目の前が真っ白になった出来事は、その後の人生を決めるものだと思う。

目の前が真っ白になった。そんなことってありますか?僕の場合は一回だけ。就職して3年目の春先、専務から一通のメールが来た。「〇〇君は、残念ながらクビになりました。」と言う文章で始まるメールだったと思う。

今思い出しても表現しようのない驚きで、視界が見えていないわけでもないのに真っ白になったように覆われた。暫く固まった後、周囲を見回した。前の席の先輩は営業に出ていて不在。後ろには、営業事務の女性がパソコンを前に受注処理をしている。心臓がバクバクと高鳴った。その日は、どう対処したのか覚えていない。

その専務とは、つい1週間ほど前に出張に同行してもらっていた。まさか、その方からクビ宣告を受けるとは。専務は、メールの最後に数日後に社長から話があると書いていた。直属の上司や別部門の上司に、恐らく翌日相談させて貰ったと思う。しかし、既に根回しされていたようで暖簾に腕押し、のらりくらりと躱されてしまった。この時に「根回し」という事を覚えたのは、皮肉の限りだと思う。

後で分かった事だが、ちょうどITバブルが去った年で、会社の業績が急激に落ち込んだらしい。リストラやむなしで、入社したばかりの自分に白羽の矢が立ったわけだ。

この時の経験から僕は、会社は契約対象で、その契約はいつ切れても可笑しくないと考えるようになっている。それが結果的には、今のフリーランスと言う仕事の形態に繋がっているのだと思う。何度か、正社員の話も頂いているし、その中には上状況企業からの非常に待遇の良い話だってあった。しかし、こんなご時世にあって贅沢と言われてしまうかもしれないが、ひとつの会社と専属契約を結ぶと言う事には、どうしても入社3年目のこの事件を思い出してしまい気後れしてしまうのだ。

因みに、その時のクビは幸運にも数日後にひっくり返った。クビメールを読んだ後で、「クビ宣告されても簡単に受け取らないこと」と言う何かで読んだ一文を思い出す。それで、社長面接までは専務からのメールへ返信しないことにした。確かに、自分から開けちゃいけない箱を開けるようなものだ。居ても立っても居られない心地ではあったが、しれっと仕事をしているフリをした。

社長面接では「〇〇君がやる気がないと聞いてね」と言う言葉に、仕事を続ける熱意があることを伝えた。そうやって、社長面接は、なんとか乗り切ることが出来た。

今になっても、クビ宣告された何故なぜを思い返す。これを書く動機にもなっていると思う。成績や評価は当然、リストラの理由になっただろう。それから、業務態度や人間性もあったかと今では思う。ただ、それは僕がだけが原因でもなかったとも考えている。正直なところ、部署内の折り合いが非常に悪かった。

けれども、その会社がダメだと言うことにはならない。なぜなら、そのすぐ後で僕は中国へ出向となり、中国側でも色々あったけれど、同じ会社で8年間も仕事させて頂いたのだから。その時の経験は別の機会に書きたいと思う。

最後に、僕が出向した後で、入れ替わりに出向先から戻ったばかりの年配の方が会社を去ったことを知った。当たり前の事だが、会社とは冷徹なのだ。



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