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褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)

レアな疾患ですが、疑って検査を行うことはたまにあると思うのでまとめました。管理についてはこの疾患に特有なことが多々あるので知っていてもよいかもしれません。
褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018、ES guidelines 2014(PMID: 24893135)、NEJM Review 2019(PMID: 31390501)より

【Take Home Message】
・高血圧、動悸、頻脈、胸痛、頭痛、顔面蒼白、発汗、不安感、高血糖、体重減少、頑固な便秘など多彩な症状を来す
・一方で無症候性の場合もあり、副腎偶発腫瘍で発見されることもある
・機能診断は、随時尿メタネフリンでスクリーニング、蓄尿メタネフリンで確定診断を行う
・血中遊離メタネフリンが測定できるようになり、外来でも確定診断可能となった
・機能診断後は速やかにα1ブロッカー(ドキサゾシン)を開始する
・手術療法が第一選択
・様々な誘引で高血圧クリーゼを来す可能性があり、患者教育を行うことや使用薬剤に注意することも重要

<総論>

褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)は副腎髄質または傍神経節のクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生腫瘍で、前者を褐色細胞腫(PCC)、後者をパラガングリオーマ(PGL)と呼ぶ
・2017年WHO分類では、すべてのPPGLは転移の可能性のある悪性腫瘍と定義され、適切な治療と経過観察が求められる
・男女差はなく、推定発症平均年齢は40~45歳であるが幅広い年齢層に分布する
症候性(高血圧あり)は約65%無症候性は約35%で、副腎偶発腫瘍としても発見される

褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018

<臨床症状>

高血圧、動機、頻脈、胸痛、頭痛、顔面蒼白、発汗、不安感など多彩な臨床像を取る
・代謝面では、高血糖、乳酸アシドーシス、体重減少を認めることが多い
頑固な便秘を認めることもある(カテコールアミンによる消化管平滑筋α2、β2受容体刺激)
・高血圧は、発作型、持続型、混合型がある
・時に様々な誘引(食事、運動、腹部圧迫、排尿、麻酔、腫瘍摘出、薬物:β遮断薬、高用量デキサメサゾン、グルカゴン、造影剤、チラミン、メトクロプラミド、三環系抗うつ薬など)により高血圧クリーゼを呈する

・一方で、無症候性、正常血圧性で副腎偶発腫瘍として発見される例もある
・実際に、副腎偶発腫瘍の5~10%は褐色細胞腫(PCC)であり、近年ではPCCの約25%は副腎偶発腫瘍として発見されている
・原因不明の起立性低血圧を示す場合もある
・アドレナリン産生腫瘍では、低血圧やショックを示すこともある

・合併症として、心筋梗塞、不整脈、大動脈解離、腫瘍内壊死、腫瘍破裂などによりショックを来す症例もある
・その他、たこつぼ型心筋症、高血圧性脳症、脳血管疾患による突然死、心不全など

<スクリーニング対象>

以下は臨床的に「PPGLハイリスク群」と位置づけられ、積極的なスクリーニング対象となる
・動悸、発汗、頭痛、胸痛などの多様な症状(spellsと表現される)
・発作性高血圧
・治療抵抗性高血圧
・糖尿病合併の高血圧
・副腎偶発腫瘍
・PPGLの既往歴、家族歴
・PCCを伴う遺伝子疾患(MEN2型、VHL病、神経線維腫症Ⅰ型)

<機能診断>

・機能診断を行う場合には、運動、ストレス、体位、各種食品、薬剤の測定値の影響を考慮する必要がある
空腹時で少なくとも20分以上の安静臥床後に前腕の血管で留置針を用いて採血するのが望ましいが、日常診療で困難な場合は可能な限り安静座位とし標準的な静脈穿刺採血を行う
・カテコールアミン含有量の多い食品(バナナ、フルーツジュース、ナッツ類、トマト、ポテト、豆類)、カテコールアミンの遊離を刺激する食品(カフェイン、チラミン含有のバニラアイス、バニラを含む菓子、チーズ、赤ワインなど)の摂取を控える必要があるが、影響は個人差が大きい
・カテコールアミンレベルの影響する薬剤は可能な限り中止して採血を行う

●外来で可能な検査(スクリーニング)

血中カテコールアミン分画(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミンいずれかが正常上限の3倍以上 or アドレナリン+ノルアドレナリンの和 ≧ 2000 pg/mL
随時尿中メタネフリン分画(メタネフリン、ノルメタネフリンのいずれかが正常上限の3倍以上 or ≧ 0.5 mg/gCr

