ルールチェンジャーの欧米、ゲームチェンジャーの東アジア
バイデン大統領になってもアメリカと中国との経済戦争はすぐには収まりません。中国が軍事でも経済でもアメリカ一強の世界秩序に対して覇権をかけて挑んでいる以上は、誰が大統領でも中国の脅威を排除しようとするのは当然です。
今の中国とアメリカの関係は、多少の違いはあれど1980年代の日本とアメリカのようです。あの頃の日本は「ジャパンアズナンバーワン」と称えられた日本式経営や政官財一体となっての経済発展をベースにして、アメリカの経済覇権に戦いを挑んでいました。
結局その結果は誰もが知るとおり、プラザ合意で日本と西ドイツの協力を取り付けたアメリカが覇権を維持して、冷戦も勝利に終えて世界唯一の超大国となった一方で、日本はバブル景気とその崩壊を経て失われた10年・20年・30年を過ごしています。西ドイツはEUとユーロによって巨大市場と廉価な労働力を得たおかげもあって低迷していませんが、アメリカとの差が大きく開いたことには変わりません。
いざ尋常に勝負!という経済戦争なんか存在しない以上、手段を選ばず戦って勝ったのがアメリカということですが、ゲームで不利になったらルールを変えることで有利を維持するメンタリティが西欧には特有のものなのかも知れません。
さらに時代をさかのぼると、先行していたイギリス・フランスを、19世紀後半に相次いで近代国家化して猛烈に追い上げた日本・ドイツが世界の覇権をかけて挑むと、英仏はアメリカを巻き込んで軍縮によって現状の有利さを固定化しようと試みたり、国際連盟の枠組み(アメリカは抜けましたが)で新たな植民地獲得が出来ないようにしました。
英米仏の覇権がそのままなら、追い上げてきた国々はそれ以上頭打ちになります。頭を抑えられたら横につながり、一緒になって既存秩序(既得権益層)を破壊しようとするでしょう。それが第二次世界大戦のキッカケというか構造的な理由です。
植民地獲得と経済発展のゲームで、日独がゲームチェンジャーとして世界秩序を変えようとしてきたので、英米仏がルールチェンジャーになってゲームの仕組みを変えた格好です。
80年代の日米経済摩擦で言えば、自動車や半導体産業で世界をリードしていたアメリカが、日本と西ドイツがゲームチェンジャーになってアメリカを打ち破ろうとし、それに対してアメリカがルールチェンジャーとしてゲームの仕組みを変えました。自動車生産をアメリカ本土の工場でさせるなんかは分かりやすい例です。
今の中国を以前の日本と比べると嫌がる人もいるでしょうけれど、既存のルール内で極限までゲームを有利になるように持っていけるという点では同じです。
そしてゲームが不利になるとルールを変えることが出来るという点では、この100年での西欧に共通する特徴です。ズルとも言えますが。
規則を変えて有利になるルールチェンジャーになるのが欧米、やり方を変えて有利になるゲームチェンジャーになるのがアジアという構図です。
自動車などの基幹産業を失いつつあるアメリカが、まさにその80年代にIT大国アメリカに導くコンピュータ産業を勃興させました。IT・インターネット産業で再び世界の覇権を揺るぎないものにしたアメリカに対して、2010年代・20年代になって中国がかつての日本のように経済戦争に持ち込んだ(あるいは持ち込まれた)のがまさに今です。
ゲームチェンジャーのままだと中国はおそらく負けるでしょう。ルールチェンジャーになれるかどうかですが、アメリカがルールを変えるとしたらどの方向に行くでしょうかね。ハードウェアに依存せず、イノベーションとイマジネーションで進化し続けるソフトウェア・クラウド・AIの時代に持っていけたら、やっぱりアメリカが勝つんでしょうね。