民意を反映する短命政権は是か非か
首相がコロコロ替わる日本の政治は昔から批判されています。本日、岸田新内閣が発足しましたが、前任の菅政権は1年ちょっとで終わりました。その前の安倍政権が歴代最長だったのですが、明治以来、日本の首相任期はたいていこんなものです。
もって2年、3年続けば長期政権、5年以上なら歴史的と言える程度に短いのが日本の首相の在任期間です。首相が毎年のように入れ替わるので長期的な政策が出来ないとか、官僚任せになるとか、昭和の頃からずっと言われてきました。
この度、16年の任期を終えるドイツのメルケル政権と比べると対照的ですが、そもそも短命であるのは日本の政治の不安定性に起因するというよりも、選挙制度によるものと言った方がいいでしょう。
日本では衆議院選挙が少なくとも4年に1度あり、参議院選挙は3年毎に半分改選されます。衆院はタイミングを見計らって首相が解散権を行使することがあるので、きっかり4年毎というわけでもありません。
さらに、戦後のほとんどの時期で与党である自由民主党の総裁選挙も3年毎に行われます。去年・今年のように任期途中で総裁を下りた場合の後継総裁は前任者の残りの任期を務めますので、それが終わればまた総裁選が行われます。以前は2年毎だったのでこれでも長くはなったのです。
このように、衆院選・参院選・総裁選がバラバラに実施される選挙制度となっています。2年に1度はそのどれか、場合によっては毎年のようにそれらのどれかの選挙があります。丸2年以上、これら3つの選挙にさらされない政権はまずありません。そのどれも政権に大きな影響を与えるため、総理総裁のポジションが1年2年で入れ替わっていくというのは、ある意味当然でしょう。
それだけ、短いスパンで民意が問われる選挙が行われ、その民意が政権に反映されているとしたら、それはそれで理想的な民主主義制度と言えるかも知れません。実際に反映されているかどうかは別ですが、完全に民意を無視した政策を2年以上継続することはまず無理です。
選挙制度はその国固有の歴史と文化に基づいて実施されています。余所の国の制度を理想としてそのまま持ってきても上手く行かないのは、西欧的民主主義を形だけ取り入れる途上国の政治的混乱を示せば証拠としては十分でしょう。
では超長期のメルケル政権は民意を無視してきたのかというと、もちろんそうではありませんが、ヨーロッパでは議席を持つ政党の数が多く、議院内閣制の国であればまず間違いなく連立政権を組んでいます。メルケル政権も16年間で何度も連立の組み替えを行って政権を維持してきました。その都度、連立相手のポリシーをある程度は受け入れないといけないので、風見鶏的に言われてきましたが、ヨーロッパ的民主主義・議院内閣制で長期政権を組むなら誰だってそうなるでしょう。
日本の場合は、自民党が保守からリベラルまで含む巨大な政党であり、内部に相反する理念・政策・方針を持った人たちや派閥の集まりですから、自民党自体が連立政権みたいなものです。
連立政権でも相手を組み替えれば長期政権になる、というのも一概には言えません。そもそもの首相の力量や与党の強さ、そしてその国の政治事情にもよります。イタリアのように短命の連立政権が続く国だってあります。
結局は、政治制度も選挙制度もその国それぞれの事情で決まるものであって、
「二大政党制こそ正義」
「二大政党制実現のための小選挙区制」
というお題目が所詮借り物であることは言うまでもありません。二大政党制のために小選挙区制を導入した人がそれを批判しているのは噴飯物ですが。