DKAを来す糖尿病(劇症1型、KPD)
劇症1型糖尿病と思われるDKA患者が入院したので調べてみました。劇症1型は日本から発信された概念でまだ世界的に常識となっているものではなさそうです。また、後半にDKAを来すKPDについても記載しています。
参考文献:Diabetes Metabolism Res Rev 2011(PMID: 22069293)、Diabetes Care 2006(PMID: 17130187)、BMJ Review 2020(PMID: 32784223)
<劇症1型糖尿病の特徴(NEJM 2000の報告)>
①極めて突然の発症
②糖尿病症状(多尿や口渇など)が極めて短い(<1週間)
③診断時にアシドーシスが見られる
④膵島関連抗体が陰性(膵島細胞抗体、GAD抗体、インスリン抗体、IA-2抗体)
⑤Cペプチド分泌がほとんどない(尿中CPR<10μg/日)
⑥血清膵酵素が高い
⑦急性発症1型糖尿病の20%を占めていた
他に新たに報告された特徴
・発症前のインフルエンザ様症状
・妊娠との関連
・トランスアミナーゼの一過性上昇
・糖尿病性微小血管傷害の急速な進行
以上のことを受けて日本糖尿病学会では以下のような診断基準を提示しています。
日本糖尿病学会 劇症1型糖尿病診断基準 2012より
下記1~3のすべての項目を満たすものを劇症1型糖尿病と診断する。
糖尿病症状発現後1週間前後以内でケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥る(初診時尿ケトン体陽性、血中ケトン体上昇のいずれかを認める。)
初診時の(随時)血糖値が288 mg/dl (16.0 mmol/l) 以上であり、かつHbA1c値 (NGSP)<8.7 %*である。
発症時の尿中Cペプチド<10 µg/day、または、空腹時血清Cペプチド<0.3 ng/ml かつ グルカゴン負荷後(または食後2時間)血清Cペプチド<0.5 ng/ml である。
*:劇症1型糖尿病発症前に耐糖能異常が存在した場合は、必ずしもこの数字は該当しない。
<参考所見>
A) 原則としてGAD抗体などの膵島関連自己抗体は陰性である。
B) ケトーシスと診断されるまで原則として1週間以内であるが、1~2週間 の症例も存在する。
C) 約98%の症例で発症時に何らかの血中膵外分泌酵素(アミラーゼ、リパー ゼ、エラスターゼ1など)が上昇している。
D) 約70%の症例で前駆症状として上気道炎症状(発熱、咽頭痛など)、消化器症状(上腹部痛、悪心・嘔吐など)を認める。
E) 妊娠に関連して発症することがある。
F) HLA DRB1*04:05-DQB1*04:01との関連が明らかにされている。
最近では、1型糖尿病でなくてもDKAを発症することが知られており、KPDという概念が提唱されています。(薬物・中毒、心筋梗塞・膵炎などの極度のストレスに伴うDKAを除く)
<Ketosis-prone diabetes:KPDとは>
・典型的な自己免疫性1型糖尿病の特徴(若年、やせ型、自己抗体陽性など)を欠く糖尿病患者にDKAを来す症候群
・定義が曖昧で文献によってどこまで包含しているか変わりますが、狭義のKPDは臨床的には2型糖尿病なのにDKAを来すものを指します(Ketosis-prone Type 2 Diabetesといわれることもある)
・この狭義のKPDでは自己抗体は陰性であり、インスリン需要は一過性のことが多いとされています
KPDの分類としてAβ分類というものが提唱されています。
DKA発症から12ヶ月後のインスリン依存性を正確に予測できるとされています。
<Aβ分類>
・自己抗体の有無(A)とインスリン分泌機能の有無(β)で2×2で分類
・評価はDKA発症から1~3週間後に行う
○A分類(膵特異的自己抗体の有無)
・GAD抗体、IA-2抗体を評価し陽性であればA+と判断
・ZnT8抗体を追加すると分類の精度が上がる
○β分類(膵β細胞のインスリン分泌能の有無)
・空腹時CPR、グルカゴン刺激に対するCPR反応で行う
(空腹時CPR < 1 ng/mLかつグルカゴン1mg静注後5分・10分のCRP < 1.5 ng/mLであればβ−と判断)
A+βー
➔自己免疫性1型糖尿病(1A型)と同義で、インスリン治療を必要とする
Aーβー
➔特発性1型糖尿病(1B型)と同義で、インスリン治療を必要とする
この中に劇症1型糖尿病も含まれる?
A+β+
➔進行性にβ機能が低下する場合と長期に渡ってβ機能が温存される場合がある(分類の中では最も長期的なインスリン必要性の予測が難しく、50%程度ずつ存在するため慎重なフォローアップが必要)
いわゆるLADA(SPIDDM)のような疾患群
Aーβ+
➔インスリン必要性は一過性のことが多く、インスリンを中止できる可能性が高い(DKA発症から10〜14週間後程度)
狭義のKPDはこれを指す
KPDの分類とされていますが、分類の中に普通の1型糖尿病(A+βー)も存在しており、DKAを来した糖尿病患者の病態分類といった感じでしょうか。病名はともかく病態の把握としてはわかりやすい分類だと思います。
<おまけ:膵特異的自己抗体、Cペプチドはいつ測定すべきか?>
・BMJ Reviewでは、2型糖尿病の典型的なパターンに当てはまり、2回の血液検査で糖尿病に当てはまる場合は1型 or 2型の区別のためにそれ以上の検査は不要としている
・以下のような状況で1型 or 2型の鑑別が困難であり、膵特異的自己抗体、Cペプチドの測定を推奨している
①初期にインスリン治療を受けるが、臨床的に2型糖尿病と思われる40歳未満の患者
②インスリンを必要とする40歳以上の遅発性発症の糖尿病患者で、BMI<25など1型糖尿病の特徴を持つ患者
・NICEのガイドラインでは「臨床的に1型糖尿病が疑われるが、BMI≧25や年齢≧50歳などの非典型的な症状がある場合に糖尿病特異的抗原 and/or Cペプチドの測定を推奨」
要は1型、2型の特徴が混在している時のようです。さすがに典型的な1型を疑うときも測定はしていいと思います。
以下に1型糖尿病、2型糖尿病の特徴のまとめと膵特異的自己抗体のまとめを添付します。
<コメント>
・糖尿病の疾患概念が複雑化しており、単純に1型、2型と分けられなくなってきてます
・初診で病型を正確に分類することは困難であり、その後の経過も合わせて柔軟に判断していくことが大切だと思います