故郷
思わぬきっかけで海外で過ごした時間があった。
土地の名前はほぼ聞いたことがなく、
検索しても生活は全く予想がつかなかった。
考えても仕方がないから旅立った。
幸い心の準備をする期間は十分にあった。
たどり着いた先はとても日差しが強く、
とても空が広かった。
何もかもが広く大きかった。
人々は人目を気にせず自由気ままに過ごしていた。
でも目が合うと微笑んだ。
少し困っていると通りすがりの赤の他人が
声をかけてくれた。
日本とは時差もあり孤独だった。
でもそれも乗り越えると、
とても居心地が良かった。
干渉してくるものは何もない。
色々と少し足りないくらいでちょうど良かった。
突然に日本から帰任辞令が出て、
人権を持たない人間の扱いを受けて帰国した。
何もない場所だからこそ飽きていた頃だったけど
本当に住み心地が良かった。
ただ残りの寿命を削るだけの生活だったけれど、
初めて生きることにストレスを感じなかった。
生きるのが得意じゃない人間かと思っていたが、
生まれた国を間違えたようだった。
もう帰ることはほぼ出来ないけれど、
間違いなく私の故郷と言える。
奇跡が起きるならあの場所に帰してほしいし、
そこに骨を埋めたい。
また生きる事にストレスを感じない時間を
ただ過ごしたい。