金融事業への進出とFacebookのLibraへの素人的懸念
Facebookが仮想通貨Libraを発表しました。また、少し前ですがAppleがApple Payの物理クレジットカードを発行するという発表もありました。
アップルは直接的に金融事業に乗り出したわけではありませんが、製造業などの他業種が金融事業に乗り出すケースというのはたまにあります。よくあるのがBtoCの企業で、例えばアメリカでいえばGEファイナンス、日本ならトヨタのトヨタファイナンス、日立ファイナンスなどですかね。これらはメイン商品の家電製品や自動車が高額なために手が出ないと考える消費者に、割賦販売を提供するのが金融事業の始まりでした。それが金融事業自体が拡大して現代化していくと、普通に消費者ローンやクレジットカード発行などを行うようになります。 もちろん、メーカー自体が割賦販売を行わなくても、信販会社などが提供することもできるのですが、メーカーが購入資金を用立ててしまえば消費者は他社製品に目移りする可能性がないですし、そのために利率も下げてでも全社で利益を出せればいい、という判断も可能だったのだと思います。
それらはアメリカでも日本でも購買人口と景気が拡大し続けていた20世紀後半の話ですが、21世紀になると新たな段階に入ります。ソニー銀行のように必ずしもメーカーとして製品を売るのが目的ではない金融事業も始まります。ソニーはそれ以外にもソニー生命やソニー損保も抱えていて、総合的な金融サービスも提供できる企業体制になっています。モノを作って売る時代から、モノとサービスを総合的に提供する(必ずしも「販売」ではない)時代になったことの表れでもあります。
そしてFacebookが仮想通貨に乗り出し、銀行口座やクレジットカードを所有できない人々に優れた金融サービスを提供するとしています。
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1191258.html
しかし、これはLibraだけではなく仮想通貨の利便性を語るときに必ず出てくる、送金手数料の軽減という利点ですが、そもそもそんなに送金することってあるんでしょうか?
国内の利用者同士での場合は、同じ会社の金融サービスを使っているのであれば低額の手数料でやり取りできるでしょう。特に日本在住だと個人間送金で手数料を気にするケースというのはあまりありませんが、それこそ移民・難民のように国外に出てしまった人が移住先から移住元の家族に送金するときには少しでも送金手数料を減らさないと仕送りが目減りしてしまいます。お互いにPayPalを利用できるとも限りませんし、大抵の場合は、移民にとっての故国は移住先と比べると経済的に困窮していて金融サービスも整備されていないでしょう。
そういう点ではFacebookの野望は見込みがあるともいえますが、逆にいうとそれ以外にどれくらい利点があるんでしょうね?
各種政府通貨との交換も可能としていて、レートも急激には上下しないようにするとのことですが、そうなると政府通貨との交換手数料を低廉にしていれば、例えば日本円からアメリカドルに両替したいときに、Libraを経由してしまった方が安くなるようなケースが出てくるのでしょうか?
そうなると従来の為替取引の客を奪ってしまうのではないでしょうか。
流石にそこまで安い手数料になるかどうか知りませんが、単にFacebook利用者にとって使いやすい仮想通貨ですよ、と言われても使う人はあまり出てこないでしょう。
通貨バスケット制みたいな形にして、レートが急激に上下しないのであれば、利ざやを稼ぐためのアービトラージが増えてLibraに通貨攻撃する投資家が出てくるんじゃないですかね。1997年のアジア通貨危機での攻撃のように国際金融市場での交換レートと、各種通貨とLibraとの交換レートに少しでも差があると攻撃し放題になる気がするのですが、金融のプロが考えているのなら何らかの対策があるんでしょうね。