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通信手段の即時性への進化と既読スルー問題

電子メールが一般に普及する前、個人間の通信手段は手紙か電話でした。

当たり前ですが手紙は郵便で送るので、応答に何日もかかります。受け取るのは基本的に一日一回です。文通なんてものは郵送自体にも日数がかかる上、書く内容もささっと書けるものではないでしょうし、そうなるとさらに時間がかかります。

電話はすぐにかけることが出来ます。しかし相手が電話に出られる状況でないといけません。相手の都合を無視して強引に応答を求める通信手段です。即時応答が必要な通信とも言えます。留守番電話の登場によって電話に出られない相手にも伝えることは出来るようになりましたが、着信そのものは相手にとっては面倒なタイミングがあることには変わりありません。それこそ夜中に電話するのは非常識でした。特に一家に一台のみ電話機がある時代には相手の家の都合を考慮する必要がありました。

そしてパソコンが一般に普及し、インターネット以前のパソコン通信時代も含めて、電子メールが通信手段として出てきました。このメールであれば、連絡をしたい側が連絡したいときに送信して、その連絡を受け取る側は受け取りたいときに受け取ることが出来ます。これによって、日中いつでも連絡を送受信出来るようになりました。正確には送信と受信の間にタイムラグがあるので、即時応答が必ずしも出来るわけではありませんが、時間帯を気にする必要が無くなりました。

ちなみに、かつて、電子メールには48時間ルールというものがありました。メールを受信してから48時間以内には返信すべき、というルールと言うよりはマナーと言うべきものですが、今は意識している人はいないでしょう。しかし、後にも書きますがLINEの既読スルーと比べれば牧歌的とさえ言えますね。

だからといって、重要なメールをもらって一週間も放置していたらさすがにダメですが、読んですぐに返信しないと行けない、というわけでもありません。メールは受信者が読んだかどうか、送信者には分からないようになっています(メールを開いたときに送信者側に通知が行くシステムもありますが普及はしませんでしたね)。

パソコン時代において、電子メールを読むには

・パソコンの電源ボタンを押す。
・OSが起動して安定するまで待つ。
・メールソフトを起動する。
・受信ボタンを押してサーバからメールを読み込むのを待つ。
・メールを一つずつ開封して読む。

というプロセスと時間が必要でした。

しかし、携帯電話・PHSが出てきて、その端末で瞬時にメールをやり取りするようになりました。スマートフォンになってからはパソコンと同等のメール送受信機能を持つようになり、パソコンが事実上不要にもなりました。

便利にはなりましたが、この変化によって、送信側は受信者がすぐに読んでくれるものだという無意識的期待を潜在的に持ってしまうようになりました。こちらがメール(LINEなども含みます)を送った瞬間に、相手も読んですぐに返信をくれるはずだ、と思ってしまうようになったのです。

特にLINEなどでは自分が送ったメッセージを相手が開封して読んだかどうかが分かります。いわゆる既読スルーのように、読んだのに返事しないのはどういうことだとマイナスの感情を持ってしまうやっかいな事態が生まれました。

一方、受信する側も、真夜中にメール通知が来たらうっとうしいです。お休みモードなどで通知を気にしなくていいようにすることは出来ますが、GmailやLINEのバッジの未読数が増えていくのは人によってはプレッシャーでしょう。

結局、メール受信端末のウェアラブル化(まさに「携帯」電話によって実現しました)によって即時応答を求められるようになってしまいました。相手の都合を考えない電話と変わらない煩わしさが復活したわけです。

さて、この通知の煩わしさから人間が解放される日はくるのでしょうか。

AIの進化によって、送信側がどれだけ切迫しているのか内容によって切り分け、また受信側が返事可能な状況かを判断して通知度合い(すぐに気付くような大げさなものから、あえてアプリを開かないと分からないものまで)を変えて知らせてくれる仕組みなんかが出来るのか。

それよりは、送信する側は相手のことを思い遣り、受信する側も相手が急いでいるならすぐに返事してあげる、といった人間側が変わる方が簡単な気もしますが、人間は常に怠惰に流れますし、技術は常に進歩していくものですから、今からでは思いも寄らないようなシステムが出来上がって、それに全乗っかりするしかないような気もします。

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