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業務ハックしてクビにならないために

 本記事は「GYOMUハック/業務ハック Advent Calendar 2019」にリンクされている記事です。つい先日、仙台からリモート参加したニワカです。よろしくお願いいたします。

■ 自己紹介

 はじめましての方ははじめまして。またお前かの人は毎度どうも。仙台でコーポレートエンジニア(=情シス・社内 SE )を生業としているふらふらと申します。

 ガチの開発から身を引いてもう 15 年位になります。技術そのものよりも「その技術で何ができるのか」「実践したらどうなるのか」という課題解決のほうが好きな性質なので、地方中小企業で社内 SE というのはある意味、天職だなあと思っています。

 どういう経歴でどういう考え方の持ち主なのかについては、下記を見てもらうのが良いでしょう。みんなで情シス!第4回でお話したときの資料です。

 なんのことはない、職歴の汚い「オッサン SE」です。タイトル通り業務ハックしたらクビになったというのが人生の特徴といえば特徴です。

 ああ、勘違いしないでください。

業務ハックするとクビになるリスクがあるぞ

 なんて阿呆なことを言うつもりはありませんし、古強者のように傷口を見せびらかして褒めてもらおうという魂胆があるわけでもありません。…いやちょっとは…ある…ありますともええ。

 いやそうじゃなくてですね。今回の話は、とても月並みですけど

業務ハックに挑戦したら、得るものがたくさんありました

っていう話をしたいのです。

■ どんな業務ハックをしたのか

 クビになった会社の「朝のオペレーション」を改善しました。それまでは、以下のようなオペレーションでした。

1) 0700 時に受注データを Web 画面からダウンロードします。
2) ダウンロードしたデータをリネームし、所定の位置に置きます。

 これを毎日 365 日、複数の取引先毎にたいしておこないます。

 それぞれの場所に置かれた受注データを基幹系が読み込むことで、商品のピッキング指示書が作成されます。それに従って配送先ごとに荷をつくり、決められたルール・ルートに則ってトラックに詰め込むというのが業務の流れです。

 つまり、この業務でミスが起こると、社内での作業はすべてやり直しになります。朝の遅れは昼受注にも夕方受注にも影響を与えてしまいます。つまり、一番大事な業務です。これが今までの「朝のオペレーション」。

 このデータを用意するためだけに、0645 時に出勤する「早番」と呼ばれる制度がありました。朝の忙しい時間、家庭となんとか折り合いをつけて出勤をし、眠い目をこすりながら作業します。だいたい 0715 時くらいに作業が終わり、0730 時になると、基幹系はそれらのファイルを読み込んで処理をし始めます。

 当たり前ですが、ここでのミスがめちゃくちゃ多かったのです。

 受注データのリネームをし忘れる・発注データを受注データとして食わせてしまう位は可愛いもの。ファイルの置き場所を間違えて、A 店からの受注を B 店のものとして正常に処理してしまったりすると阿鼻叫喚です。なにせ正常に処理されてしまうので、気づくのは納品時。お客様にしてみれば「今日から広告に出る商品が届かない!?」なんてことになり、大変な迷惑がかかります。

これぁヤバい。

なんとかせにゃ…ということで、私がやったこと。

 Python と Selenium でこの処理を自動化

 ザッツ・オール。たったそれだけです。

■ 効果

 それはもう劇的でした。

女性のみが課せられる「早番」という制度の消失
・ 現場のお姉さま達大歓喜
・ 現場のお姉さまの家族達にも大好評
・ じゃあこれも自動化できるの?という問い合わせ殺到
・ 狭い街なので「あそこの家の婿はすげぇ」と評判に
 ※ 娘の旦那は総じて「婿」と呼ばれる地域

 ごくごく簡単な、30 行程度のコードが一つの制度を破壊し、そこそこ多くの人を喜ばせることができました。

 田舎であるが故に、朝は特に忙しい女性。

 その女性が朝、家にいることができればその家族は楽になるわけです(女性の立場・地位のアレは田舎特有のアレなのでひとまずおいておきます)。「家のこともせずに働きに行くだなんて…」などと姑から文句を言われることもありません。保育園・幼稚園の送り迎えだって余裕を持ってできるようになります。業務ハック最高ですよね。

■ じゃあなぜクビになったの?

