国有化と自由化の難しさ
アメリカのテキサス州では、大寒波の影響で広く停電が起き、大変なことになったそうですが、そもそも日本に先んじて20世紀の内に進んでいた電力自由化のせい、という一端もあるようです。
そもそもテキサス州では電力自由化のあとに停電のリスクが増えてなおかつ電気料金も上がりました。なんのための自由化だったかと言えば、企業が自由に電気で儲けるためだった、と言われてもしょうがないでしょう。
自由化だけが停電の原因でもないのですけれど、民間企業であれば当然利益を出すことが最優先であり、起こりそうもないことのためにも確実に電気を供給できる状況にするのに莫大な費用がかかるのであれば、まずやらないでしょう。そんなことしていたら経営陣は株主に突き上げられて首になります。
だからこそ、まず起こり得ないような、これまで起こらなかったような自然災害が起きたらインフラの脆弱性があらわになってしまいます。テキサス州の火力発電所でも、東京電力の福島第一原発でも、程度や原因はともかく大まかに言えば同じ話です。
日本でもこの冬、急激に寒くなったときに電力自由化で電気の契約を乗り換えていた人が、一部の契約条件の発動によって電気料金が跳ね上がったことがありました。これも電力自由化されていなければ起こり得なかったでしょう。
だからと言って、電力自由化を100%ダメと言うつもりもありません。特定企業の独占は消費者にとって良いことではありませんし、完全国有化すれば国有企業が腐敗するのは目に見えています。
あくまでケースバイケースで、程度の問題と言ってしまえばそれまでですが、日本では電気・ガス・水道のライフラインで民営化されていないのは水道だけです。支払を滞納したときに止められるまでの期間も水道が一番長いそうです。まあ、電力会社もガス会社も政府や自治体との関わり合いが表でも裏でも強いでしょうし、法律で決められている業務もありますから、純然たる民間企業というのは難しいです。
1980年代半ばに、国鉄・電電公社・専売公社がそれぞれJR・NTT・JTと民営化されました。それらの企業の全てにおいて腐敗していたとは思いませんが、国民の税金で維持されたり、強固な参入障壁で守られているというのは適切とは言えません。
NTTもJRも分割されましたが、国際競争する必要の無いJRはともかく、世界市場とも関わりがある通信産業のNTTは、docomoやコミュニケーションズと再合体して戦いたいでしょうね。地力のあるNTTは焦土戦術のような値下げでKDDI・SoftBankにダメージを与えられますし。
だからこその胡散臭い接待問題が持ち上がっているのですが、NTT・総務省の癒着について追求が難しいのは、国民の負担が増えるわけではないということでしょうか。通信料金が値下げされて困るのは通信業界のNTT以外の企業とその従業員であって、大半の国民は恩恵を受ける立場になってしまいます。不正であっても腐敗とも言い切れません。もちろん、マスメディアのほとんどはNTTからの莫大な広告費をもらっているということもありますが。
また同じく総務省の接待問題では菅総理の息子がいる東北新社の問題もあります。こっちの方がマスメディアの追求が難しいのは分かりやすいです。
本来、今の首相の息子が所属する放送会社が、CS放送の認可や外資規制の逸脱について総務省に便宜を図ってもらうというのは、スキャンダルとして非常に分かりやすい構図です。ただ、放送法の根幹に関わりかねないスキャンダルを突き上げすぎると、そもそも10数年前の時点では新聞・テレビ局などの株式持ち合い状態自体が違法状態だったのに放送法の改正で合法にしてもらった経緯を放り投げることになりかねません。
それに関わっていた総務省・政治家と放送業界の全面戦争にでもなったら、多分とんでもない過去が出てくるでしょうし、第一どこの大手マスコミだって政治家・有力官僚の子弟が勤めています。
とりあえず、今日の東北新社子会社の認可取り消しによって政権は鎮静化を図ります。そしてそこでマスメディア特にテレビ局がどこまで突っ込んでいけるかがジャーナリズムの試金石になると思います。
ただし、首相個人のスキャンダルは内閣支持率には影響しないということは、安倍政権の頃から同じです。先日、内閣支持率もむしろ上がったというニュースもありましたし、国民の生活への問題がない限り影響はありません。
総務省・東北新社・NTTの諸問題は、安倍政権下のモリカケ問題ほどの盛り上がりもないまま鎮火するでしょう。数ヶ月もすれば開催するにせよ中止するにせよ五輪が一番のトピックになっているでしょうし、同じ文脈の中でコロナウイルスのワクチン接種の問題で話題が持ちきりでしょうね。