ヴィンダウス・エンジン解題&感謝
『ヴィンダウス・エンジン』発刊後数日が経ちました。
多くの人が購入して感想をくれております。ありがたいことに概ね好評で、ダメ出しと言えば、選評にあったとおり理論的な裏付けに乏しいということでしょうか。
異論はないのですが、実は上梓された作品は、その選評を受けてかなり改稿されたものなので今の状態を同じ選考員が読んだ場合、違う感想を述べる可能性もあります。
もちろん力及ばず直し切れなかった部分もありますし、作家個人の拘りで手をつけなかった箇所もあります。たとえ限られた時間の中で、選考員や編集者のアドバイスをもとにかなりリフォームしてあるので、言い方は難しいですが選評を真に受けるのはちょっと実態とズレていると思います。
ぶっちゃけると選評に引っ張られてるんじゃないかって感想がけっこう多くてげんなりしてるぜってこと。嘘です。どんなにクソミソにされてもありがたいので好きにしてくれ。
Twitterにも呟いたのですが、SFや文学に興味のないリアルな友達が、義理で買ってくれたのにも関わらず、思わず引き込まれて面白いと言ってくれたことが何よりもうれしかったです。玄人の鋭い意見も有益ですが、普通の人の素朴な言葉にハッとすることもあります。
さて作中の元ネタというかインスパイア元を少し紹介させてください。
1 キム・テフンの兄の自死について。
ヘルメットをかぶったまま喉から脳天をライフルで撃ち抜くという死に方は韓国人から聞いたものでした。脳天に達した銃弾がヘルメットを内側から押し上げて顎のベルトで固定された首ごとすぽーんと吹っ飛ぶというのは事実なのかわかりませんが、そのような死に方がまことしやかに語られていたのは間違いないのでしょう。
2 強襲型仮想現実内の墓碑銘について
キム・テフンと羅宇炎らが戦う仮想現実上の墓石に彫られた墓碑銘にある「ジュール・ヴェルヌ」「エリック・ロメール」の二人は、小説家と映画監督の名前ですが共通するタイトルである『緑の光線(Le Rayon vert)』という作品を残しています。緑閃光(グリーン・フラッシュ)と呼ばれる現象をモチーフにした作品で後者の映画はヴェルヌの小説の映画化となります。ヴィンダウスのイメージカラーであるエメラルドグリーンにまつわる名前として登場させました。ヴィンダウス症の寛解時に垣間見るのはこの緑の閃光であるという設定です。
3 アーナンダ・マイ・マー
インドの寛解者であるマドゥ・ジャインはベンガル地方の聖女だったアーナンダ・マイ・マーの生まれ変わりとされています。この実在の女性については有名な『あるヨギの自叙伝』にも記載されています。その美しい人生の軌跡については多くの人に触れて欲しいものです。
4 心会掌
中国武術のひとつ。拳術の革命家と言われた意見の王向斎。その高弟である趙道新が創始した門派である。套路を排して站椿を修練として重視した意拳から站椿すらも否定したという話もある天才趙道新の思考がどんなものだったのかは彼の本である道新拳論などを読んでも測りがたい。この否定の否定とでも言うべき志向性はヴィンダウス寛解者の卓越性に相応しいとも思い採用させてもらった。もちろん趙道新がヴィンダウスの寛解者であるなんてことはありません。