改憲と護憲とお人好しと悪事と。

自分が思っていること・望んでいることがかえって逆の結果に結びつく、というのはままあることです。

私はすこし天邪鬼ですので、他人の主張を目にしたときに裏返して考えてしまう癖がついているのですが、改憲論議を見るときにいつも思ってしまうことがあります。

改憲派は憲法改正のハードルを下げることを主張しています。いわゆる憲法96条の改正手続きの問題です。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=321CONSTITUTION#263
第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

読んで分かる通り改憲するにはかなり厳しい条件があります。人によっては日本の改憲の条件が厳しすぎる、と言う人もいますが、これはその国毎によって様々ですし、そもそも硬性憲法か弾性憲法かの違いもあるし、英国法と大陸法の内容も違いもありますし、ただ単にどこそこの国ではこのように憲法が用いられているから日本もそうすべきだ、と言える問題ではないと思います。それは改憲・護憲双方に言えることです。

さて、この3分の2以上の賛成が必要ということですが、いわば33%のラインで拒否権が存在するということになります。これはちょうど株主総会で議決に対する拒否権のラインと同じですね。個人的にはあまりにも高すぎる、というほどのラインとは思いません。8割や9割必要であれば異常だと思いますが。

さて、この改憲のハードルを下げることは当然、右寄りの人にしてみれば憲法9条の条文変更に即つなげることが出来るので賛成なのでしょうし、左寄りの人にしてみれば戦争の話につながるので反対、ということになるのでしょう。

しかし、この改憲のハードルを下げることはその時代・社会における政治情勢で強い意見が通りやすくなる、ということであり、その情勢が平和主義に極端に傾けば、自衛隊自体の廃止すら憲法に記載することも出来るという理屈もあり得ます。あるいは共産党のように将来的に天皇制を廃止したり共産主義社会を導入することも憲法に盛り込むことがしやすくなります。つまり、憲法改正をしやすくするのは過激な意見にこそメリットがあるわけで、そしてそれは右寄りだけではなく、左寄りの方にも同様に効果があるのです。

改憲派・護憲派の双方は自分が主張していることが相手にとって利益になり得る、ということ頭の片隅に置いておいてほしいものです。

あと、戦争や軍隊に関して現状の危機を論じること自体を否定的に見る人もいますが、そもそも戦争は当事者双方が楽観的なときに発生します。平たく言うと、「戦争に勝てる」と思うから戦争するのです。逆に言うと、悲観的に情勢を捉えている国は戦争を出来るだけ回避しようとするはずです。戦っても勝てないのであれば戦争にならないようにしなければなりません。それが相手国への譲歩なのか、自国の軍備増強なのかは議論してみないと決められないでしょう。

平和を愛するのであれば平和を維持する方法を考えるべきであり、ではどうやって維持するかという話をするときに平和のことだけ考えればいい、というのはトートロジーでしかありません。攻め込まれたときの対応を行わないのは攻め込まれる可能性を増やすことでもあります。

はっきり言ってしまえば、語弊があるかも知れませんが、お人好しは悪事を誘発するという点で罪悪でもあります。自分がだけが被害を受けるのではありません。相手に悪事を働かせるほどのお人好しはある意味両方を傷つける存在でもあります。

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