見出し画像

TescoのDS業態 Jack's 訪問記

2018年11月13日火曜AMに訪問

Jack'sは、Tescoが新たに作ったディスカウント業態だが、とても気合が入った店だった。
訪問時イギリス全土で4店舗しかなかったが、専用PBを開発し、販売している。この気合の入り方からすると、今後しばらくは出店を続けると思われる。(2019年1月現在、8店舗)


ここ5年以上イギリスでは、他のヨーロッパ諸国と同様にドイツ生まれのハードディスカウンター業態(AldiとLidl)が急成長しており、Tescoの主力業態であるハイパーマーケット業態やスーパーマーケット業態から市場シェアを奪っている。
Aldiは1990年、Lidlは1994年にイギリス市場に参入したが、当初の客層は低所得者層がメインで既存業態にはさほど影響はなかった。しかしその後、出店場所を居抜きからロードサイトに、店舗デザインや什器を通常業態と見劣りしないレベルまでアップグレード、インストアベーカリーの追加など、次々と施策を導入した。その結果、一般消費者層まで取り込むことに成功し、市場シェアを広げていった。現在AldiとLidl両社を合わせたグローサリー市場でのシェアは13%程度で、それぞれ昨年同期比で10%前後の成長を続けている。

これに対してTescoなどの既存業態は、価格販促の強化、低価格PB商品ラインの拡充などの対抗策を打ってきたが、ハードディスカウンターの成長は止まらなかった。
そこでTescoが打った次の手がDS業態Jack'sの開発であった。

実はTescoがDS業態をだすのは2回めで、最初は1980年代に「Victor Value」を出したが、4年で撤退をした。「Victor Value」という名前は元々はTescoが1968年に買収したロンドンの価格訴求型のスーパーマーケットで、買収後に店名をTescoに転換したため消えてしまったが、1980年代初めにTescoがDS業態として再利用した。

このJack's、正直言ってさほど期待していなかった。
Tescoは2005年に、ホームファニシングを中心としたTesco Homeplusという非食品に特化した業態を出したことがあった。(韓国TescoがHomeplusというバナー名を使っていたが、それとは別)この当時のTescoは、ハイパーマーケット業態「Extra」をもっと出店したかったが、大型店出店規制で新店を出すのは難しかった。既に食品の市場シェアは30%近くなっており、企業としての成長機会はまだ市場シェアが低い非食品分野にあるのだが、非食品売場を強化した「Extra」業態の出店が難しいのであれば、大型でない非食品の専門店を出そう、という理由でHomeplusを開発した。

Homeplusの店をMunchester近くまで見に行ったことがあったが、これには失望をした。既存の「Extra」業態の店の食品売場をカットしただけの品揃えと店作りで、店内に居ると「Extra」にいるのか「Homeplus」にいるのか判らなくなった。
「Homeplus」業態は最終的には12店舗まで出店したが、2015年にすべて閉店をした。

今度のJack’sも、実際に店舗を見るまでは、「Homeplus」と同じような店だろうと予想していた。既存の店から低価格帯のPB商品ラインだけ抜き出して作った店だろうと。

しかしこのJack's、創業者Jack Cohenのファースネームから取っただけあって、気合が入っていた。
具体的には以下の3つ点からその気合を感じた。

1.品揃えはJack's専用のPB商品がメイン
取扱商品カテゴリーの幅は、生鮮食品、加工食品、飲料、酒、菓子、冷凍商品、H&BC、日用雑貨などで、通常のスーパーマーケットやハードディスカウンターと同様である。
ほとんどはJack’s専用のPB商品で、酒、スキンケア、ヘアケア、オーラルケア、雑貨、カー用品、ギフト商品カテゴリーのみ、NB品が多かった。
それ以外の商品カテゴリーでは、目視ではSKU数で95%以上がJack’sのPB商品である印象であった。

【野菜もすべてJack’sのPB商品】
それぞれの商品カテゴリーの中での品揃えは、通常のTescoの店よりも絞られているが、AldiやLidlと比べると味やフレーバー違いの商品の取扱などで1.5倍程度SKU数が多い印象であったので、2,000SKU弱かと思われる。

