鹿島監督解任とサウジ監督の去就に思う、「原点への立ち返り」というメリットとデメリット
Jリーグでは先日、川崎フロンターレで8年間に7つものタイトルをもたらした鬼木監督が今シーズン限りでの退任を発表しました。今年はともかく、それまでのほとんど全てのシーズンでタイトルを取ったという、歴史に残る事跡を残してクラブを去るわけですから、送る方も送られる方も寂しさはあれど、お互いに胸を張って過去を振り返ることが出来るはずです。
一方で、Jリーグで圧倒的かつ最多のタイトル数を誇る鹿島アントラーズが、今年もまた途中での監督解任となりました。今年から指揮をとるポポヴィッチを今シーズン残り数試合のタイミングで解任するのは、他サポ的にはいまいちよく分からないのですが、フットボールダイレクターも一緒にクビになったことで、鹿島のクラブ内でのなんやかんやがあったのだろうなと邪推してしまいます。
7年無冠というのは鹿島アントラーズというクラブの歴史と伝統からいってあり得ない、という理屈は分からなくはないですが、ここ数年の監督交代の繰り返しを見ていると、宜なるかなとも思います。
鹿島出身者の監督やジーコ関係の監督で行き詰まると、元々鹿島に関わりのない人を連れてくる。そしてその人が行き詰まると、また鹿島関係者を監督にする、という繰り返しです。ある意味、分かりやすいと言えば分かりやすいですし、100%迷走するよりはマシなのでしょう。事実、無冠とは言え監督をとっかえひっかえしてもJ2降格するわけでもなく、一応は上位キープ出来ているのですから。
サッカーに限らず、行き詰まった時にはよく「原点に帰れ」という言葉が使われます。本来の自分の立ち位置や根幹に立ち戻り、余計な欲や色気を除いて本質重視、質実剛健、単純明快さを求める格好ですが、鹿島アントラーズでいう「原点回帰」は、間違いなく「ジーコイズム」に集約し、それがここ数年は鹿島出身者の監督就任という形で表れています。
今年で言うと、ポポヴィッチ監督を解任した後に監督になったのはOBの中後雅喜氏。そして代表でも活躍したレジェンド、中田浩二氏が強化責任者に就任という、明確な「元鹿島」体制です。
冒頭に触れた鬼木達氏も鹿島出身者ですので、来季の鹿島監督に、という噂も流れていますが、そもそもそのためには今の中後監督との契約が12月までである必要があるのですが、どうなんでしょうね。鬼木氏が川崎を辞める情報をいち早く得た鹿島がさっさと現監督の首を切って、因果を含めて今の体制を・・・というのは、さすがに穿ち過ぎでしょうね。
話は変わってW杯アジア最終予選では、日本と同組のオーストラリアが早くも2戦終えて監督交代。こちらも別の「ポポヴィッチ」監督ですが、就任後は中国にホームで勝利、日本とアウェイで引き分けですからチーム再建に成功していると言えます。
逆に評価が低くなったのがサウジアラビアのマンチーニ監督です。日本にホームで完敗したのに加えて、バーレーンに引き分け勝ち点を取りこぼしたことで、最終予選初戦から浴びていた非難がさらに強くなりました。11月にも2試合あることを考えると、監督交代するなら今月中に決めるはずです。
サウジアラビア代表も、進化を求めて外国人監督を選び、行き詰まったり教会幹部(あるいはもっとその上の偉い人)と揉めるとクビにして、お馴染みの同国人の監督が就任してとりあえずチームをまとめてそれなりの成績を残す、ということを繰り返しているように感じます。
一番印象的だったのが、2000年レバノン開催のアジアカップです。GL初戦で日本代表と対戦したサウジアラビア代表は、為す術無く4点を日本に取られ、終了間際に日本守備陣の連係ミスでのオウンゴールで1点返しただけという歴史に残る大敗北を喫しました。
その後に大会期間中ながら監督を解任し、同国人監督にしてチームを立て直して勝ち上がり、再び決勝で日本と対戦するところまで行きました。
いざという時に原点回帰して立て直し、半自動的と言えるくらいすぐにまとまってそれなりの結果を残せるのは、本当に凄いことですし、それだけ伝統と実績が積み重ねられているからこそ、出来うることです。
ただ、サウジアラビア代表も昨今は華々しい成果を出せていません。1994年のW杯は世界を驚かせるベスト16入りでしたが、2010年・2014年は予選敗退でしたし、それ以外もGL敗退です。アジアカップでの優勝は1996年が最後ですし、ガルフカップでも2003年が最後の優勝です。
鹿島アントラーズとサウジアラビア代表の栄光と低迷が全く同じ理由ではないでしょうけれど、かつて大きな栄光を得たがその後は監督交代を繰り返し、最悪の状態には陥っていないが栄光を取り戻すところまでには至っていない、という結果面では似ています。
どちらも、「原点回帰」が得意なチームであり、監督交代を繰り返しても「弱く」はならないという特徴をもっています。しかし、だからこそ、吹っ切れるほどは強くなるのが難しいのかなあと漠然と思っていたりします。