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【海外HR事情】AIが変革する人材マネジメントの未来
前回の記事では、人事部がどのようなAI技術をどの程度活用しているのか、実態を紹介した。今回の記事では、AI活用の最新動向、活用事例をJosh Bersin氏の記事から抜粋して紹介する。Bersin氏は次の6分野で、AI活用が高まりを見せていると分析している。
1.採用、異動、昇進、報酬制度にタレントインテリジェンスを活用する
AI技術を活用して、社員の特性やスキルを把握、タレントインテリジェンスとして蓄積しておくことで、採用や異動時の候補者の特定、昇進の判断、賃金の不平等の特定と解消などにあたることができる。例えば採用では、スキル、テクノロジー、その他多くの要素に基づいて求人案内を自動作成し、最も適切な候補者あてのメール作成を自動的に行うことで、リクルーターの情報収集と文書作成の時間を節約することができるツールが登場している。
この分野の既存のツールには、Eightfold、Gloat、Beamery、Seekout、Phenom、Skyhiveなどがある。
2. 管理業務やオンボーディングなどの従業員エクスペリエンスを改善する
2つ目の成長分野は、文書、サポート資料、各種の社内手続きを社員が簡単に利用できる、インテリジェントな社員向けチャットボットである。これらは実態的にはエンタープライズアプリケーションであり、企業が独自のコンテンツを用意し、データセキュリティ戦略(すべての従業員にすべての文書やプロセスを公開したくはないだろう)を策定し、その上で「オーケストレーション」ツールを使ってチャットボットをエンタープライズシステムに接続する。
さまざまなHRシステムの知見や業務プロセス文書が組み合わさることで、こうしたチャットボットが最終的に多くの従業員ポータルを置き換えることになろう。これまでの経験では、この分野での取り組みはまずは狭い利用範囲から始め、徐々に広げていくべきだということが分かっている。例えば大手ホテルチェーンでは、フロントスタッフが富裕層の顧客にきちんと応対するためのチャットボットを構築した。予約システムと接続し、個々の顧客に合わせてサービスをカスタマイズすることができる。オンボーディングツールとしても活用可能性が高いことは明白で、Firstupといった従業員エクスペリエンス分野のベンダーが今後アプリを開発するはずだ。
3. 人材開発、研修に先進アプリを活用する
人材開発、研修分野では、文書から研修を生成したり、自動的に小テストを作成したり、既存のコンテンツをコーチングコンテンツに変換するツールがすでに誕生している。リーダーシップ開発のプログラムをCopilotに組み込み、対話型インターフェースで管理職が「オンデマンド」で利用できるようにしている企業もある。AIプラットフォームが導入されていれば、それほど難度の高いプロジェクトではない。
Cornerstone、Docebo、Degreedといったツールでは、さらに一歩先を行っている。役職・チーム・所在地・業務内容に基づいて、マイクロラーニングのコンテンツを生成・推奨したり、「ゲーム」化して社員に学習を促すことができるようになっている。
4. 社員のキャリア開発をAIで支援する
社員のキャリア開発を支援するためのツールやプラットフォームも新登場している。タレントインテリジェンスの蓄積により、今や「キャリアパス」をAIによって生成できるようになった。システムが社員のスキルや経験を分析し、数百万人分のデータや経験に基づいて、成長の選択肢をグラフィカルに表示する。
これらの新しいツールではさらに、そのキャリアパスを歩んでいくためにはあなたが何を学ぶ必要があるか、どの資格を取得しなければならないか、さらにはこのキャリアパスについて誰に相談できるかまでを教えてくれる。
これからは、社員個々の経歴職歴をEightfold Career Navigatorなどのシステムにインプットすれば、これまで検討したことのないような多くの選択肢が見えてくるはずだ。Gloat、Fuel50、Eightfold、Beamery、Workdayといった製品が、こうした機能を標準で備えている。
このようなキャリアナビゲーションシステムは、多くの人々の人生を変えるインパクトを持ちうる。
5. パフォーマンスマネジメントにデータを活用する
これまでは、業績の悪い社員がいたり、プロジェクトが上手くいかない場合、マネージャーがどうするべきかを検討し、判断しなければならなかった。しかしこうしたことの一部をAIに肩代わりさせることができる。これまではデータ不足でできなかったことが、できるようになるのだ。
例えば、大きなプロジェクトがどうもうまく進行していないとする。解決策をAIに聞いてみれば、チームのスキル構成に、特定の重要なスキルが足りないことが分かるかもしれない。あるいは、メンバーの社歴が短すぎるのかもしれない(それは実際によくあることだ)。多様性がなさすぎること、もしくはありすぎることがチームの足かせになっているかもしれない。
こうしたことは広い意味で組織設計や業績改善の問題であり、社内の至る所でみられるものである。いったんすべてのデータをAIシステムに入力しておけば、何が問題なのかはチャットに質問するだけで済むことになる。
6. リテンション、ウェルビーング、エンゲージメントの真の原因を見出す
今や多くの企業が、社員のバーンアウト問題、ウェルビーング、エンゲージメントの課題に取り組んでいる。これまでわれわれは、課題や解決策を見つけるために、さまざまな調査やベンチマークに頼ってきた。しかし、これらのデータを大規模なAIプラットフォームに入力したらどうなるだろうか。
「営業部門の離職に最も寄与している要因は何か?」と尋ねれば答えがわかるのである。答えはもしかすると馬の合わないマネージャーかもしれないし、報酬かもしれないし、それ以外の思わぬ要因であるかももしれない。
Bank of Americaでは、例えば支店社員の在籍年数とその社員の銀行残高との間に非常に高い相関があることを「発見」した。在籍年数に影響を与える他の要因には、どのように採用されたか、どのようにオンボーディングされたか、どのようにキャリア開発の支援を受けたか、などもあることが分かった。こうした分析を通じて、同社では社員のパフォーマンスとリテンションを劇的に改善することができたのである。従業員エンゲージメント調査だけでは、こうしたことに気づくことはできなかっただろう。
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Bersin氏は、「HRにおけるAI実装は、過大評価されていると同時に、過小評価されていると考えている。まず小さな取り組みから始め、手を汚し、ITチームを巻き込めば、驚くべきメリットを享受できるはずである」と結んでいる。
(出所)
The Role Of Generative AI In HR Is Now Becoming Clear, Josh Bersin, Sep 1, 2023 (Currently inaccessible)
How to Evaluate Use Cases for Generative AI in HR, Gartner (PDF)