※血中遊離メタネフリン分画
・米国ガイドラインでは第一選択の診断検査となっており、日本では施行ができなかったが施行可能となった
・以下の通り診断能が高く、スクリーニングとしてはもちろん診断的検査としても有用
・日本で設定されている基準値は高めに設定されているようなので異常であれば特異的
・血中メタネフリン ≧92.0 pg/mL(感度 54.2%、特異度 >95%) ≧38.0 pg/mL(感度 70.8%、特異度 79.4%)
・血中ノルメタネフリン ≧125.5 pg/mL(感度 91.7%、特異度 95.6%)≧86.0 pg/mL(感度 >95%、特異度 77.9%)
Eur J Endocrinol. 2006 Mar ;154(3):409-17

●入院で行う検査(診断的検査)

24時間蓄尿カテコールアミン(正常上限の2倍以上)
24時間蓄尿総メタネフリン分画(正常上限の3倍以上)
※蓄尿は酸性蓄尿で行う
※蓄尿期間中は、バニラ、バナナ、コーヒー、チョコレート、柑橘類の摂取を禁止する

・アドレナリン、ノルアドレナリンは生理的な変動が大きいため、代謝産物である尿中メタネフリン分画や血中遊離メタネフリン分画の方が診断制度が高い

<画像検査>

・臨床的にPPGLが疑われる場合は、治療方針決定のために腫瘍の局在、広がり、転移の有無に関する画像検査を行う

○CTについて
・褐色細胞腫はCT値≧20HUであることが多い
・副腎皮質腺腫は一般的に細胞内に脂肪成分を含有するため、CT値≦10の場合は腺腫が第一に考えられる
・褐色細胞腫は血管が豊富であり、dynamic CTの早期相で濃染、後期相でwash outが見られる
・この所見は副腎癌や転移性副腎癌でも見られるので注意が必要
・外科治療前には腫瘍と血管との関係の評価が必要なため、造影が望ましい
・ヨード造影剤は本症に対して原則禁忌となっているため、造影CTの施行時には、文章による同意、発作の症状を認めた際の準備(血圧、心電図モニター、フェントラミン)が推奨される
・現在使用されている非イオン性造影剤では、昇圧発作の頻度はそれほど高くないとされている

○その他の画像検査

褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018
NEJM Review 2019

<内科的治療>

○機能性PPGLの周術期および非手術例の血圧管理と心血管合併症の予防を目的として、過剰カテコールアミン作用の十分な阻害が必要

・原則として手術療法が第一選択ではあるが、その周術期管理のためPPGLと診断したら、直ちに過剰カテコールアミンの作用を阻害する薬物療法を開始する

選択的α1ブロッカーを第一選択とする
・術前治療法に関するRCTはないが、αブロッカーを含む十分な術前治療の導入後、周術期死亡率は3%未満に低下していることから、αブロッカーの投与が推奨される
・選択的α1ブロッカーの薬剤間の有効性、安全性の差異に関するエビデンスはないが、作用時間の長いドキサゾシン(カルデナリン)が汎用されている
・ドキサゾシン 1-2mg/日(分1-2)から開始し、血圧が目標値まで低下(140/90mmHg未満)するように2-3日毎に32mg/日まで適宜漸増する
・初回投与時、起立性低血圧を来すことがあるので、就寝前から投与を開始する

○降圧不十分であればCaブロッカーを併用する
・αブロッカーで降圧が不十分、αブロッカーの顕著な副作用出現時、冠攣縮性狭心症の合併時はCaブロッカーを投与する

○頻脈・頻脈性不整脈、心筋障害、虚血性心疾患合併例ではβブロッカーを併用する
・αブロッカーを十分に投与後(αブロッカー開始数日以降)にβブロッカーを追加する
・α1ブロッカーに先行するβブロッカーの投与は禁忌

褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018

○治療目標
・可能な限り血圧は正常化する
・術前は24時間を通して160/90mmHg未満
・起立時の血圧が80/45mmHgを下回らないように調整
・心拍数は座位で60~70回/分、起立時は70-80回/分に調整
・術前の薬物治療は通常7-14日間施行する

○循環減少量の補正
・循環血漿量減少に伴う起立性低血圧および術後過度の降圧の予防を目的として、術前に高食塩食あるいは生食の点滴を行う
・αブロッカー開始後3日目以降は、正食塩食(9g/日)とし、降圧の程度、起立性低血圧の有無により、適宜食塩摂取量を増加する
・減少した循環血漿量を増加させるためには7-14日間を要する
・また、手術前日夕〜手術まで1-2Lの生食点滴を行う

