【役員コラム】「『炭鉱のカナリア』を探して」 取締役/長谷川 拓
今回の投稿は、最高執行責任者の長谷川拓さんによるコラムです。過去のご経験から、長谷川拓さんにとっての「マーケティング」について執筆頂いております。
※この記事は、2022年にバリューコマース社内報に掲載された記事を編集して転載しています。
「炭鉱のカナリア」を探す人生
僕の社会人人生は「炭鉱のカナリア」を探す人生です。「は?」という感じですが 今振り返るとそう言えます。
「炭鉱のカナリア」ってご存知ですか?
自分も勝手に師匠と崇めているプランナーの方の本で知ったのですが、炭鉱で最初に縦穴を掘るとき使われる方法なのです。炭鉱夫の手に長いロープとカナリアの入った鳥かごがつるされ、縦穴に下ろされる。毒ガスがあれば、人より先にカナリアが失神し、毒ガスに気づくことができる。というものです。
なんだか残酷な感じですが、その方はこのようにおっしゃっていました。
なるほどなあと非常に共感した記憶があります。そしてそれは今に至るまで自分のサービス・事業に取り組む軸となっています。今日はそんなお話です。
マーケティングを追い求めて
自分の職歴を話しますと、社会人人生はタイヤメーカーのエンジニアから始めました。その後、流通業のマーチャンダイザーで商品開発を担当し、インターネットの世界でEC企画・事業開発、そしてマーケティング会社経営者(今ここ) という感じです。
話は遡ること30年前。タイヤメーカーエンジニアの頃、自分にとって衝撃的な出来事がありました。
当時自分は 研究所からテストコースに通い、来る日も来る日もテストコースを走りながらタイヤのある技術の研究をしていました。その技術を伴うとなぜ性能が上がるのか?を可視化して「事実」を突き止める役割でした。
ところが、一向に研究成果が上がらず、「事実」が突き止められずに時間が過ぎていきました。
そのうち販促部門が痺れを切らしてあるキャッチコピーで売り出したところ爆発的に売れたのです。自分は衝撃を受けました。人は「事実」ではなく「コトバ」に踊らせられるのだ!と。
その自分的な大事件を受けて転職しました。「俺はマーケティングを追い求める旅に出るのだ!」と。(そのころはまだマーケティングの意味をよく分かってなかったわけですが。)
以来、自分は 「人を行動に起こすツボ」を押すにはどうしたらよいのだろうと考え続け、サービス、事業にかかわっています。
「マーケティング」とは 「人の気持ちを知ること」
我々の会社もある意味「マーケティング」の会社です。しかし、我々が関わっているマーケティングは、マーケティング活動の中では ほんの一部にすぎません。
自分は「マーケティング」とは 「人の気持ちを知ること」だと捉えています。
もっと具体的にいうと
└①人の気持ちを知ること
└②それを言葉にすること
└③言葉をカタチにすること
└④できたカタチを ふたたび言葉で人の気持ちに訴えること
ということかと。(MBAコースでは教えない創刊男の仕事術 日経BPマーケティング出版 くらた まなぶ著 から一部引用)
この一連の役割をメーカーなどのサービス提供会社、サービスを販売につなげる商流や物流を支えている流通会社、それをユーザーに伝える宣伝会社など、様々な会社の人がかかわって一連のマーケティング活動をしている訳です。
バリューコマースも「正しく情報をつないで 流通に貢献したい」と考えている訳ですから、そこにかかわっているお客様やユーザーのニーズって知りたいですよね。しかし、その人たちに直接「ニーズはなにか?」「課題はなにか?」と聞いても本質的な答えは返ってこないでしょう。
米自動車会社フォードの創設者のヘンリー・フォードも言っています。
「もし顧客に彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと早い馬が欲しい』と答えていただろう」 と。
すなわち、我々がサービスを提供していく以上、顧客の中にある、顧客が気づいていない 深層心理の課題について理解しないと、効果的なサービスを作り顧客の課題を解決するに至らないわけです。そして間違って「早い馬」とか作っちゃうわけ。
このあたりは、いろいろな本でも書かれていますが「インサイト」であり、「人を動かす隠れた心理」とも言うのでしょう。『「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方』 (宣伝会議 大松孝弘、波田浩之著)
「炭鉱のカナリア」に聞く
ここで、前段の「炭鉱のカナリア」の登場です。
顧客のニーズを知りたい。でも 直接聞いても教えてくれない。なんなら顧客自身も気づいてない。
でも 我々は顧客の心の奥の奥にあるインサイトを知りたいわけです。
そこに可能な限り早く近づくためには「炭鉱のカナリア」に聞くことです。
もちろん「炭鉱のカナリア」も ドンズバの顧客の課題は言ってくれません。ただ、ヒントはたくさん教えてくれます。そんな「炭鉱のカナリア」のような人が取引先や友達や家族の中にいるはずです。そんな「炭鉱のカナリア」をみつけたら、いろいろ話を聞いてインサイトの引き出しを増やしていきましょう。
バリューコマースが置かれている事業環境は変化が激しく、既存の事業もあっという間に陳腐化していきます。新規サービス、価値をどんどん生み出していかないと生き残れないのです。そのためにも、「炭鉱のカナリア」から得たインサイトの引き出しがどれだけあるか?がポイントです。
幸いながら、バリューコマースはここまで20年以上事業を行ってきて、顧客もそれなりにいます。業界にも取引先にも知り合いがたくさんいます。昨日始まったベンチャー企業よりも話を聞く上では圧倒的に有利です。
ぜひ、「炭鉱のカナリア」探して、そしてなんならあなた自身も「炭鉱のカナリア」になって、新しいインサイトと それに対する新しい価値創造につなげていきましょう!