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記憶にはいつもミュージアムショップがある

名古屋市科学館のミュージアムショップが閉店する。

それは寝耳に水の出来事だった。

名古屋市科学館のミュージアムショップとの出会いはもう二十年以上前のことだ。まだ旧館だったころ、入り口付近に設けられていたミュージアムショップに売られているものはどれも魅力的だった。幼少期のわたしはそこで散々迷った挙句、ぐねぐね曲がる蛍光黄色の星型鉛筆を祖父に買ってもらった。さっきまでプラネタリウムでみていたお星さまを手に入れたみたいでとってもうれしかった。それ以来、科学館を訪ねたら最後にミュージアムショップに立ち寄ることが無意識のうちにルーティンとなった。

そしてそれはいつしか名古屋市科学館に限った話でも、科学館に限った話でもなくなった。博物館での特別展の物販コーナーや水族館のショップ、美術館のカフェなど、併設されているショップやカフェにいくことは私にとって展示をみにいくことと同じくらい楽しみなことになった。

昨年、大英博物館を訪れたときに驚いたことがあった。それは展示室以外の施設の充実度。ミュージアムショップはもちろん、そこらかしこにカフェがあり、アフタヌーンティーをたのしめるレストランやダイニングバーまで併設されていた。さすが世界最大級の博物館。観覧者が一日かけて楽しめるようにという気遣いと、売上の一部を実質入場無料の博物館の運営費にあてるという一石二鳥の仕組みらしい。それにまんまとのせられた私は館内のカフェでピラミッド型の焼き菓子とフラットホワイトを楽しんだ。黄金色をした四角錐の焼き菓子をみて、隣に座ったマダムが「So Wonderful!」と声をかけてくれたことは私にとって大切な大英博物館の思い出のひとつだ。

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ピラミッドを模したココナッツケーキ

7月、京都にリニューアルオープンした京セラ美術館にいった際も併設されているカフェを訪ねた。展示されている日本画、上村松園の「待月」をモチーフに京都の和菓子屋店が手がけた美しい和菓子と、薫り豊かなかぶせ茶を堪能し、ミュージアムショップで手に入れた杉本博司のポストカードを大切に鞄にしまって美術館をあとにした。ポストカードを見るたび、あの日のことを色濃く思い出す。

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上村松園「待月」をモチーフにした和菓子(京菓子司 金谷正廣/上京区)
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左端)杉本博司「瑠璃の浄土」のポストカード

私にとってミュージアムショップは、展示やミュージアムを完結させる最後の空間であり、展示を違った角度から楽しむ特設会場であり、展示で得た感動や思考した記憶を物という形に変えて持って帰ることができるなくてはならない場所だということをこの一件でつくづく実感した。だから今回一番お世話になっている名古屋市科学館のミュージアムショップが閉店してしまうことは私にとって大事件だった。思い出の場所がまたひとつなくなってしまうことに純粋にさみしいと思う気持ちと、自分にとってミュージアムショップってなんだっけ?と改めて考えさせられたので今回自問自答するようにnoteを書いてみた。

幸いにも今回の閉店は「一時」閉店ということらしいのでほっと胸をなでおろしているけれど、それが今話題の流行病のせいだとしたらもっとも改善してゆかねばならないことだと思う。通常営業を続けることのリスクと天秤にかけた上での苦渋の選択。その先の人を想うと心が張り裂けそうだ。今医療従事者でない一般人の私にできることは、流行病が日常になる日がくることを待つほかないという状況も非常にもどかしい。

だけど嘆いてばかりはいられない。待ってばかりもいられない。この間に、再開したばかりの大原美術館も行きたいし、北海道・藻岩のメガスターも観たい。今自分にできることはオープンになっているミュージアムへ万全の対策、体調で遊びに行くことだと思っている。

名古屋市科学館、ミュージアムショップ。
再開の暁には年パスを握りしめてアサラのぬいぐるみを買いにゆく。




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