○メチロシン(デムサー)
・手術が困難な場合、ドキサゾシンによる治療では血圧や便秘の管理が困難な場合はチロシン水酸化酵素阻害薬であるメチロシンを使用する
・少量 250-500mg/日から開始し血圧降下作用が得られるまでに慎重に増量する
・看過できないような眠気や精神症状が出現することがあるが、減量や中止で消失する

<外科的治療>

手術療法による腫瘍切除術が第一選択
・PPGLは放射線治療や抗腫瘍薬に抵抗性を示すことや無症候性であっても高血圧クリーゼを来す可能性があることから手術療法が第一選択となる
・悪性PPGLであっても、原発巣の切除により生存期間の延長が期待できる

・α1ブロッカーなどによる十分な術前処置と経験豊富な麻酔科医による厳重な術中管理が不可欠
・常に悪性の可能性を念頭におき、腫瘍皮膜を損傷しないように細心の注意が必要
・比較的小さな褐色細胞腫に対しては腹腔鏡下副腎摘除術が標準治療
・悪性度が高いと考えられる症例では開腹手術を選択する
・治癒切除ができない場合でも原発巣手術が推奨される

<高血圧クリーゼ>

○PPGLの経過中に様々な要因で高血圧クリーゼが発症する
・PPGLの経過中に種々の誘引により、カテコールアミンによるクリーゼが引き起こされた状態を高血圧クリーゼという
・日常生活におけるクリーゼ誘発因子については患者教育を十分行う
・診断・治療がクリーゼを誘発する可能性がある場合は、患者への説明と同意、そのカルテ記載、緊急時に対応可能な準備を行う
・高血圧グリーゼのリスクがあるので基本的には生検は施行しない

○著明な高血圧、心血管合併症を来し予後不良であるため、早期に診断し、特異的な治療を開始する必要がある
・カテコールアミン過剰による症状(頭痛、動悸、発汗など)、著明な血圧上昇を呈する
・たこつぼ型心筋症の所見(特徴的な胸痛、心電図、心エコー所見)や急性心不全、肺水腫、ショックなどを呈することもある
・急激な循環血漿量減少による脱水徴候を呈することもある

褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018

○即効性のαブロッカーであるフェントラミンを静注後、点滴静注を継続する
・治療の第一選択はαブロッカーであるフェントラミン(レギチーン)の静注
・フェントラミンは即効性はあるが、作用時間は非常に短いため、持続静注が必要となる
・そのほか、必要に応じてCaブロッカーや硝酸薬を併用する
・初期治療の目標は、拡張期圧≦110mmHgの維持
その後2~6時間の間に160/100mmHg程度に降下させる

・非選択性αブロッカーであるフェントラミンは、交感神経α2受容体も阻害する結果、末梢神経のノルアドレナリン遊離が増加し頻脈を呈する
・頻脈を合併したときはβブロッカーを投与するが、急激なβ遮断による致死的不整脈を発症する可能性があるので、緊急時を除き経口投与とする

○急性期を脱すれば、選択的α1ブロッカーであるドキサゾシンを経口投与する

褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018

<遺伝子解析>

PPGLの30-40%が遺伝性であることが明らかにされ、少なくとも19種類の原因遺伝子が報告されている
・特に、若年発症(35歳未満)、パラガングリオーマ、多発性、両側性、悪性では、家族歴や特徴的な徴候がなくても生殖細胞系列の遺伝子変異の関与が示唆される
・RET、VHL、SDHB、SDHD遺伝子変異は頻度が高く、その検出は臨床的に有用
・特にSDHB遺伝子変異は腹部パラガングリオーマにおける頻度が高く、遠隔転移が多いことから、悪性度評価の指標となる

<予後および経過観察>

PPGLは潜在的に悪性腫瘍であり、一部の症例では初回診断・術後一定期間以内に、遠隔転移、局所再発を来し、進行性の増悪を示すことがあることから、長期の慎重な経過観察が必要
・カテコールアミン過剰、頸部腫瘍による脳神経障害、悪性例における骨転移などが患者QOL低下に大きく影響する
・全例で少なくとも術後10年間、高リスク群では生涯にわたる経過観察が推奨される
・経過観察は主に血圧、生化学検査で行い、異常を認めた場合に画像検査を行う

<コメント>
・無症候性や持続型の高血圧の症例でもあり得るみたいなので、もう少し閾値低く調べてみようかと思いました
・副腎偶発腫瘍では必ずスクリーニングしたいですね

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