中に存在する以上はある程度の制約を受けます。しかし、ブルネイのように豊富な石油資源によって経済的に豊かであり、周辺諸国と険悪でもなく安保上の問題も無ければ、このような法律さえ施行してしまいます。
同性愛や不倫行為は死刑、窃盗は手足切断! ブルネイ、イスラム式新刑法を4月3日から施行
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/04/43-5_1.php
ブルネイ国内における法律に対して、他国が異議をとなえて外交問題化することは、主権侵害・内政干渉と紙一重ですから、外国政府が公式な見解としてブルネイを批判するのはなかなか難しいものがあります。
逆に、上記記事中にもありますが、ジョージ・クルーニーが批判してブルネイ系列のホテル利用のボイコットを呼びかけているような、民間レベルでの抗議に力を入れるべきでしょう。なにより、外国人旅行客にまで適用対象に含めるとのことですから、そもそもブルネイへの旅行を観光にしろ仕事にしろ、出来る限り控えないと何が起きるか分かりません。
他国への依存が少ない国だとこんな無茶が通るということです。
以前にこんな投稿をしましたが、
日本核抑止私論〜核武装と核シェルター配備〜
https://note.mu/hrsgmb/n/nb7c8b2127ae1
この中で、
例えば、国民すべての食料を自国で全て生産できて賄える場合、他国からの輸入がストップしても生きていけるわけですから、経済制裁による食糧難は発生しません。同じくエネルギーに関しても、原油や石炭あるいはウランやプルトニウムを自国で生産出来る国は、経済制裁でそれらの輸入が出来なくなってもエネルギーに困ることはありません。自給率が高い国は侵略戦争を仕掛けても国際社会による経済制裁をものともしないということになります。その場合の抑止力としては物理的な報復攻撃もしくは国連軍や多国籍軍・有志連合といった諸国による軍事介入しかありません。逆に言うと、国家や国民が存続していくために必要なモノを他国に大きく依存している国は、他国に対して戦争を仕掛けるような真似はしづらいということになります。非常に重要な物資あるいはサービス(現在ですとインターネットなど)を他国に高レベルで依存しているという状態は、非常時に国家の存続が不安定化するというデメリットはありますが、他国から、また同じように自国民も、「そこまで他国に依存している国家は馬鹿げた戦争を行えないはずだ」という認識を持つというメリットもあります。その他国への依存を複数の国それぞれが同じように依存関係を持っている状況、相互依存が複雑に絡み合っている状況を作り出せば、どの国も侵略戦争が出来ないということになります。もちろん、現実にはそう上手く行くわけではありませんが、完全に依存しない国同士が並んでいるよりも、お互いに相手に依存している国同士が並んでいる場合は戦争は起こりづらいという理屈は理解しやすいと思います。
と書きました。
ブルネイはまさに、他国への依存が低いことによって、戦争とまではいかないまでも、外国人旅行客に対して上述の法律を適用して外交関係が悪化しても別に構わないとまで思っているような状態になっています。
じゃあその石油資源の売り先が買わないような事実上の経済制裁に近い対応を取ればいいじゃないか、と思い、ブルネイの主要輸出先を調べてみました。
外務省のブルネイ基礎データのページです。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/brunei/data.html
貿易相手国(2017年)
(1)輸出(2017年)
日本(29.2%),韓国(14.1%),マレーシア(11.2%),タイ(10.9%),シンガポール(7.6%)
(2)輸入(2017年)
中国(20.7%),シンガポール(18.4%),マレーシア(18.2%),米国(9.4%),日本(3.9%)
(出典:ブルネイ首相府)
Oh・・・、なんてこった、日本が一番ブルネイにお金を払っているではないですか。
ブルネイは日本に石油を売って得た金で中国・シンガポール・マレーシアから物資を輸入している貿易体制となっています。
さて、日本政府としては必要不可欠な石油の輸入先の一つであるブルネイに圧力をかけられるのでしょうか?
ところで、原油産出国として国内で無茶をしている国としては、他にもベネズエラが思い浮かびます。原油埋蔵量としては世界一とも言われているのに、設備投資やメンテナンスにお金を回さなかったために原油の産出が滞り、石油を輸入せざるを得なくなっています。
原油埋蔵量最大のベネズエラが輸入でキューバへの供給を賄う事情
http://agora-web.jp/archives/2033560.html
そもそも、自国内に産出する資源の輸出に頼っている国の経済は安定しません。資源の価格は国際市場における需要と供給によって決まりますので。自分が売っている商品の価格を他人が決める店のようなものです。さらに難しいのは、値段を決めている人は直接商品を買ってくれる人ではありません。石油や天然ガスの取引が行われる国際市場には、多くの市場関係者が集まっていて投資や投機の対象になっています。原油を直接欲しいと思っている人と値段交渉が基本的に出来ません。自動車なり衣服なり、工業製品を売るのであれば国際市場経由ではなく必要とする国と直接交渉して売りさばきますから、叩かれる可能性はありますが値段が誰か知らない人が決めるということにはなりません。
これがまさにモノカルチャーに依存する資源国の恐怖ですが、ブルネイは原油価格が上下しても国家衰亡の危機とまではいかないようです。逆にベネズエラはまさに危機的状況ですし、ロシアのようなたいこくですら、原油価格の低迷と経済制裁で苦しんでいます。
ベネズエラとブルネイにどんな差があったのでしょうか?
ブルネイは立憲君主制で王族がいて贅沢していますが、国民にもそれなりに石油売却による富の分配を行っていて社会福祉も充実しています。
一方、ベネズエラはチャベス政権以来、社会主義に基づいて国家運営しているはずでしたが、国民は窮乏していき前述のように原油生産がままならなくなるところまで来ています。原油埋蔵量ではブルネイよりも上なのですから、普通に考えればブルネイよりも稼ぐことが出来たはずです。
人口がベネズエラが3000万人、ブルネイが40万人ですからベネズエラ国民がブルネイ国民並みに豊かになることは出来ないにしても、ここまで貧しくなる理由にはなりません。ベネズエラにおける原油利権を左右できる人達が、ブルネイの王族を遙かに上回るレベルで私腹を肥やしている証左になるのではないでしょうか。
ベネズエラの政治情勢は予断を許さない状況が続いていますが、抜本的に変わらない限りベネズエラ国民の苦しみは無くならないでしょう。