見出し画像

ワクチン接種における人命オプション方程式

先進国ではワクチンに懐疑的な人たちが反ワクチン運動を広げています。逆に途上国では、医療従事者や高齢者に優先的に接種されるところを、政治家やその家族が不当に権力を行使して、先に接種して国民やマスメディアに批判されている状況があります。

教育レベル、科学に関する理解のレベルなどを考えると、先進国と途上国での反応が逆なんじゃないかと思ってしまいますが、不思議なものです。医療体制を考えると途上国の方がたいていは被害が大きいはずなのですが、ワクチン接種の副反応による被害が軽く見られているのか、それとも、単に人の命の価値が先進国と途上国で差があるのか。

非道なことに、例えば航空機事故などで亡くなった人の補償として、遺族に渡される金額は、先進国の航空会社と途上国の航空会社では、大きな差があります。その国の物価や経済状況が反映しているとは言え、世界共通の「命の値段」は存在していません。

人の価値を天秤にかけるという点では、ワクチン接種を思考実験のトロッコ問題と同じ向きと考えることもあります。

多数を助けるために少数を犠牲にするか、多数の犠牲を覚悟で少数を助けるかという点では確かに同じです。

ただ、多数が絶対に犠牲になるとは限りません。そこがややこしいところです。スウェーデンが失敗した自然な集団免疫戦略とか、あるいは徹底した厳しい管理で国民の行動を制限するとかで、ワクチンがなくてもいずれは収束することは想像できます。新型コロナウイルスによって全員が犠牲になると言うことは考えにくいです。

その一方で、ワクチン接種にはどうしても副反応そしてその犠牲は防げません。必ず少数の犠牲は出てきます。

確実ではない多数の犠牲と、確実な少数の犠牲という非対称性があるわけです。

トロッコ問題というよりも、金融のオプション取引やデリバティブ取引のようです。それらは一般的にマイナス(もしくはプラス)については取引が成立した時点で金額が決まっています。損失が一定限度に留まる一方で、利益は際限ないという非対称性が存在するわけです。

そうなれば、ワクチン接種によるメリット・デメリットの比較に関して、デリバティブ取引のオプションプレミアムの価格を導き出せるブラックーショールズ方程式(ノーベル経済学賞を受賞)のようなものが存在するでしょうか?

そんな方程式があったとしても、人の命を計算するという倫理的な問題が出てきますのでそう簡単には使えないでしょう。倫理よりもむしろ一番の問題は、ブラックーショールズ方程式でノーベル賞を受賞したショールズらを集めて華々しく投資を行っていたロングタームキャピタルマネジメントというヘッジファンドが、アジア通貨危機で華々しく散っていったように、現実問題のごくごくまれにしか起きないブラックスワンには対処出来ないことでしょうか。

そしてまさに今の新型コロナウイルス問題は、ブラックスワンそのものでしょう。

ワクチン接種のメリットとリスクと、副反応で失われる人命の価値の間に、適切な方程式は存在するか、存在してもそれを運用できるか、運用しても成功するか。

約100年前のスペイン風邪から、今回の新型コロナウイルスまでの間の100年間は、人命が軽視される大戦争も、イデオロギーによる虐殺も、テクノロジーのとてつもない発展もありました。今はもちろんコロナ対応が最重要ですが、また次の感染症が起きたときに、何らかの方程式を用いて人類は適切な対応が出来るでしょうか?

いいなと思ったら応援しよう!