 単純に、「いろいろ壊しちゃった」からです。

1)「早番」という文化・制度の破壊
 コストはそのままになるべく従業員を「長く」働かせたい。そんな経営者は一定数います。同様に、従業員を道徳的・倫理的に教育し導きたいと考える経営者もいますよね。そういうマインドをもつ経営者からすれば、私は「せっかくつくりあげた都合の良い制度」を破壊した人間です。

2)現場のお姉さま&ご家族大歓喜
 実は私の上司に、基幹系をメンテしてくださる方がいたのです。よく止まる基幹系を、彼なりに必死に運用していましたと思います。
 ところが、都会(笑)から来た若造がサラッと調べてざっとコードを書いて、劇的な効果を上げてチヤホヤと褒められる。そりゃあ、面白くないでしょうね。…そう、私は上司のメンツを破壊した人間です。

3)じゃあこれも自動化できるのという問い合わせ
 これが一番大きかったのかもしれません。
 せっかく「マニュアル通りにやってくれる」ように育てた人材が「上司や社長の指示がすべてではないかもしれない」と考え始める。もっと業務が改革できないか、ハックできないかと「自ら考える」ようになってしまったのです。普通に考えればとても喜ばしいこと。
 ですが、経営者から見てみれば、私は「言われたことやってりゃ良い」という洗脳状態を破壊した人間です。

■ それでどうなった…?

 この成功の数週間後「自動化はやめる」というお達しが社長・部長より出ました(当時私は課長)。

 現場も私も大反発しました。

 ミスもバグも出ていない。実績は如実に出ている。ざっと試算しただけでも 45% 以上の実工数を削減できているのにも関わらず。何故、と色めき立つ私が聞いたのは、下記の言葉達でした。


「業務効率が上がったことは評価する。だがしかし、」

「受注データをいただくのにコンピュータに任せきりというのはどうか」

「早朝に来て、陽の光を浴びて感謝しながら作業をすることに意味がある」

「お前は(雑誌名)や(冊子名)で何を学んでいたんだ」


 その数日後に私は社長に呼び出され「会社をやめてくれないか」といわれることになるのです。

■ 何を得られたの?

 職、プライド、そして自信を失いました。その一方で何を得たのか。端的に言えば、

 業務ハックの影響力は凄いという体験

です。

 だって考えても見てください。30 行のコードで田舎の会社をガラリと変えることができたんですよ?雑に調査し、トラブル頻発箇所に対してパッチ的なプログラムをあてがうという雑な「Hack」で忌むべき制度を消し、文化を壊し、円満なご家庭の運用を実現できたわけですよ。スゴイですよね!

 ああ、違いますよ。「こんなハックした私スゴイ」なんてどうでもいいことを言いたいのではありません。

 業務改善・業務ハックをすることでこんなことも起こせる

 これって凄いことですよね、ということを声高に言いたいのです。

■ クビにならないために

 「業務ハックが成功すれば、評価される」わけではないことを肝に銘じておく必要があります。地方の中小企業では特にです。成果を上げるというのは良いことです。ですが、良いことが正しいわけではありませんし、正解ではないのです。

どんなに筋が通っていても、
どんなに技術的に正しくても
どんなに流れ的に正解に近くても
どんなに想いを乗せていても
どんなに有効な施策だったとしても

 業務ハックを「今は」やらないという選択肢も、一応は持っておいてください。なあに、いつかそれが必要な時がぜったいに来ます。

 攻めるだけが業務ハックじゃない。雌伏することも、業務ハックのひとつ。「業務ハックしくじり先生」からは以上です。

■ 最後に

 地方には、業務ハッカーが圧倒的に足りません。地方こそは業務ハッカーのブルーオーシャンです。

 東京でイケイケのハックをするのも良いでしょう。泥臭いけれど、同じ会社の仲間の生活を変えるくらいの、ヒリヒリした業務ハックがやりたいなら地方がおすすめです。きっとエキサイティングな毎日が送れます。

まあその、クビになっちゃったりはするかもしれませんけど(苦笑)

(了)


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