![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/95700069/rectangle_large_type_2_64f200e1fd9e6b9d9cf7db44aca7b413.png?width=1200)
【CQ】ゾシン(ピペラシリン/タゾバクタム)による低K血症
ピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)の添付文章の副作用にさらっと書いている低K血症。使用経験的にはこの抗菌薬だけやけにK下がることが多いなと感じていましたが、どの程度の頻度なのか、どのような機序なのかということを調べてみました。2つのRetrospective cohort studyからです。
参考文献:Antibiotics Retrospective cohort 2022(PMID: 36010007)、薬学雑誌 2019(PMID: 31787649)より
【ポイント】
・PIPC/TAZの投与により、最大24.8%で低K血症が発症する可能性がある
・リスク因子としては、高齢者、女性、低BMI、投与前のK値が低いなどが推察されている
・低K血症は、投与から4日程度で発症する
・病態としては、ピペラシリンが非再吸収性アニオンとして集合管に排泄され、電気勾配の関係でKが引っ張られて尿中に排泄される機序が考えられている
添付文章の記載
2020年10月6日に医薬品医療機器総合機構から「重大な副作用」の項に「低K血症」が追記されました。
![](https://assets.st-note.com/img/1673766960019-tUMWs1a6At.png?width=1200)
Antibiotics 2022 (Retrospective cohort PMID: 36010007)
2015/1/1 - 2017/12/31に韓国(ソウル)の3次教育病院(Kangbuk Samsung Medical Center)に入院した患者 713人を対象
・PIPC/TAZを3日以上投与された18歳以上の患者
・ベースラインからK異常を来している患者やK補充、K吸着療法を行った患者は除外
・低K血症をきたす薬剤使用、合併症の患者は除外
![](https://assets.st-note.com/img/1673767143524-PB9zTLPvHg.png?width=1200)
Characteristics
・年齢は中央値67歳(56-77歳)
・PIPC/TAZの投与量は14.3g/日
・主な疾患は肺炎、腹腔内感染、尿路感染症
![](https://assets.st-note.com/img/1673767169860-c0Xd0bo3du.png?width=1200)
Result
713人のうち、99人(13.9%)に低K血症(K < 3.5mEq/Lで定義)を発症
軽度の低K血症(K 3.0 - 3.4 mEq/L)が9.3%、中等度〜重度の低K血症(K ≦ 3.0 mEq/L)が4.6%
多変量ロジスティック解析の結果、以下の要因が独立して関連していた。
高齢(OR 1.03, 95% CI: 1.02-1.05, p < 0.001)
女性(OR 1.88, 95% CI: 1.18-3.00, p = 0.00)p=0.008)
治療期間が長い(OR 1.08、95%CI:1.04-1.13、p<0.001)
1日投与量が多い(OR 1.10、95%CI:1.01-1.20、p=0.049)
一方で、ベースラインの血清カリウム値が高いことは低K血症発症率が低いことと関連していた。(OR 0.13、95%CI:0.07-0.26、p<0.001)
![](https://assets.st-note.com/img/1673767212027-oGF0QvrdQd.png?width=1200)
低K血症は、ほとんどがPIPC/TAZ開始から早期に発症していた(発症の中央値 4日)。
![](https://assets.st-note.com/img/1673767261057-tJWQO7R1QX.png?width=1200)
薬学雑誌 2019(PMID: 31787649)
2017/1-12月の間に神鋼病院(兵庫県)に入院した420人を対象
・3日間以上PIPC/TAZを投与された患者
・PIPC/TAZ開始前に低K血症のある患者は除外
・低K血症を起こす可能性ある薬剤を使用している患者やK製剤を併用している患者は除外
![](https://assets.st-note.com/img/1673767327496-FbwNj4pPZX.png?width=1200)
Characteristics
・高齢者(≧60歳)が90%以上
・主な疾患は、肺炎(誤嚥性肺炎含む)、尿路感染症、腹腔内感染症
・ほとんどの症例がPIPC/TAZ 4.5g q6-8hで使用
![](https://assets.st-note.com/img/1673767344630-Y7VYm8y2v1.png?width=1200)
Result
低K血症(K < 3.6 mEq/L)の発症率24.8%
軽症(K 3.0 - 3.6 mEq/L)18.3% 重症(K < 3.0 mEq/L)6.4%
![](https://assets.st-note.com/img/1673767361916-SxlNqjKC8x.png?width=1200)
PIPC/TAZ開始から低K発症までの中央値4-5日
![](https://assets.st-note.com/img/1673767396573-tw5v7wmGUD.png?width=1200)
単変量解析では、女性、年齢、BMI、CLcr、投与前のK値、1日の投与量が多い、低CLcrでの使用がリスクファクターであった。
多変量解析では、
年齢(OR 1.057,95%CI 1.024 - 1.090,cut off 80.5歳)がリスクファクターであった。
BMI ≧ 19.7 kg/m2、投与前のK ≧ 3.95 mEq/L、empirical therapyではない投与が低カリウム血症の発生が少なかった。
![](https://assets.st-note.com/img/1673767455736-v1LkFyoH0C.png?width=1200)
<2文献のDiscussion、Conclusionまとめ>
・そもそも低K血症の発症率は、年齢に関係なく男性よりも女性で発症しやすい
・体内のカリウム値は筋肉量と関連しており、高齢者、女性は筋肉量が少なく、低K血症のリスクが高い
・ペニシリン系薬剤における低K血症は、高用量療法に関連していることが知られている
・これは、ピペラシリンなどのペニシリンが非再吸収性アニオンとして作用し、皮質集合管に膜貫通電位勾配を発生させてカリウム分泌を増大させ、尿中への排泄を促進させるため
・ただし、PIPCでの低K血症の発症報告はほとんどない
・PIPC/TAZの投与により、低K血症を発症する可能性があり、特にリスクの高い患者(≧80歳の高齢者など)の投与早期にK値の慎重なモニタリングが必要
<コメント>
・観察研究なのでPIPC/TAZと低K血症に因果関係があるかは証明できませんが、使用経験的には確実にあると思ってます。
・機序的には他のペニシリン系抗菌薬でも低K血症を生じてもよさそうです。
・PIPCだけではなく、TAZにもKを下げる機序があるのでしょうか。