2.品揃えに合わせて店舗サイズを半分に縮小
見に行ったChatteris店舗は、Tescoの「Superstore」業態のエコ型店舗をJack’sに転換をしている。
「Superstore」業態は、売場面積は通常5,000㎡強あるが、このJack’sの店舗はその半分のみ使用し、残りの半分はPoundstretcherに貸し出している。
(Poundstretcherは、多少食品も扱って入るが、メインは非食品で単一プライスではないが日本で言えば100均のような店)
単純に考えれば、売場面積が通常のTesco「Superstore」の50%ならば品揃えもの50%だが、対面販売売場も廃止しているため35〜40%程度の品揃え数と考えるのが妥当だろう。
店内は長方形のスペースで、縦に5本通路がある。

【Jack’s Chatteris店 レイアウト図】

入り口近くに小さなベーカリーオーブンがあり、焼き立てパンが陳列をされている。

【入り口付近のインストアベーカリー】
可笑しかったのは、真ん中の通路にAldiと同様に平台で非食品を販売していたこと。元々はAldiが始めたもので、EDLPでいつ行っても変化がない店への来店動機を高めるために、スポットで仕入れた様々な商品(下着、ガーデニング用品、家電、靴など雑多)を平台に陳列した。
Jack'sは同じような売場を作っており、インテリア小物からHunter社製の長靴まで様々な商品が放り込まれていた。しかし客層の違いかオペレーションの違いか判らないが、Aldiと比べて平台の中の商品がきちんと並べてあったことが印象的であった。

【Aldiを模した?、雑多な販促商品の平台】

蛇足だが、Chatterisの町はロンドンの北東にあるCambridgeの更に北側に位置する人口1万人の街である。Chatterisの10km弱西にRamseyというさらに小さな町がある。ここにTescoが2010年に世界初(自称)のゼロ・カーボンストアを出店をした場所である。このゼロ・カーボンストアは、Tescoが現在改装、または新規出店する場合の標準型の基になっている。
Tesco本社のあるWelwyn Garden Cityから近いわけではないので、偶然かもしれないが、Ramseyのエコ型店舗も何度か視察に行ったため、印象に残った。

【出入り口付近にあるTescoの創業者Jack Cohen氏のパネル】

3.ドイツ生まれの競合に対抗してイギリス産商品がメイン

【イギリス産商品がメインなことと、Tescoグループの一員であることを明記した外観】

店の外側に「8 out of 10 products are British」と書いてある通り、イギリス産の商品であることを強調している。
これは多くの商品がイギリス国外から持ってきているAldiとLidlに対抗したもので、80%の商品がイギリス産であるので、イギリス経済への貢献と安心(イギリス国民の感情として)であることを訴えている。

実際に商品を見てみるとJack'sのPB商品はJack'sまたはサプライヤー名によるイギリス産のものであった。


【ショートブレッドの生産者はJack’sで、本社所在地はTescoと同じ】

【清涼飲料は、Tescoの大手サプライヤーPrinces社(イギリス)のもの】

4)価格は20〜30%程度安く、味はそれなり

殆どがPB商品、しかも全てのPB商品はJack's専用のため、完全な比較はできないが、印象としては通常のTescoの商品より20−30%程度安い。
但しAldiやLidlよりも安いかと言われると、若干高い印象である。

【試食をした3品】

Jack’sのPB商品は、写真にあるサンドイッチやポテトチック、ショートブレッドなどを食べてみたが、通常のTescoのPB商品とは明らかに味が異なる。感覚的には、Tescoの低価格PBラインよりも味が劣る印象だった。
それはマズイというよりも味が足りない感じで、料理のときに調味料を1つ入れ忘れたような味だった。しかしパッケージの品質は高く、外観が崩れたり傷んだりしていることはない。ここはAldiやLidlとの差を感じた。Tescoの通常のPBの商品を作っている工場で、原材料を減らして作ったという印象(あくまで筆者の印象)の商品だった。


その他店内の写真

【野菜/果物売場 エコストアを転用しているので、集積材の柱や明かり取り用の天窓、冷ケースの冷気を空調に使うダクトなどが見える】

【冷凍食品ケース横の加工食品】

【PBのオムツ】

【オーラルケア/ヘアケア商品売場】

【サニタリー商品売場】

【見たことのあるようなデザインのPB商品が並ぶヘアケア売場】

以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?